第24話 砦(2)
事前に打ち合わせていた通り、名乗りを上げるのは僕の役目だ。なぜなら、今、僕らは一家であり、その家長は僕ということになっている。
「あの村は賊にやられたと聞いたぞ」
これも想定問答。
「わしら、炭焼き。ちょうど一家で森の焼き小屋にこもってた」
木炭は大事な換金商品だ。ダルドの話だと、あの村が裕福なのは塩ではなく、炭を出荷していたということに表向きはなっていたそうだ。
実際、塩井の近くでは偽装のための炭も焼いていたとか。
「領主様の采配を待った。その間、再建と冬支度をしていた。魔物、いっぱい出た」
「助かったのは運がよかったな。所定の場所に行け。倉庫の中身は、すまないことになった」
中に入ると、昔は内側にも城壁があったり、天守など構造物があったらしい。高さはまちまちだが、腰の高さから砂に埋もれたものまで壊れた土台が多数残っている。
中央に割合大きく立派なロッジが建っていて、それは駐屯部隊の宿舎なのだそうだ。そしてあちこちに物置小屋にしか見えない小屋が散見される。いくつかの小屋の周りにはよその村人の姿もあった。
「こっち」
またクルルにぐいと引っ張られた。案内しているのはダルドだ。ここには何度か親についてきたことがあるらしい。
で、我らが村のものらしい小屋は扉が開け放たれ、中身はほぼ空になっていた。
門の兵士の言ったのはこのことだったか。
倉庫の奥には、徴発を行った誰かが残した厚紙が打ち付けられていた。推測するに、ただ略奪されたというのではなく正当性をもって徴発したという主張なのだろう。正当性があるから、訴えても無駄だと。
持ってきたものでなんとかするしかなかったが、実は一番ありがたかったのが、施錠できる屋根があるということだった。さすがに煮炊きは外でやらないといけないと思うが、一番危険な夜を比較的安心してすごせる。
鍵は、村にあったものと、ここの衛兵が預かっている予備。それがあったからあっさり徴発されてしまったのだろう。衛兵が悪事に加担しなければまずは安心というところだ。
荷ほどきをしていると、門にいたのと別の衛兵三人と、どこかの村の代表らしい数人の年配の男性がやってきた。そろそろ夕方で最初の夜に備えていろいろ準備したい頃合いだったが、情報を交換したいというのと、ここでの避難生活についての取り決めの説明をしたいと言われては断れない。それに、三人の衛兵で髭をたくわえて一番偉いと思われる人物は「●●●」だった。アストラル体の大きさはクルルを少しこえるくらい。今の僕とたぶんほぼ同じ。そしてあれにアストラルまとわされたらやばいと思える立派な大剣を背負っていた。リーチのない棍棒や強度のあやしい槍じゃとうていかなわないだろう。
クルルたちの村は、賊に全滅をくらった三つの村の一つだったので、生き残りがいたことにみんな驚いていた。彼らの中にはダルドと顔見知りの者もいて、村長とその妹婿に起こったことを聞いて同情を隠さなかった。
これで設定が少しかわった。僕とクルルが夫婦の設定はそのままだが、二人とも「●●●」なので子弟の護衛を任されたのだということになった。ここはクルルがすばやく調整してくれた。
あとはまぁ、ほぼありのままに説明するだけですんだ。ミノタウロスもどきなどの大きな魔物の話をすると、彼らは一様にざわめいた。
こうなると、途中でみた避難民の全滅跡の話もしておかないといけない。
数日前に避難民が賊に襲われ、その遺骸を魔物に食われたということに彼らは衝撃を受けた。
「賊は戦争の後のどさくさに解雇された傭兵かなんかが、と思っていたが」
「あれからどれだけたってると思う」
「どうなっているんだ」
「やはり領主が定まらないことに」
情報量が一気に増えた。
「領主さま、まだきまってないのですか? 」
衛兵のリーダーに聞くとため息が返ってきた。
「勝った側にいたミヨルド家の分家と、お館様をうちとった成り上がりの間でずっと争っていてな。国王陛下は関係者で話し合えといって逃げておるし、両者一歩も引かないありさまでのう」
正直、迷惑だ。
「治安を守りたくても、わしらが一時的に国王隷下となって担っておるが、なんせ負けたせいで人数は減っておるし、補充も応援もないし、給料でさえ都度請求せねば支払ってくれぬ状態ではここを守るのが精いっぱい」
しかし、この窮状を放置していていいのだろうか。国王の面子の問題にならないだろうか。
「陛下は優柔不断なお方と言われてるからのう」
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