第5章:対峙
雨の降りしきる中、美憂は車を走らせていた。ワイパーが必死に雨を払いのける音が、美憂の高鳴る鼓動と重なる。
「琉花ちゃん、お願い。そこにいて……」
美憂は祈るような気持ちで呟いた。
車が目的地に近づくにつれ、道は険しくなっていった。急カーブが続き、両側は深い谷になっている。美憂は慎重に運転しながら、琉花の姿を必死に探した。
そして、ついに見つけた。
崖っぷちに立つ小さな影。間違いなく琉花だった。
美憂は急いで車を止め、琉花に向かって走り出した。
「琉花ちゃん!」
美憂の声に、琉花はゆっくりと振り返った。その表情には、驚きと悲しみが入り混じっていた。
「美憂……さん? どうして……」
「琉花ちゃん、もう大丈夫よ。一緒に帰りましょう」
美憂は優しく語りかけた。しかし、琉花の目には涙が溢れ始めていた。
「帰れないよ……私には居場所がないの。この力のせいで、誰も私を理解してくれない」
琉花の叫びと共に、周囲の木々や岩が宙に浮き始めた。琉花の感情が爆発し、能力が暴走しているのだ。
美憂は恐怖を感じながらも、琉花に近づいていく。
「違うわ、琉花ちゃん。あなたには居場所がある。私がついているわ」
「うそよ!」
叫びとともに飛んできた石が美憂の肩をかすめる。その華奢な肩に血がにじむ。
「!」
琉花は美憂を傷つけてしまったことに、ショックを受けた様子だった。
「大丈夫よ、琉花ちゃん。あなたがほんとうは優しい子だって、あたし、わかってるから……」
美憂は傷も気にせず、さらに琉花に近づいていく。
「でも……私……」
琉花の声は震えていた。
「琉花ちゃん、聞いて。あなたはひとりじゃない。私がいる。私たちは似ているのよ」
「似てる……?」
「そう。私も両親を早くに亡くしたの。孤独だった。でも、図書館があった。本の中の世界が、私の居場所だったの」
琉花の目に、少しずつ光が戻っていく。
「私も……図書館が好きだった」
「そう。じゃあ、これからは一緒に図書館で過ごしましょう。あなたの力は、人を傷つけるためじゃなく、人を助けるために使えるはずよ」
美憂の言葉に、琉花の周りが淡い光に包まれ始めた。宙に浮いていたものが、徐々に地面に落ちていく。
琉花は美憂に駆け寄り、抱きしめて泣き崩れた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
美憂は優しく琉花の頭を撫でながら言った。
「もう大丈夫よ。一緒に帰りましょう。私たちの家に」
琉花は顔を上げ、美憂を見つめた。その瞳には、もう迷いはなかった。
雨は静かに上がり、二人の周りを柔らかな光が包んでいた。それは、新しい人生の始まりを告げるかのようだった。
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