第2章:闇の兆し

 秋が深まり、木々の葉が色づき始めた頃。美憂と琉花の交流は日に日に深まっていった。


「美憂さん、この本面白かったです」


 琉花は『狂乱廿四孝』を返却しながら、少し照れくさそうに言った。


「そう、良かった。私も大好きな作品なの」


 美憂は優しく微笑んだ。琉花の表情が、最初に会った頃よりも明るくなっているのを感じ、心からうれしく思った。


「ねえ、琉花ちゃん。よかったら今度、一緒にお茶でも飲みに行かない?」

「え? いいんですか?」


 琉花の目が輝いた。その反応に、美憂は琉花の孤独を改めて感じ取った。


 しかし、そんな穏やかな日々とは裏腹に、町では奇妙な事件が続発していた。


「また盗難事件か……」


 美憂は新聞を眺めながら眉をひそめた。ATMからの不可解な現金盗難、美術館からの絵画の消失。そして、それらの現場近くで目撃される謎の少女の存在。


「まさか……」


 美憂の頭に、ある考えが浮かんだ。これらの事件と琉花の能力が関係しているのではないか、と。


 その日、琉花が図書館に来たとき、美憂は思い切って問いかけた。


「琉花ちゃん……もしかして、あなたには特別な力があるの?」


 琉花は一瞬、驚いた表情を見せた。しかし、すぐに取り繕い、何も答えずに立ち去ってしまった。


「琉花ちゃん……」


 美憂は琉花の背中を見送りながら、複雑な思いに駆られた。


 その夜、美憂は自宅で琉花について調べ始めた。ネットや新聞の過去記事を丹念に探っていく中で、衝撃の事実を知る。


 琉花は両親を事故で亡くし、親戚の家を転々としていたのだ。


「そうだったの……」


 美憂の胸に痛みが走る。琉花の孤独な表情の意味が、今になってよく分かった。


「でも、だからといって……」


 美憂は琉花の能力と町で起こっている事件との関連を、完全に否定することはできなかった。


「どうすれば……」


 答えの出ない問いに、美憂は深い溜息をついた。窓の外では、冷たい雨が静かに降り続いていた。

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