第4話
祉湧さんが卒業し接点こそ薄くなったものの、私達の関係は続いていた。でも、日が過ぎていくに連れて私は不安を感じるようになってしまった。想いが一方通行になることを恐れたのだ。私が二年生になった時、谷口が熱心に話しかけて来るようになった。思えば、私が祉湧さんと付き合う前に、谷口から告白されたことがあった。それから半年後の学校祭、私は谷口と一緒に学校祭を見て回る約束をした。谷口の熱意に向き合って、私は心が傾いてしまっていた。
『舞野が好きだ』
学校祭が終わり、皆は続々と下校している時、谷口は緊張した面持ちでそう告げた。
『………』
何の言葉も返せない。こんな中途半端な気持ちで、応えられない。暫しの沈黙が続いた。ただ、夕陽が辺りを包んでいる。次の瞬間、
『梅香ちゃん』
思わず私は振り返っていた。祉湧さんが近づき、私の手を取る。谷口が何か言ったけど、祉湧さんは何も言わず歩き出した。言葉も出さずに、私は引かれている手を見つめていた。
祉湧さんが立ち止まって、こちらをゆっくりと振り向いた。半年前の卒業式がリフレインする。
『……話したいことがあるんだ』
祉湧さんの瞳には、淡く消え始めた夕陽が鈍く映っていた。
『俺と別れて下さい』
幾ら瞬きをしても、彼の真剣な眼差しは綻んでくれない。
『距離があると思ったんだ、物理的なものだけじゃ無くて………さっき、告白されているのを見て思い知らされた』
彼に向ける視線は揺れていて、そのとき、私は小さく首を振っていることに気づいた。
『俺は、梅香ちゃんが好き。それは変わってない…でも、きっと……俺の番じゃ、ないんだね』
不透明な心の奥が、ひっくり返されるような気がした。寂寥と哀惜が止めどなく押し寄せて、目の奥が熱くなるのを隠すために、首を傾け目線を逸らした。
何故か、私の中にはただ一つの返事しか残っていなかった。祉湧さんが振り絞った言葉に、こたえられる返事を、それしか持っていなかった。
『…今まで、有難うございました』
ー最後にそれだけ呟いた。
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