第24話 無茶なイチャつきは身を滅ぼすよ?

「丸川拓夢君。君の唯一にして、ただ一人の親友。そして、私の好きな人。彼から言われて、私は今あなたたちの前に現れたってわけ」


 ひょうひょうと、そして堂々と宣言する江良。


 そんな彼女の発言に、俺は……いや、俺と式乃は完全に面食らっていた。


「ちょっと待ってくれ。どういうことだ……? 拓夢に言われて俺たちの前にって……?」


「どういうことも何もないよ。言葉通り。丸川君は私のことを都合のいい女だと思ってるからね。宇波兄妹が織原さんに翻弄されてるから、私の人脈を使って助けてやってくれないか、って言われたの」


「……」


「何々? 別にそんな押し黙ることなくない? もしかして、私のことまだ疑ってる? だったら直接今丸川君に確かめてもらってもいいけど、授業中だよね? それもちょっとできないか」


「疑うというか……素直に失礼なことを考えてた」


「失礼なこと? 何? 私はメガネを付けてない方が可愛いってことかな? よく言われるんだけど、コンタクトレンズ付けるの怖くてさ。それでこのスタイルなんだよね」


「ち、違うよ。そういうことじゃなくて……」


「あれ? 違った? じゃあ、何かな?」


「拓夢、あいつ割と陰でモテてんのかなって……」


 俺が探るように言うと、彼女は楽しげにクスッと笑った。


「さあね? どうだろう? でも、私が言うのも何だけど、表立って女の子からモテるタイプでもないよね。こっそり想われてるタイプだと思う」


「あんたは何で拓夢のことを……? あいつは確かにいい奴だけど……」


「そこまで君に話す必要あるのかな? 普通に恥ずかしいんだけど?」


「あ……あぁ……」


 確かにこの質問はいくら何でも踏み込みすぎか。


 反省。


「そもそも、好きになるのにそこまで深い理由っているのかな? 私はそこまで必要だとは思わないけど」


「いる。いるに決まってる」


 黙り込んでいた式乃が、か細いものの声を上げる。


「好きになるのに深い意味が絡まないなんて、そんなのあなたの想いが弱いだけ。少なくとも、私は違うもん……」


「へぇ。そっか。ふふっ。式乃ちゃんはそうなんだね?」


 言いながら、俺を見やってくる江良。


 意味ありげにニヤけているのが癪に触るものの、上手い返し文句が浮かばなかった。


 閉口し、俺は密かに唇を噛む。


「お兄ちゃん、君は幸せ者だね。式乃ちゃんとの関係、大切にしなよ?」


「……そんなの、言われなくてもだろ」


「ただ、皆が授業受けてる中、こうしてヤバいイチャつき方するのはやめといた方がいいね。深みに入り過ぎる交際はやがてその身を滅ぼすよ? 二人とも、ね」


「っ……」


「まったく。声を掛けるのだって一苦労だったよ。気まずい気まずい」


 話がどんどん逸れていってる気がする。


 俺は恥ずかしさを誤魔化すのも兼ね、強引に話題を元に戻した。


「俺たちのことはいいんだよ。話は、拓夢の使いで具体的にあんたが何しに来たか、だ。何なんだよ、ほんとにさ」


 うしろで式乃も頷いてる。


 江良は、やれやれ、と呆れるようにして返してきた。


「だからね、助け舟だって」


「それはわかる。そこから、具体的に何をしてくれるんだよ?」


「私の人脈を使って、織原さんからあなたたちを解放してあげる」


「……そんなの、たとえ人脈を使ったってあいつは……」


 苦々しく俺が言うと、江良は首を縦に振る。


「そうだね。一筋縄じゃいかない。彼女、聞くに結構君たちへ思い抱いちゃってるみたいだし」


「っ……」


「でも、何もできないわけじゃない」


「……?」


 俺が首を傾げると、江良は自身のスマホ画面を俺に見せつけ、


「既にね、一人めぼしい人とやり取りしてんだ。私」


「めぼしい人……?」


「織原恵美さんのお友達。菅井絢音さん」


「えっ……」


「今日の放課後、私と一緒に彼女とお話ししよう。結構面白いことになりそうだからさ」

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