第20話 守理の考え。杉崎の企み。
「メッセージ、杉崎君から来た……」
学習机の傍。
紫色のレースが付いたパンツを履いているだけの式乃が、俺のいる方、つまりベッドの方に振り返り、神妙な表情で言ってきた。
胸は腕と手で抱くようにして隠している。
俺は「え」と思わず口を開け、目を丸くさせるが、瞬間的に半裸の式乃から視線を逸らした。
ライトが付いている中、まじまじとはさっきまで見ていなかったんだ。
暗い中でやってたし。
「お兄ちゃん……これ……どうしてだと思う……? どうしていきなりこの人から……?」
「……メッセージの内容はどんななんだ? なんて送ってきてる?」
「……既読付けるの嫌だ……」
「トーク履歴のところさ、長押ししてみて? そしたら既読付けずに内容見ることができるから」
「え、そうなの……?」
「うん。やってみて?」
俺が言うと、式乃は一度こちらにやっていた視線を外し、スマホを見る。
それから、何か困惑したようにもう一度俺を見つめてきた。甘えるような、助けを求めるような視線だ。
「ん」
ほとんど何も言わず、俺は両腕を軽く広げてこっちへ来るよう促す。
すると、式乃は誘われるがまま、急いで俺のところまでやって来た。
俺は式乃をバックハグするような体勢。
後ろから手を回し、式乃のスマホを操作していく。
「なんか意外。式乃、SNSのこういう裏技的な手法知らなかったんだ」
「……逆にどうしてお兄ちゃんは知ってるの? なんかちょっと悔しい……」
「ま、まあ、それはネットで調べたら色々出てくるからね。それでちょっと知ってたっていうか」
絶対に言えない。
式乃が素っ気なかった時、ごくまれに送って来てくれるメッセージが嬉しくて、速攻で見たい気持ちを抑えた結果、この方法を知ることになったなんて。
「と、とにかくここをだな。こう……長押しすると」
「……あ。出てきた……」
「えーっと……? 何々? 『会って話したいことがある』……?」
「やだ。絶対会いたくないし、こっちは話したいことなんて一つも無い」
「待って式乃。まだ送られてきてる」
「……もういいよお兄ちゃん。そんなの読まなくていいから、式乃のこといっぱいぎゅーってして? メッセージ見てお兄ちゃんエナジーが少なくなった。供給が必要」
「……『君が嫌がるなら、こっちから会いに行く。大事な話があるんだ』……? は?」
「……ストーカーだよ……。お兄ちゃん、この人ストーカー化し始めてるよ……」
「確かにこのメッセは看過できないな」
強引にでも会いに行くってか。
話したいことがあるってのも気になる。
どんなことを式乃に言うつもりなのかはわからないが、妹の嫌がることを進んでしようとしているなら、それは止めないといけない。
少し探ってみることにした。
「……式乃。ちょっとこれ、返信してみてもいいか?」
「え……!? なんで……!?」
「いや、ここで無視したらどんなことを話そうとしてるのかわからないままになっちゃうからさ。不安な状態でいるのも良くないかな、と思って」
「えぇ……。でも、下手に返信なんかしたら逆に神経逆撫でない?」
「別に大丈夫だよ。そういうところは気を付けながら送ってみる。とりあえず既読は付けるよ。いい?」
「……う、うん」
不安そうな式乃をバックハグしたまま、俺はトーク画面を開き、杉崎君へメッセージを送り返す。
『ごめんなさい。その前に、話したいことが何なのか、具体的に教えて欲しいです』
簡潔に、さっぱりとした感じで送ってみたが……。
これはどうだ……? さっぱりし過ぎな気もするが……。
「速攻で既読付いた……」
「張り付いてたんだろうな。スマホ持って」
言うと、式乃はもぞもぞ動いて俺の太ももを触り、前からジッと無言でこっちを見てきた。
嫌なこと言わないで。
大方、そんな風に訴えてきてるんだろう。
密着してるんだし、口にしたかったらすればいいのに。
若干苦笑し、俺はスマホの方へ視線を戻す。
トーク画面には、効果音と共に新たなメッセージが送られてきた。
『付き合ってる時、言えなかったことがある。それを全部君に言いたい』
いや、今さらか。
思わず頭の中でツッコんでしまう。
「今さら……? 私、もうこの人の顔も見たくないのに……」
「……だよな」
「それに、今杉崎君と会ったりしたら、あの女も絶対ついてくる……。これ、罠だよお兄ちゃん」
「罠、か……」
「うん。そう。絶対そう。断ろ? 無理って送りたい。いいよね?」
「ちょっと待って」
少し考える。
罠か、と。
前も似たような状況があった。
俺と式乃が一緒にいたところ、不意を突くように織原さんと杉崎君は二人で俺たちの元へやって来た。
だったら、式乃が言うように今回もそのパターンであれば。
これはもしかしたらチャンスなのかもしれない。
「……式乃、会おう。杉崎君に」
「えぇ!?」
「俺も同伴で、だけどな。二人で一緒に会いに行くんだ」
「ふ、二人で……? お兄ちゃんと一緒に……?」
「うん」
妹の後ろで俺は頷く。
今度は迎え撃てる自信があった。覚悟も決まってる。
「四人で会話しよう。場所は……ファミレスとかでもいいかな。送ってみようか」
独り言ちるようにして言い、俺はスマホに文字を打ち込む。
式乃は不安げに弱々しく声を漏らしていた。
文字を打ち終え、送信する直前になり、俺は彼女の頭に自分の頬を軽く寄せる。
「大丈夫。安心して、式乃。俺に考えがある」
「考え……?」
「そう。考え。楽しみにしてて」
もう迷わない。ビビらない。
想いは式乃と繋がった。
あとは二人で会話の場に乗り込むだけだ。
「来てくれるといいな。織原さん」
不敵に笑みながら言う俺に対し、式乃は疑問符を浮かべながら見つめてくるのだった。
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