第11話 不穏な来客

 式乃と杉崎君が互いに軽い想いで付き合っていたことを知った。


 付き合うって言えば、大抵はほどほどに重い感情を交わし合い、二人でその仲を深めていくものだと思っていたんだけど。身も心も。


 でも式乃は、そうじゃなかったと俺に教えてくれた。


 式乃目線で言えば、俺への想いを忘れるために。


 じゃあ、杉崎君は?


 彼はどうして式乃との恋を軽いものとして済ませようとしたんだろう。


 自分の妹ながら、お世辞抜きで式乃は可愛いと思う。


 街で歩いていれば、誰彼が振り返るほどに。


 そんな式乃と付き合えたんだ。


 重い感情を向けて、絶対に手放さないって考えてもおかしくないはずなんだが……。


 不思議でしかない。


 むしろ式乃に対して『重たい』なんて言って振ったって言うし。


 うーん……。


「でもまあよ、どうであれ義妹ちゃんとはイチャコラできるようになったんだろ? ならもう色々深く考えることもねーんじゃねぇか?」


 昼休み。やや騒がしい教室の中。


 悩ましく腕を組んでいた俺に対し、目の前で椅子に座ってる拓夢が弁当を食べながら言ってくれる。


「……けど、気になるだろ。なんか訳があるんじゃないか、とか考えてしまうし……」


「考えすぎはよくねーぜ? 守理の弁当箱に入ってるあま〜い卵焼きみたいにゆるく生きねーと」


「……卵焼きは渡さないぞ。今日のこいつは式乃が作ってくれたものだ」


「ぬぁにぃ!? ちょ、マジか! よこせ! 俄然欲しくなった! お前らの愛を俺に引き裂かせろ!」


「やめといた方がいい。何が入ってるかわからん。あと、NTR同人誌の間男みたいなセリフ吐くのやめろ。俺はお前を●さなければならなくなる」


「っくぁ〜! てめぇ守理この野郎! さっそく美少女義妹とのイチャラブ見せつけてきやがって〜! くそ、くそくそくそぉ! 俺なんて毎日一人ベッドの上で悶々とするだけなのにぃ!」


「そっちの方が幸せな場合もある。誰かと関係を持てたからって幸せになれるとは限らないよ」


「けっ! カッコつけやがって! いいもん! アタイ、今日は家に帰ったら新作のエロゲやってヒロインの遊連ちゃんを愛でるし!」


「いいじゃん。平和そうで」


「うっせーよ! 何が『平和そうで』だ! 煽りにしか聞こえんわ! ふんっ!」


 言いながらさらに加速して弁当をバクバク食べる拓夢。


 それを見て、俺は苦笑した。


 煽ってる気なんてサラサラない。


「けど、人間関係に広がりが出れば、面倒なことも増えるってのは本当だ。織原さんと杉崎君、まだ俺たちに絡んでくる気満々だし」


「いいじゃんよ、別に。向こうもイチャラブしてんだろ? お前らもイチャラブ見せつけてやりゃいいだけじゃん。俺に見せつけたようにさ!」


「そんな一筋縄にはいかないんだよ。嫌な予感するし、変に刺激したらヤバいタイプだと思うから、織原さんって」


「へーへー、いいっすねぇモテ男さんは。俺からしたら織原さんなんなんてお近づきになれるだけで幸せだってのに」


「普通にしてる分にはな。ただ、敵に回せば最悪だ。それがわかった」


「何だそれ? はぁーあ。いいよなぁ。お前は委員会も彼女と一緒だから」


「だからそれがそれがよくねーんだよ」


「言っとけ言っとけ。ちくしょー」


 涙目になりながら弁当箱を空にさせる拓夢。


 そこから背もたれにもたれかかり、力無く天井を見上げた。


「はぁー……俺も美化委員入りてー……織原さんと交流してー……」


 何となく発せられた拓夢の言葉。


 それを受け、俺はピンとくる。


「いいな、それ。拓夢、お前も入れよ、美化委員」


「は? いやいや、もう委員は決定してるじゃん。途中参加とかあんまし聞かねーぞ? 部活じゃねーんだし」


「メンバー自体にはまだ空きがあるんだ。拓夢、確かまだどこの委員にも属してなかっただろ?」


「まあ、部活あるしな」


「いい機会じゃん。入れよ。入ろうぜ、美化委員」


「は、はぁ? だから俺には部活が……」


「ソフトテニス部だっけ? その部に入ってて女の子とお近づきになれるのか? ん?」


「うっ……」


「美化委員に入れば織原さんだけじゃなく、他数人の女子と会話できる。この機会、逃すべきじゃないと思うぞ?」


「う、うぐぐ……しかし……」


「青春したくないか? したいよな?」


「がっ……ぐっ……!」


「拓夢、俺と一緒に校内を綺麗にしようぜ!」


「あががが……!」


 揺れる拓夢を説得してる最中だった。


 こっちへやって来た女子に声をかけられる。


「宇波君、ちょっといい? 織原さんが宇波君に用事あるみたいだよ?」


「え?」


 言われ、教室の出入り口へ目をやると、そこには手をひらひらさせている織原さんが立っていた。

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