転校生
長谷川先生は連絡帳にも体育の授業中のことを書いていた。
お母さんには怒られそうだから見せたくなかったけれど、次の日お母さんの
またあのズレてる眼鏡をクイッとしながら『お家の人に連絡帳を見せなかったんですか?』ってにらまれるのが目に浮かんじゃうよ。
だから仕方なく見せたんだけど。
「はぁ……全くあなたって子は」
お母さんはあきれてたけれど、思ったよりは怒らなかった。
でも学校に家の本を持って行かないようにって約束させられちゃったよ。
「図書室の本でガマンしなさい」
「はーい……」
了解の返事はしたけれど、私は不満たらたら。
図書室には宝石に関係する本が二冊しかないんだもん。
宝石にこだわらなきゃ
それでもたった三冊しかないから、三年生になるころにはほとんど暗記しちゃうくらい読んじゃった。
五年生になって図書委員会に入った私は、すぐに学校司書の
『意見はいただいておくわね』
ってホンワカ笑顔で言われただけ。
色んな人の意見を聞いて、相談して決めるものだから約束は出来ないって言われちゃった。
だから図書室に新しい宝石の本が置かれるのは期待出来そうにない。
「明日から休み時間どうしようかな?」
ため息をついてなやむ。
昨日まではこっそり持って行った家の本を読んでいたんだけれど、それはもう完全に無理そうだし。
私は何度もため息をつきながら、明日からの休み時間をどうすごそうか考えていた。
***
そんな夜をすごした翌日。
「はい、みんなに今日から一緒に勉強するお友達を紹介します」
朝の会の合間に長谷川先生がメガネをクイッとさせて伝えてきた。
てか、いい
もうクセになっていそうだなってあきれていると、長谷川先生の「入っておいで」という声に男の子が一人教室に入ってくる。
サラサラなこげ茶色の髪と切れ長な茶色の目。
整った顔立ちは涼しげで、緊張なんてしていないみたいにスタスタと歩いて長谷川先生の近くに立った。
見た目はクールイケメンって感じなのかな?
恋バナ好きなクラスメートがヒソヒソ話している声が聞こえてきた。
「ねえ、かっこいいんじゃない?」
「だよね? 六年生の澪音くんとはり合えるかも!」
ザワザワとさわがしい中、先生が黒板に大きくふりがなつきで彼の名前を書いていく。
なんかすごい名前だな。
「永遠くんはお家の事情で先月引っ越してきたそうです。みなさん、仲良くしてあげてください」
「「「はーい」」」
「じゃあ永遠くんはあいてる席に座ってね」
「……はい」
転校生の自己紹介とかしないんだ? って思いながら永遠くんが近くに来るのを見ていた。
うん、となりに机が増えてるなーとは朝から思っていたけれど……やっぱりどう考えても永遠くんの席は私のとなりだよね?
「……初めまして、私は明護要芽。これからよろしくね」
私はロングボブで切りそろえた黒髪をゆらしながらイスに座った永遠くんに声をかける。
永遠くんと仲良くなりたいからというよりは、となりの席だからなにか言っておこうかなって程度なんだけど。
「え?」
下を見ていた永遠くんは、顔を上げて私を見ると軽く目を見開いて固まってしまう。
「っ! あ、えっと……よろしく」
たどたどしくあいさつを返してくれると、彼はすぐに顔をそらして黒板の方を向いちゃった。
その耳はちょっと赤いように見える。
ああ、またか。
って、私は心の中でため息をついた。
どうしてか私と初対面の人は男女問わずこんな態度をよく取る。
その後は大体素っ気なくなるか、逆にたくさん話しかけてくるか。
でも、最終的にはみんな同じ。
私の宝石好きを知るとあきれたりドン引きしたり。
柚乃や澪音くんみたいに面白いって近くにいてくれる人もいるけれど、そんなのは少数。
素っ気なくされるのも、話しかけてくれていたのにあきれて引かれるのも正直うんざり。
永遠くんがどういう人かは分からないけれど、私は
***
思った、けど。
さすがにこれは声をかけなきゃいけないよね?
五時限目の図工の授業中。
色んな場所から校舎を
私は人気のない校舎裏の花だんから見た校舎を描いていたんだけど、ちょっと前に早くも人気急上昇中の転校生・永遠くんがここを通りかかったんだ。
私を発見したとたん、ビクッと驚いてギクシャク変な動きをしていなくなっちゃったけれど。
で、そのときに落としたっぽいものを見つけてしまった。
地面に落ちた
そして開いた口から転げ落ちている直径二センチくらいの
これ、私が持って行ってあげないと永遠くん困るよね?
学校に持ってきちゃうくらいなんだから永遠くんの大事なものだと思うし。
もしかしたらすぐに気づいて取りに来るかもしれないけれど、地面に転がった
くぅーっ! 関わらないようにって思ったばっかりなのに!
でもこんなに綺麗な水晶玉、地面に転がったままになんてできないよ!
シャーペンの
石好きとして見すごせないもん!
私はそっと水晶玉と巾着袋を手に取って軽く土を
そうして水晶をよく見ると、あることに気づく。
「ん? この水晶玉、光ってる?」
光の
「……アイリスクォーツかな?」
アイリスクォーツっていうのはクラックっていうヒビが入った水晶のこと。
そのヒビが水晶の球の中で綺麗な虹色に
「でもヒビはないし……それに中にっていうより周りが光っているような?」
不思議に思って、私は手のひらにその水晶玉を乗せてみる。
軽くにぎってみたりして本物の水晶か確かめていたら、とつぜん頭の中に声が
『見つけた、声を聞くものよ』
「え!?」
ビックリして周りを見るけど誰もいない。
耳で聞こえたっていうより頭の中で声がした感じだし……気のせいかな?
「って、あれ? 光ってない?」
気のせいとしか思えなくて首を
え? なんで? 私なにかした!?
一瞬光っていたのは見間違いだったかもって思ったけれど、間違いなく光ってた。
なのに私がにぎってる間に光らなくなったとか……。
「うん、私はなにもしていない!」
実際変なことはしていないし、もしかしたら光ったり光らなくなったりする水晶なのかもしれないし!
自然と光る水晶なんて私でも知らないけれど、世界には不思議な石はたくさんあるしね!
私はなにもなかったことにして水晶玉を巾着袋に戻すと、永遠くんが行ってしまった方へ向かった。
「あ、ねぇ。永遠くん見なかった?」
「え? 見なかったけど……どうしたの?」
向かった先にはクラスメートの
ふわふわの髪をてっぺんでお団子にしている香ちゃんは、イケメン好きなのを
澪音くんにいつもキャアキャア言ってるし、今朝も永遠くんのことをカッコイイって言ってた。
「さっき、永遠くんがこっちの方来たときこれ落としたみたいなんだよね」
「ふーん……あ、良かったら私が永遠くんに渡しておこうか?」
「いいの?」
「もっちろん!」
元気よくうれしそうな返事をする香ちゃん。
永遠くんへ話しかけるきっかけになるかも! とか考えてるのかな?
まあ、永遠くんに関わりたくない私にとってもそれは助かるんだけど。
「じゃあお願いね」
そう言って香ちゃんに巾着を渡すと、私は肩の
まさか、とんでもない変化が私に起こっていたなんてつゆほども思わずに。
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