宝石アモル!〜呪いを祓う転校生〜

緋村燐

プロローグ

 綺麗にカッティングされた宝石は、キラキラ光を反射してたくさんの人を惹きつける。

 エメラルド、ルビー、それになんと言ってもダイヤモンド。

 宝石のきらめきに反応するように胸がときめく。


 体育の授業中、私、明護あけもり要芽かなめはこっそり持ってきていたコンパクトサイズの宝石図鑑を見てうっとりとため息をついた。


「原石も原石なりの魅力があるし、他のパワーストーンも好きだけど……やっぱり宝石のきらめきは素敵だよねぇ」


 研究され計算されたカッティング技術のおかげで、最高のきらめきをはなっている宝石たち。

 その写真を見ているだけで幸せな気分になっちゃう!


「本当、綺麗……」

「コラ! 要芽さん!」


 夢中になって見ていたら、とつぜん図鑑を取られた。

 ビックリして見上げると、担任の長谷川はせがわ先生がメガネをクイッと上げて眉間みけんにしわを寄せている。


「今は授業中でしょう? ちゃんと男子の応援おうえんをしてください」

「……はーい、すみませんでした」


 授業中に関係のない本を見ていたんだから自分が悪いのはわかってる。

 だから素直にあやまったのに……。


「しかも家の本を持ってきて……これは没収ぼっしゅうです。放課後に職員室へ取りに来てください」

「ええ!?」

「あと、体育が終わったらボールの片づけをしてくださいね」

「ええ!?」


 図鑑を返してくれないだけでなく面倒めんどうな片づけまで!?

 そんな! って悲鳴ひめいみたいな声を上げたけれど、長谷川先生は男子の試合に戻っちゃった。


 今日の体育の授業はバスケ。

 男女別で試合しているんだけど、試合していない人は応援するだけ。

 ヒマそうだなーと思って図鑑をしのばせてきたのが悪かったのか……。


「要芽ちゃんまたやってるよ」

「可愛いのに、ちょっとした問題児だよね」


 ちょっと離れたところから女子の笑いじりの声が聞こえる。

 問題児呼ばわりはちょっと不満ふまんだけれど、間違ってないからムスッとだまった。


「まったく、だから止めときなって言ったじゃない」


 そう声をかけてきたのは私の唯一ゆいいつの親友でもある鈴木すずき柚乃ゆの

 こげ茶のツインテールをらして、猫目を少し細めてあきれじりに笑ってる。

 たしかに授業前に柚乃にはそう言われたけどさ……。


「……バレないと思ったんだもん」

「いや、めっちゃ下向いてニヤニヤしてたし。気づかれないわけないって」


 言い訳じみたことを言うとつっ込まれた。

 そのせいでさらに私はムスッとだまってしまう。


 そんな私に柚乃は「今度こそちゃんと応援しよ」と男子の試合をうながした。


 みんなは普通に応援しているし、一部の子はシュートを決めた誰々がカッコイイなんて言ってり上がっているけれど、私は正直興味がない。

 私自身が運動苦手だからってこともあるけれど、やっぱり宝石やパワーストーンを見たりそれにまつわる本を読んでいる方が好きだし。


 だからこっそり図鑑持ってきちゃったんだけどね。


「でも没収された上に片づけしなきゃないなんて……サイアク」


 私はふてくされながら男子の試合をただ見ていた。


***


「ううぅ……柚乃の薄情者はくじょうものー」


 体育館に残った私は、文句を口にしながら一人でボールを片づける。

 何人かまだ体育館にいるけれど、先生が「ばつだから手伝っちゃダメよ」なんて言うから誰も手伝ってくれない。


 親友のはずの柚乃なんて。


「手伝えるわけじゃないし、私先教室戻ってるね」


 なんて言って早々に5-1の教室に戻っちゃうし。

 せめて待っていてくれてもいいじゃない!

 柚乃が悪いわけじゃないけど、うらめしい気持ちはなくならない。


 そんな私に声をかけてくる人がいた。


「あれ? かなちゃん? 一人で片づけてんの?」

「ん? あ、澪音れいんくん」


 声をかけてきたのは最上級生の三井みつい・ディア・澪音くん。

 お父さんが北欧系ほくおうけいの人らしくて、澪音くんは金髪碧眼きんぱつへきがん目鼻立めはなだちがハッキリしているイケメンなんだ。

 右目じりに並ぶ二つのホクロが特徴的とくちょうてきかな?

 スタイルも良くて、性格も良いってうわさの学校の人気者。


 そんな人気者の澪音くんは、なぜかよく私に声をかけてくれるんだよね。


「ちょっとね……罰だから一人で片づけなさいって先生が」

「罰ってなにしたんだよ」


 次の授業が体育なのか、体操着姿の澪音くんは苦笑いで聞いてくる。

 言いづらかったけれど、私はポツリと小さく答えた。


「ちょっと、体育の授業中に宝石図鑑見てただけだよ」

「くはっ! なんだそれ、でもかなちゃんらしいな! やば、面白すぎるっ」


 おかしそうに笑った澪音くん。

 ここで「うわぁ……」って引かない辺り、他のみんなとは違うんだよね。


 でもちょっと笑いすぎじゃないかな?


「はははっ! あー、オモロッ」


 お腹をかかえるほど笑う澪音くんにさすがにイラついてきたころ。

 やっと笑うのを止めた彼は、なぜか私の片づけていたバスケットボールのカゴから一つボールを取った。

 そのままシュッとゴールに向かって投げると、シュパッて小気味こぎみの良い音を立ててシュートを成功させる。


「きゃあ!」

「見た!? 澪音くんシュート決めたよ!」


 残っていた女の子たちの黄色い声が聞こえてくる。

 人気者の澪音くん、なにをしていても注目されちゃうみたい。


「よっしゃ! ど? キレイに決まったと思わない?」

「思うけど……」


 女子に騒がれるのにれているのか、澪音くんは彼女たちを気にもめずにドヤ顔をする。

 キラキラした青い目を見ればほめて欲しいんだろうなってのはわかるんだけど……。


「それよりもボール取って来て。せっかく全部カゴに入れたのに」

「うわっ、つれないなぁ。ちょっとはほめてくれたっていいじゃんか……わかってるよ、ちゃんと取ってくるって」


 ふてくされつつも元々取って来てくれるつもりだったのか、すぐに落ちたボールをひろいに行く澪音くん。


 シュートを決めてカッコイイとは思うけれど、それ以上に片づけの邪魔をされてムカッとしちゃったんだもん。

 ほめようなんて思えないよ。



 それにしても、なんで澪音くんは会う度私に絡んでくるんだろう?


 ひと月くらい前にひじをすりむいて、たまたま保健室にいた澪音くんが手当てしてくれた。

 先生がいなかったし、保健委員で慣れてるからって。

 その後くらいから会えばかならずと言っていいほど声をかけられてる。


 宝石のこと以外はごくごく平凡、運動は平凡以下。

 そんな私のどこが気に入ったのかな?

 ……もしかして心配されてる? 運動オンチでケガしやすいって思われてるとか?


 うーん……となやんでいたけれど、答えを出す前に澪音くんが戻って来た。

 ボールをカゴにもどす澪音くんを見て、聞いた方が早いなと結論を出す。


「ねえ、澪音くんはなんで私によく話しかけてくるの?」

「ん? そりゃあ、かなちゃんがカワイイからに決まってんじゃん。お近づきになりたいってやつ」


 女子が騒ぎそうな笑顔を浮かべてウインクをする澪音くん。

 でも私は他の女子とは違う反応をする。


「……いや、それ絶対違うよね? 澪音くん、私のこと面白がってるじゃん」


 ジトッと目を細めてにらみつけると、澪音くんはへラッとゆるんだ笑顔になった。


「あはは、バレた? まー、でもお近づきになりたいっていうのは間違ってないよ?」

「面白いから、なんでしょ?」


 呆れのため息をつきながらつけ加えると、「その通り!」とムダに元気の良い声が返ってきた。

 なんだかどうでもいいやって気分になって、私は澪音くんをムシしてボールの詰まったカゴを押しながらため息をつく。


「はぁ……早く放課後にならないかな?」


 さっさと宝石図鑑を返してもらいたいなぁと思いながら、私はボールを片づけた。

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