蒸熱の若人
Remi
蒸熱の若人
俺、
夢は魔術を使って世界をひっそりと裏側から守る
しかし、俺には大きな問題があった。
それは、俺の使える発展魔術が属性魔術の水だけなのだ。
水魔術でも秘匿守衛隊に入れないわけではない。
しかし、戦闘向きでないことも事実だった。
なので当然周りの大人の反応は…
「水属性しか使えないなら…秘匿守衛隊に入るのは厳しいと思うぞ…」
「無理に厳しい道を進む必要はないと思うぞ」
「魔術師といっても秘匿守衛隊以外もあるわ。いっそのこと通常社会で生きるのもありだと思うわ」
このザマだ。
しかし、爺ちゃんだけは別だった。爺ちゃんだけは俺の夢を応援し、新しい可能性を見せてくれた。
俺は絶っ対に諦めないからな!
〜〜〜
昼休み。俺は食堂で昼飯を食べている。今日頼んだのは日替わり魚定食。メニューは鯖の味噌煮だった。
やっぱり、鯖の味噌煮は美味い。まぁ俺は魚なら何でも好きなんだけどな。
あとこの学校の食堂は美味い。流石国立の学園、金がかかってるんだろうなぁ…
そんな美味い昼飯もあと少しになったとき、一緒のテーブルに座ってる友人が話しかけてきた。
「なぁ、次の授業って何だっけ?」
「専門実習。
「悪い悪い。毎回助かってますよ、
「はぁ…」
次の授業を忘れていたのは
少し馬鹿だが発展魔術の属性魔術を2つも使える優れた才能を持つやつだ。戦闘センスも良い。
羨ましい限りだ。
そして、毎回丁寧に次の授業を教えているのが
花乃は魔術薬学専攻で学年トップレベルの成績の頭脳派。おまけに魔術薬学の才能は高等部にしては飛び抜けているらしい。
それに発展魔術の草木まで使える。
そんな俺は魔道具学専攻。
でも俺も戦闘訓練受けたいんだよな…あれも実戦で使えれば更に良いものになると思うんだけどな…
実戦と言わずとも模擬戦闘ぐらいしたいんだけどな…
ぼんやりと食べていると賢登に肩をを掴まれる。
「何だよ賢登」
「澄お前…皿からだぞ?そんなに腹減ってんのか?」
そう言われて手元を見るともう食べ終わっていた。
道理で箸で何も掴めないはずだ…
「腹ペコなのは賢登君だけです。澄君…何か悩み事ですか?」
「誰が腹ペコだよ!魔術使うと腹減るだろ!なぁ澄!」
「あぁいや…考え事をしていた」
「何でも聞きますよ?」
「そうだ澄!何でも聞くからドンと来い!」
「いやぁ…戦闘訓練、俺も受けたいなって」
そう言った瞬間、2人の友人はやれやれと言わんばかりにため息をつく。
普通なら失礼な対応だ。だけど俺は何も思わない。
なぜならこれは見慣れたいつものことだからだ。
俺は事あるごとにこれを呟いてる。もう2人も聞き飽きただろう。
それでも毎回心配してくれる2人には感謝しかない。
「澄君、気持ちはわかりますが…やはり難しいと思います。そもそも秘匿守衛隊ですら活動が多くありません。なのでそれ以外の魔術師が戦闘訓練受けるのは…」
「そうだぞ。今は戦闘だけが魔術師の全てじゃないんだ。それにお前の魔術装備は凄いぞ?もっと自身持てって!」
「そうじゃねんだよぉ〜〜!!!というかお前が言うなぁ〜〜〜!!!」
俺は思わず賢登の肩を掴み、左右に揺らす。
本当にこいつは羨ましい。
しかし、八つ当たりであることもわかってる。
花乃が止めに入るので俺もすぐに止まる。
この光景も日常茶飯事だ。
「ところで、お前の卒業制作用って言ってたのどうなってるんだ?ほら、俺も手伝ったやつ」
「あぁ。順調なんだがな…やっぱり模擬でも良いから実際使ってみないと…」
「澄君ストップ。また同じことになるのでやめましょう。それに私たち食べ終わってますし、次は専攻授業なのでもう行きましょう。」
花乃が立ち上がる。
それを追うように賢登が立ち上がる。
俺も置いていかれるわけにもいかないので、2人を追う。
俺達は荷物を持ち、昼飯の食器を返却する。
そして食堂を出て、廊下を歩く。
大階段に出た俺達は自分たちの行き先を確認する。
「では、私は薬学教室ですので。」
「俺はシュミレーションルームだからこっちか。」
「俺は工房だからこっちだな。」
「じゃあまた次の授業で」そう言おうとしたとき、校内スピーカーから音声が流れる。
『只今、
スピーカーが静かになる。その代わりに周りが騒がしくなる。
この学校は日本の中でもトップレベルの大きさの地脈の合流地点に建っている。
だから今の時代でも、たまに人型になる澱みが湧いてしまうのだ。
「今日の戦闘訓練シュミレーションルームで良かったわ…」
「運動場でしたら影響が出ますものね。でも先生方は対処に当たられるので授業は…澄君?」
「俺…行ってくる」
「行くって…お前まさか!」
「あぁ。戦闘訓練が受けれない。なら今は実戦で使える願ってもないチャンスだ!」
俺は止めようとする2人の友人に荷物を預け、走り出す。
左手にはアタッシュケースを持って。
俺は自分の力だけでは秘匿守衛隊に入れないかもしれない。
だからこそ俺は自分が作ったこれを。
爺ちゃんが教えてくれた可能性を試したかった。
〜〜〜
C区画見張り台には既に何人かの教師が来ていた。
それに澱みと戦うなら学校を囲むように建てられている城壁を超えなければならない。
だからといって、諦める訳にはいかない。こんな機会はもう2度とないかもしれない。
俺は木の幹を使って見張り台から身を隠し、アタッシュケースを開ける。
そして中に入っている魔術装備「スチームギア」を取り出す。
俺は自分の可能性を、この装備の可能性を試したい。
俺はスチームギアを制服越しに腹に当てる。すると左端から魔力で帯が生成されて腹に巻かれた。
ここまではいつも試している。問題はここからだ。
まずは教師陣に止められずに壁の外に出なければならない。
だったらやり方は1つ。
俺はしゃがんで、両手を地面につく。場所はやや後ろ側。そして言葉を紡ぐ。
「地脈よ、俺に力を!水よ!俺の四肢から湧き出ろ!」
その瞬間、俺の体は宙を舞う。両手両足から魔力で生成した水を噴き出しながら。
ちょっとダサいけど、空をこうやってぶっ飛べば教師陣は俺を止められないはず。
現に教師陣は下に見える見張り台から俺を見て驚いている。
城壁を飛び越え、学園敷地外に出た。
そして地面が近づいてくる。
俺は何とか水で調節しながらダメージ無しで着地する。
数10m先にいる澱みがこちらに気づいた。そして向かってくる。
ここからが本番だ。気合を入れろ、水山 澄!
「魔力回路順転!スチームギア起動!接続詠唱、イグニッション!!!」
そう叫びながら左側のスイッチが真ん中にあることを確認し、右側のレバーを1回押し込む。
すると、真ん中の炉が燃焼を始める。
魔力は腹で生成して全身に回すもの。
だからこそスチームギアを腹に巻いて、俺の魔力回路と接続する。そしてギア内部に施した火魔術で俺の身体から吸収した属性を水に変質させた魔力を沸騰させ、魔力を増幅させる。
まず第一段階クリア。ここから温度が上がるまで待つ必要がある。
しかし、澱みは待ってくれない。
俺は澱みの攻撃を上手く避けて反撃をする。
一応澱みは魔力を込めた攻撃なら俺でも数発殴れば倒せるはず。
しかし、それでは時間がかかる。一体倒すのにどれだけかけるんだよ。
それに他の澱みが被害を及ぼす可能性がある。
だからこそ、このスチームギアがある!
ちょうどスチームギアも準備ができた。
上下左右についている排出口から魔力を多量に含んだ水蒸気が出始めている。中央下のメーターもMAXになっている。
俺は澱みから距離を取る。
さぁ…行くぞ!
「スチームアーマー、
その言葉と同時に右側のレバーをもう一度下に押し込む。
すると排出口から凄まじい量の魔力水蒸気が出て俺の身体を包み込む。
その魔力水蒸気は青いアンダースーツと赤い鎧に成って、俺の身体に装着される。
つまりスチームギアは俺の水に変質させた魔力を吸収して、増幅させて身を守る鎧を作る魔術装備だ。
これが俺が爺ちゃんがくれた設計図をもとに作った戦闘用スーツ、スチームアーマーだ!
澱みが飛びかかってくるのを殴り返す。よろめいたところをもう一発殴り、さらに蹴る。
するとその澱みは吹き飛びながら消滅する。
行ける、行けるぞ!
俺は襲い来る澱みを次々に殴って蹴って消滅させていく。
サクサク倒せる。生身とは比にならない。
これがスチームアーマーの力!
「ラスト1体!!!」と最後の1体に殴りかかる。
命中するも腕がしびれるような感覚。
硬いぞこいつ。こいつが
深澱みとは澱みの強い個体と授業で習った。
しかし、今の俺ならいける!
深澱みの反撃を受ける。澱みよりは痛いが受けれないことはない。
このスチームアーマーがあれば俺も戦える!
そしてまたとない機会だ。もう1つの機能も実験しよう。
俺は左側のスイッチを下げ、右側のレバーを下げる。
すると、真ん中の炉がさらに燃え盛り始め、4本の排出口から再び水蒸気が出始める。
しかし、深澱みは準備してる俺を気にせず襲い来る。
俺はそれを避けてもう一度距離を取る。
ちょうどそのときメーターが再びMAXになった。今回は早くて助かる。
深澱みはまた俺に向かってくる。
俺はもう一度右側のレバーを下げる。
深澱みが間合いに入った。
俺は右足を下げる。
行くぞ!
「スチーーーム………インパクト!!!!」
左足を軸に右足で回転蹴りを深澱みに叩き込む。
深澱みは吹き飛び地面を転がる。そして消滅した。
戦闘は終了した。
ひとまず俺は右側のレバーを押し上げ、スチームアーマーを消滅させる。
俺は澱みの群れを、このスチームギアを使って1人で倒したんだ。
俺だって戦える。これなら秘匿守衛隊に入るのも夢じゃないかもしれない。
俺はこの達成感と喜びのあまり、歓喜の叫び声をあげたながら地面に仰向け大の字に倒れる。
流石にスチームギアで魔力を増幅させてるとはいえ、魔力切れみたいだ。
ここも改善点だな…
だが、使えることは証明できた。次の課題も決まった。
万事オッケーだ!
笑い声が木々に反響して、空に響く。
しかしこの後、勝手に敷地外に出て澱みと戦闘した俺は学園長室に連れて行かれることになった。
蒸熱の若人 Remi @remi12
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