輝く星の闇

霧島輝海

輝く星の闇


この世の物事には、必ずきっかけがある。ほんの小さなことでも。

きっと彼も同じだったのだろう。


(一)


 僕の名前は、”池上哲哉”都内の会社で働いている。

僕には中学からの友人である”橘航大”という漫画家がいた。

彼とは、「タッちゃん」「テッちゃん」と呼び合うほど仲が良かった。

彼の代表作は「異形館〜七つの秘宝〜」という作品である。

この作品の内容は、「館の中で怪物がモチーフとなった各部屋で怪物と戦い秘宝を

集める」という、至って普通のバトルものだが登場する怪物の一体一体の

キャラクター設定が丁寧に描かれていて、それを有名な漫画家がSNS上で

「こんなに細かくするのは、作品に愛がある証拠」と

絶賛したことで注目を集めるようになり、彼の代表作にまで昇華した。

彼は、この漫画についてのインタビューにて

「これは僕にとって一番思い入れがあって構成にも時間がかかった作品

これからもこの感覚を忘れることはないまさに僕の人生」そう語っていた。


(二)


 その年の春、彼から突然連絡があった。

いきなりの連絡に少し戸惑ったが、久しぶりに彼と話せて楽しかった。

始めは、世間話に花を咲かせていた最近の仕事についての話をしだすと彼は、

「聞いてくれよテッちゃん実は俺、異形館が日本中央テレビで

実写ドラマになるんだ」

そう嬉しそうに報告してくれた。つい僕も嬉しくなり興奮気味に、

「良かったね、タッちゃん」そう彼に言った。

彼は続けて、

「しかも、撮影現場も見学させてくれるらしいんだ。

ディレクターが漫画の大ファンらしくて”ぜひ、次の作品の参考になれば”って」

それから、彼の話は止まらず脚本に彼も関わること、

ディレクターは今まで何本もドラマに携わってきた

”宮西大地”という人が担当だということ、

そして主人公の”アキラ”を人気俳優の”鈴木宏樹”が務めることも教えてくれた。

 それから約3ヶ月間で既に三体の怪物”ミステール”、”セクメト”、”フエゴ”の

撮影が終了していた。この三体はいずれも彼が考えた、

それぞれカナダ、エジプト、スペインの怪物だった。

8月からは、日本の怪物である「天賦」の撮影が始まろうとしていた。


(三)


 撮影は天賦の部屋は、神社がモチーフのため一番似ている僕たちの

地元にある”田門神社”で撮影が行われることになった。

休みで地元に帰ってきていた僕は、たまたま彼に会い

そのまま飲みに行くことになった。それから僕たちは、

昔から駅前にある”居酒屋 桜庵”という店で飲むことにした。

 飲み始めた頃、彼から仕事の話を振られた。

「最近さ、ずっと撮影で色んな場所回ってるから漫画も描く暇も無いんだよ

まぁしょうがないし、撮影現場の様子もしっかりメモしてるからネタに困ることは

無いだろうけど」彼は、少し悲しそうに言った。彼は続けて、

「テっちゃんは、最近どうなんだよ勝手に一人で先に東京に行っちまってさ」

そう僕の近況を聞いてきた、それに僕は

「やっぱり忙しいけど、好きなことを仕事にできて楽しいことも多いし、

東京は何でもあるから生活には苦労してないよ」

僕は、彼にそう最近の悩みや仕事のことを語った。

 二人でわいわいと楽しみながら飲み、二人共だいぶ酔った頃

僕はドラマのことを彼に聞いた、

「ねぇ、タっちゃんドラマの撮影どう?」

そう聞くとなぜか彼は静かになり、沈黙が二人の間に流れた。

(なにかまずいこと言っちゃったかな)

そんな不安が脳内を駆け巡ったところで彼は、その重い口を開いた。

「実は、俺さ天賦の撮影からなんか撮影現場に

入れてもらえなくなったんだよ、キャストが変わったとかの影響でね

理由を外部に情報を漏らしたくないんだろ」

そんなことを泣きそうになりながら、彼は言った。

そして彼は小さな声で、

「あいつらは、俺をいや俺たちをないがしろにしたんだ。絶対に許さない」

そうボソッと呟き、走って店を出ていった。

思わず、僕は

「どこ行くんだよ、待ってよタっちゃん」

そう叫んだ、でも彼には叫びは届かず他にいた客や店員の視線だけが刺さった。

彼を追いかけようと急いで会計を済ませ、店の外に出たがやはり彼の姿は無かった。

それからしばらく彼に連絡が全くつかなかった。


(四)


ー8月3日 午後23時35分頃 中川ホテル 107号室にてー


この部屋にいるのは、宮西大地が泊まっている。

部屋のチャイムを押すと、宮西が出てきた。

「先生、こんな時間にどうしたんですか?」

「宮西さんがここに泊まっていると聞いたので、少し話がしたくて」

「話ですか、いいですよ。明日は撮影がなくて暇なので」

話をしたいなんて、全くの嘘だった。

本当の目的は、この目の前にいる男を殺すことだ。

俺の存在を否定し、友人までも否定した男を。

冷静になっても許せない。許すことができない。

「どうぞ、上がってください。お酒でも飲みながら話しましょう」

そう言われ宮西が、部屋の方に体を向けた瞬間、ドッ、っと

鈍い音が部屋に響いた。俺は宮西を殴った。手に持っていた棒で。

不意を突かれたのか、宮西は声を上げることができなかった。

「何すんだよ!」宮西の怒りが込められた声をあげた。

だが、俺には不快な声にしか聞こえなかった。

俺は憎しみを込め何度も殴りつけた。

「俺はお前を信用して、作品を預けたんだ。それをお前はどうした。

お前は至らないことばかりしたんだ。自分から信用を捨ててまで

自分の利益のために、自分勝手なことをし続けた。

自分の過ちに気づいてるのか?お前と俺はもう取り返しのつかない

ところまで来てしまったんだ。誰のせいだと思っている。

お前のせいであり、俺のせいなんだ。お前は理解しているか?

残念だが、お前とは違う。俺は理解してるし、自覚している」

そういいながら、一心不乱で殴っていた。まだ宮西の息が

あることに気づくと、更に怒りが湧いてきた。自分をここまで

追い込んだ奴が生きている、という事実が気に食わなかった。

怒りに囚われたとき、机の上にナイフが置かれていることに気づいた。

普段から、宮西がキャンプで愛用している物のようだ。床に倒れている宮西を

尻目に、ナイフが置かれている机に向かった。ナイフを手に取り、

宮西の方に向き直った。気がついたときには、ナイフが宮西の胸に

吸い込まれていた。そして何度もナイフを宮西の体に突き立てた。

ようやく我に返ったとき、既に宮西は冷たかった。そんな惨状を

見ていたが、何も考えることができなかった。しばらくして、ただ一つ

(やっぱり、俺は愚かだ。こんな理由で人を殺したんだ)

自分自身の弱さに後悔していた。


(五)


 次の日の朝、あるニュースが流れた。

「本日未明、ホテルの一室で日本中央テレビのディレクターの

”宮西大地”さんが遺体で発見されました。

遺体の状態としましては、何度も棍棒の様な物で殴られ

その後、刃物で何度も刺された傷が残っていました。

現場には、犯人の物と思われる帽子が落ちていました」

そのニュースを見たとき、僕は急いで彼に電話した。

2コール、3コール、4コールと僕の携帯の呼び出し音が鳴る。

(出るわけないか)そんなことを思いながら携帯を見つめていた。

8コール、9コール、10コール、11コール目が鳴ったとき、

「もしもし?」と声が聞こえた。(電話に出た?)

少し震えながらもすぐ冷静さを取り戻し、

「もしもし、タっちゃんニュース流れてたけど

あれタっちゃんがやったわけじゃないよね」

僕は冷静さを取り戻したはずなのに、

気づいたときには僕の声は震えていた。

自分でも彼に対しての恐怖なのか、

それとも親友と呼べる仲の彼を疑ってしまっていることへの

罪悪感なのかわからなかった。

(なんでこんなに震えているんだろう)

そう思考を巡らせていると、彼が話しだした。

「もう正直に言うよ、あいつを殺したのは俺だ」

これを聞いたとき、なんとも言えない気持ちになった。

「やっぱりあいつが許せなかったんだ、”漫画のファン集めた”と言っておきながら

原作へのリスペクトが一ミリもない脚本の初期案、あれは俺が居なかったら

”実写ドラマ界のゴミ作品”だと言われそうなくらい酷かったさ、

キャストが変わったと俺は言った、あれは天賦の元々のキャストだった

”太刀川悠馬”が捕まったからだ

スタッフへの暴力が原因らしい調べたらすぐわかった」

彼は、それから撮影現場の劣悪な環境など様々なことを僕に話した。

終始淡々と話していたが、その中に怒りを感じることができた。

そして彼は一通り話した後、声を変えて

「あいつが一番わかっていなかったのは、漫画に出てくる

怪物で”天賦”だけは、実在するということだ」

そんな突拍子もないことを言い出す彼に

僕はただ、「え?」と返すほかなかった。

(タっちゃんは、なに言ってるんだ)

今度は、自分でもわかるほど震えていた。

「俺はあいつに言ったんだ、”この漫画は、大切に扱ってください

特に天賦は丁寧にお願いします”ってな」

そんな彼の悲鳴のような言葉が耳に入ってきた。

そして僕は、彼が居酒屋で呟いた言葉を思い出した。

(タっちゃんは”俺をいや俺たちをないがしろにした”そう言ってた。

なぜ、”俺”ではなく”俺たち”なんだろう)

言葉を思い出した僕は、彼に聞いた

「タっちゃん、一つ聞いてもいい?あのとき居酒屋でタっちゃんは

”俺をいや俺たちをないがしろにした”って言ってたけど

あれはどういう意味なの?」

そう聞くと、

「すまん、もう行かなきゃいけないまた今度話そう」

ツー、ツー、彼がそう言い、電話が切れた。


(六)


 あれからどのくらい経ったのだろうか。

少なくとも一週間は経っていたはずだが、

彼からの連絡も無く時間だけが過ぎていた。

外では、雨が強く地面を叩いていた。

 そんな雨の音に耳を傾けていたとき、

ブー、ブー、ブー、と携帯が振動した。

(誰かな)そう思いながら携帯を見た。

画面には、”タっちゃん”と表示されていた。

僕は急いで電話に出た。「もしもし、タっちゃん?」

そう電話に出ると、「もしもし、哲哉くんかな?」と、

弱々しい女性の声が聞こえてきた。聞いたことのある、

懐かしい声だった。(朝陽さん?)

 朝陽とは、彼の姉の名前だ。僕が中学生のときによく三人で遊んでいた。

とても優しい人で、今は教師をしていると、彼は話していた。

「哲哉くん、いま暇かな?」

聞かれた僕は、

「いえ、全然時間はあります」

そう答えた。すると彼女は、

「ちょっと航大のことで、話したいことがあって」

その言葉を聞いたとき、僕は良くない予感がした。

実際、その予感は当たった。

「実は航大が昨日、自殺したの」

聞いた瞬間、全身を針で刺される様な感覚が僕を襲った。

 自分でもわかっていたのかもしれない。

その可能性は考えたくなかったし、忘れようともしていた。

だが、現実はそんなに優しくも生ぬるくもない

そんなことを実感していた。

「哲哉くんは航大と仲が良かったし、それに」

そう言った後、朝陽さんは少し間を作り

「航大が”テっちゃんへ”って、書いた封筒を残してたの」

そう聞いた僕は、電話が繋がったまま家を飛び出した。

「今から家に向かいます」とだけ言い、電話を切った。

相変わらず、雨は降っていたが気にならなかった。

いや、気にする余裕さえ無かったのかもしれない。


(七)


 この漫画に出てくる怪物は全て”表現者”として、

主人公の前に立ちはだかる。例えば、”セクメト”ならば、

エジプト神話内において”戦の女神”とされていて、

作品内では”破壊の表現者”と表されている。

他にも、”モルテ”というイタリアの怪物は、”死の表現者”と表されている。

そして、ただ一体”幸せの表現者”と呼ばれる怪物がいることを。

そんなことを、彼からの手紙を読みながら考えていた。

 僕が彼の家に着き、呼び鈴を押すと朝陽さんが出てきた。

「突然、すいません」

何を言おうか迷っている内にその言葉が、最初に飛び出していた。

「全然大丈夫、気にしないで」

「それより雨に濡れて寒いでしょ、震えてる中に入って」

彼女の声は、電話のときと同じで弱々しかった。

僕は言われて初めて、自分が震えていることに気づいた。

 言われるがまま入ると、家の中には重たい空気が漂っていた。

湿気の影響でそう感じただけなのかもしれないが、

この家では昨日、人が亡くなっているのだ。無理もなかった。

リビングに案内されると、そこには彼の父がいた。

彼の父は、茂という名前だ。

昔、この家に遊びに来た際に一度だけ見たことがあるくらいだった。

その場には、彼の母の姿は無かった。後に聞いた話によると、

1年前に他界したようだった。僕は彼を見るなり、

「本当にすみませんでした。僕が彼をしっかり引き止めていれば、

彼を助けられたのかもしれないのに。僕の力不足でした」

僕は必死に、謝った。謝罪を彼は、目を瞑ったまま聞いていた。

彼はしばらくの沈黙の後、口を開いた。

「気にしないでくれ。あいつは”テっちゃんは一つも悪くない”と、

手紙に残していた。だから君はもう、自分を責めるな」

その言葉を聞いた僕は、涙が溢れ出していた。

ただ理由も無く、溢れてきたのではなかった。

(タっちゃん、なんで僕のせいにさせてくれないの?

どうみても僕のせいじゃないか。僕が止められなかったから、

僕にその勇気がなかったから。)

苦しかったし、この場から逃げ出したかった。

ただ、それすらできなかった。

 そんな考えが頭を支配したとき、

「君にこれを渡さないといけない」と、

僕の前に、二枚の封筒が置かれた。

一つは”テっちゃんへ”と書かれていた。

もう一つは”拓海さんへ”書いてあった。

(拓海?拓海って誰だろう?)

「これは、あいつが君に遺した手紙だ。読んでやってくれ」

手紙を受け取ると、礼を言いそのまま家に帰った。

家に帰ったのは、長居すると悪いと思ったから

 そして、彼の家族の前でもう泣きたくはなかったから。


(八)


 彼からの手紙の内容を、簡単にすると、

・天賦のモチーフは飯尾拓海という配信者。

・彼をモチーフにすることにしたのは、インタビューのとき。

・彼をモチーフにした理由は、彼が天才であり、天賦と呼ぶに相応しかったから。

・こんな別れ方なのは、僕と飯尾さんに会わせる顔がなかったから。

・これが彼なりの責任の取り方だったということ。

 この手紙を読んだ後、自然に涙が流れ、

そして悲しさと同時に悔しさが湧いてきた。

(タっちゃんは、こんなに苦しんでたじゃないか。

なのに、そんなことすらわからなかったなんて)

そんなことを考えていると、手紙の追伸を見つけた。

 ー追伸 テっちゃん、拓海さんにもう一つの封筒を

渡してほしい、これが最後のお願いだ頼んだよテっちゃん。ごめん

この文と共に、電話番号が記してあった。

(この番号に、かければいいのか)


(九)


 電話をかけると、2コール目で電話に出た。

「もしもし」

と、優しそうな声が聞こえた。

「初めまして、橘航大の友人の池上哲哉と申します。

飯尾拓海さんの電話で合っていますか」

「はい、合っていますよ。航大さんのことですか?」

彼は既になにか知っている、もしくは察している感じだった。

「そうです、実は」そう言いかけたとき、

「話さなくて大丈夫です。耳に入ってきましたし、

話すのも辛いでしょう。僕も聞いていて辛かったです」

彼はやっぱり知っていた。

「拓海さん、渡したいものがあるんです。航大さんから手紙を

預かっていて、それを渡したいんです」

「そうなんですか、わかりました。直接会って受け取りたいんです。

今はどこに居るんですか?」

「僕は今、実家にいるんです」

「近くに飲食店はないですか」

「あります、彼との思い出の店があるんです。

桜庵という居酒屋があるんです。そこで会いましょう」

「では、その居酒屋で話しましょう」

 2日後、桜庵で拓海さんと会った。

「改めて、初めまして池上哲哉です」

「飯田拓海です」

二人で改めて自己紹介をした後、店に入った。

二人の間には、沈黙が流れていた。しばらく経った頃、

拓海さんが口を開いた。

「航大さんは、どんな人だったんですか?

長い時間話せた訳ではなかったので」

少し気まずそう言った。

「彼はとてもいい人でした。中学でいじめられていた僕に

生きる希望をくれたんです。だから彼が大好きだったんです」

彼のことを思い出しながら話す内に、泣いていた。

話を聞いた彼は笑顔になり、

「僕も同じです。僕は彼のインタビューを受けているとき、

こう聞いたんです”先生にとっての幸せはどんなものですか”と、

すると航大さんは答えました”幸せは人それぞれです。自分の幸せは、

自分で見つけるものです。僕はそう思っています”

彼の答えは僕の心に深く刺さりました。おかげで今、

僕は配信者として活動を続けていられるんです」

そう語った彼も泣いていた。

 そしてしばらく話し込んでいたとき、僕はある提案をした。

「そういえば、いつまでここに滞在するんですか?」

「明後日に新幹線で帰るつもりです。配信を休みすぎるのも

視聴者の方々に悪いので。それがどうしたんですか?」

「葬式に参列できなかったので、せめて墓参りには行きたいんです」

「それはいいですね。僕も航大さんにお礼が言いたいので」

そんな会話があり、墓参りに行くことが決まった。

店から出た後、手紙を渡してないことに気づいた。

「すいません、手紙を渡すのを忘れていました。

辛いかもしれませんが、読んであげてください。多分、読むだけで

彼は喜ぶと思います。彼はそんな心優しい男です」

「ありがとうございます。ホテルで読んでみます」

手紙を渡し、拓海さんと別れた。


(十)


 次の日、彼と駅で待ち合わせをして墓地に向かった。

向かう途中、お供えもの買うためにスーパーに寄った。

スーパーに着いたとき、彼が聞いてきた

「航大さん、どんな食べ物が好きだったんですか?」

「彼、第一印象は凄く怖かったんじゃないですか?

でも、意外にも可愛いところがあるんです。彼、甘いものと

可愛いものが大好きなんです」

「そうなんですか、意外な一面もあるんですね」

「だから、彼が大好きだったショートケーキを

買おうと思っているんです」

話をしながら買い物を済ませ墓地に向かった。

 墓地に着き、少し進むと”橘家之墓”と書かれた墓を見つけた。

墓の前に行き、まずは墓に水を掛け墓を洗った。

次に花を入れ替えた。花は、彼が部屋にも飾っていた百合の花にした。

お供えものを供えた後、あることを聞いた。

「一つ聞きたいんです。拓海さんにとって、

航大さんはどんな人だったんですか?」

「”どんな人”ですか、やっぱり僕の人生の光のような人でした。

僕も聞きたいです。哲哉さんにとっては、どんな人だったんですか?」

「僕にとって彼は、子供っぽいかもしれませんが、ほんとにヒーローでした」

そんなことを話していると、自然に空を見上げていた。

その様子を見た彼は、

「今となっては、僕にとっても、哲哉さんにとっても

輝く星になったんだと思います。航大さんはきっとこれからも

僕たちを見守ってくれるはず、そう思いませんか?」

「彼なら必ず見守ってくれるはずです。情に厚い男ですから」

そんなことを話し合っていると、

「もうこんな時間ですか。明日帰るので今日はもう帰らないと」

「そうですね、今日はもう帰りましょう」

そして彼と別れ帰路についたときには、もう真っ暗だった。

空を見上げると、きれいな一番星が見えた。

僕は、あることをつぶやいた。

「これからも頼むよ、タッちゃん」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

輝く星の闇 霧島輝海 @kirishima_terumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画