38話 総力戦
江戸城が崩れゆく轟音の中、災害級妖冥は目の前で猛威を振るっていた。異常に長い腕を振り回し、黒い影が周囲に迫る。精鋭特務部隊と鳴海、風華はその圧倒的な力に直面しながらも、一歩も引かずに戦い続けている。
竜仙が妖冥の巨体に接近し、剣を構えて疾風のごとく駆ける。彼の動きは機敏かつしなやかで、瞬時に接近戦を挑むが、妖冥の長い腕が巨大な壁のように立ちはだかる。
「畜生、速いな・・!」竜仙は間一髪で避けたが、衝撃で足元の木の板が崩れた。剣術の天才である彼ですら、この世の理をも覆すような化け物の前では勝負にならない。
「竜仙、後ろから行くっすよ!」と叫んだのは美鈴だ。彼女の動きは竜仙をも凌ぐ速さで、冷静さを保ったまま短刀を振り抜き、妖冥の膝を狙う。彼女の剣術はまさに『一撃必殺』。狙いすました一撃で相手の弱点を確実に突く。「動きを鈍らせるっすよ・・」妖冥の膝に深々と切り込んだが、すぐに再生されてしまう。
私(風間)は風を操り、部隊全体の動きを加速させる。「気を緩めるな、ここで負けることは許されない」その声で仲間たちを奮い立たせ、戦場に一瞬の静寂をもたらす。そして、私は風の刃を幾重にも操り、妖冥の胴体へと放った。「この程度じゃかすり傷にもならないか・・」
後方では三浦が巨大な槍を振りかざし、妖冥の腕に立ち向かっていた。彼はその怪力で妖冥の攻撃を一身に受け止め、「お、俺と対等に押し合える奴が居るなんてな!!おもしれぇ!!」と叫び、押し返そうとしたが、圧倒的な力に一瞬押されかける。「へへっ、こんなところで押し負けてられるかってんだ!!!」彼の無鉄砲な行動は、不思議と部隊の士気を上げてくれる。
陽一はその冷えた目で戦況を分析していた。「妖冥は黒い影を使っている・・これはおそらく奴の本体じゃない。攻撃を空振らせるための傀儡・・偽りの影を使えば錯乱できるかもしれない」彼は魔術で影を操り、敵の視覚を混乱させた。「今だ、攻撃しろ!」影の中から現れる虚像に、妖冥が一瞬惑わされる。
その隙を突いて翔之助が炎を纏った剣で突進する。「火葬は俺がしてやっから、心置きなく成仏しろよな!」炎の剣が妖冥の腕を切り裂く。だが、炎は彼自信にも危害を及ぼし、身体が焼ける痛みが襲う。
「この痛みも、もう慣れっこだ・・!!」彼は前進し、妖冥に挑み続けた。
その隙に晃明が地道に安定した攻撃を繰り出し、妖冥の動きを封じる。「焦りは戦闘において一番の敵だ」一撃一撃が致命的ではなくとも、着実に弱点を狙う戦法で、妖冥の体力を徐々に削っていく。
白瀬は無言で戦い続けていた。額には一滴の汗も浮かべず、涼しい顔で動き続けている。
「あまり無理をするな、体力が切れる前に一度引け」と私が指示を出すが、白瀬は何も言わない。
彼の剣術の精密さは驚異的で、妖冥の攻撃を華麗に避けつつ、致命的な一撃を狙う。
そして蒼真は遠距離から雷と炎の魔術を操り、戦場全体を制圧していた。彼は周囲の雑魚妖冥の処理にも一役買っており、我々が集中して災害級妖冥と戦えるよう補助している。
「これで決める!」広範囲の攻撃が妖冥を包み込み、爆発的な火力で敵を焼き尽くす。しかし、体力の消耗が激しく、一撃に賭けた代償は大きい。「くそ・・やるとしてもあと一発ってとこだな」不敵に笑いながら蒼真は呟いた。
倉橋は素早い身のこなしで、妖冥の攻撃をかいくぐりながら素早い剣撃を放つ。
「お前の死角を見つけたぜ・・!」彼は妖冥の背後に回り込んでから僧帽筋を狙って一撃を加えた。
前線で戦っている鳴海が声を張り上げる。「今が一番の踏ん張りどころだ!!」彼の声に呼応するかのように、全員が再び妖冥に体を向け、攻撃を続けた。
風華は少し後方で冷静に戦況を見つめながら、適切な補助を続けていた。強力な妖冥に圧倒されながらも、彼女の支援が部隊の戦力を引き出す。
鳴海と風華は初めてここまでの大物を目前にしたというのに、逃げず戦い続けている。永善が認めるのも納得できる、立派な子どもたちだ。
今度の江戸は、彼らに任せるべきであると実感した。だからこそ、ここで幕府に若い目を摘ませるわけにはいかない。以前から神隠団の柱として支え続けてきた精鋭特務部隊の腕の見せ所だ。
そんな私の心情とは裏腹に、戦況は悪化の一途を辿っていた。災害級妖冥は、再生するたびに攻撃の激しさが増していく。
「何度斬ってもキリがねぇ・・」竜仙が歯を食いしばりながら言う。彼の剣は何度も妖冥の体に深々と突き刺さるが、その瞬間に傷は消え、まるで元から傷など無かったかのように再生する。
「竜仙、後ろ!」陽一が警告するが、既に遅かった。妖冥の巨大な腕が振り下ろされ、竜仙が辛うじて防御態勢を取るも、衝撃で地面に叩きつけられた。
「間に合わなかった、すまねぇ!!」少し遅れて三浦が妖冥の腕を押しのける。
「竜仙!」美鈴が彼の元に駆け寄ろうとしたその時、突然、妖冥の影が膨張し、黒い霧が辺りを包んだ。視界が完全に奪われてしまい、敵どころか仲間すらも認識できない。
「これじゃ、僕の影の術も通用しないな」陽一が呟く。
私が風を操り、霧を吹き飛ばそうと試みるが、霧はまるで意思を持っているかのように周囲をさらに暗闇へと誘っていく。「霧が・・消えないだと?」
「こんな化け物、俺たちだけでどうやって倒すんだよ!!」翔之助が、炎を纏った拳で何度も叩き込んでいたが、その攻撃はまるで無意味。妖冥は瞬時に焼けた肉体を再生し、さらに兄弟になっていく。
「これ、もしかして・・」晃明が言葉の途中で口を閉じた。「ん?」私が聞き返すと、晃明は「これ、勝てないんじゃないか・・?」と暗い表情で言った。
「おいおい、本気で勝てるって思ってんのは俺だけか?」蒼真が魔術を連発しながら言う。彼の体力には本当に感心する。
「僕たちの攻撃を学習しているかもしれない。長期戦になるほど勝機は薄くなるだろう」陽一が冷や汗をかきながら、影の魔術を放っていた。
しかし、魔術などお構いなしに妖冥はそのまま迫ってくる。
「こいつ、もう手がつけられないっすね・・」美鈴が呟く。私たちの頭は絶望感に支配されており、これ以上戦う気力も体力も残りわずかだった。
「あんなに輝いてた精鋭特務部隊の終わりがこれでいいって、本気でそう思ってんのか?」
鳴海が傷だらけの脚を必死に動かして歩きながら、私たちの顔を見て言った。
「神隠団は全員、あんたらの背中を見て戦い続けてきた。そんな英雄の最後が、悲劇であることを望む人なんて何処にもいねぇ」鳴海の言葉に、私たちは目を見合わせる。
その瞬間、妖冥の一撃が鳴海を地面に叩きつけた。「ぐっ・・」彼の屈強な体でもあまりの衝撃に耐えきれず、鳴海は意識を失い倒れてしまった。
「・・そうだな。ここで終わるような奴らじゃねぇよな。皆の憧れる『精鋭特務部隊』は」三浦が歯を食いしばりながら立ち上がり、そう言った。
「ここで死ぬ覚悟はできてる。江戸も神隠団も終わるくらいなら、俺の命ひとつを捧げるくらいなんてことはない」倉橋が冷たい目を妖冥に向け、冷徹に言い放つ。まるで自分の命そのものがこれからの戦いに賭ける最後の武器であるかのように。
「鳴海のためにも、引き下がれないっすよね」美鈴が静かにつぶやきながら、戦闘態勢を取り戻した。
「自分の持つ力を全部出し切れ。もう、無理をするななどと言うつもりはない」私が言うと、全員の目の色が変わった。
その瞬間、妖冥の大きな腕が再び振り下ろされた。地面が割れ、周囲の建物が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。竜仙が一閃を放ち、瓦礫を切り裂くも、妖冥はこちらに一切の隙を与えず襲い掛かってくる。
「皆、動きが鈍くなっているぞ!気を抜けば即死だ!」陽一が影の魔術で再び奇襲を仕掛けたが、妖冥は机の上の埃を払うかのようにこちらの猛攻を凌いだ。
戦場は完全に妖冥に支配されていた。何度攻撃を仕掛けてもすぐに元通りになるその姿は、こちらの抱く希望を嘲笑っているように見えた。
「チッ・・このままじゃ全滅だ!」竜仙が絶望に近い表情を浮かべながら振り返る。「どうすりゃいいんだよ・・!」
そして、その時だった。妖冥の腕がかつてない勢いで振り下ろされ、轟音とともに全員を吹き飛ばした。
空中で身体がくるりと回転し、地面に激しく叩きつけられる。きっと私だけでなく、皆も同じ状態だ。
「ぐあっ・・!」三浦は血を吐きながら、ゆっくりと立ち上がろうとするが、足がすくみ再び地に倒れた。
この場にいる全員が戦闘不能状態に陥っている。こうなってしまえば、もう遅かれ早かれ死は訪れる。
せめて、最後に一撃だけでも・・と全身に力を入れるが、とてつもない痛みが襲うだけで身体は動こうとしない。
「・・このままじゃ、本当に全滅する・・」白瀬が初めて声を漏らし、硬い表情で戦場を見つめた。
彼が言葉を発するという事自体が、この状況の異常性を物語っている。
「全滅なんて言葉、口にすんじゃねぇ!!」晃明が立ち上がり、息を切らせながら叫んだ。「まだ、まだ終わりじゃねぇ!絶対に・・・・!!」
しかし、次の瞬間、妖冥が恐ろしい速度で晃明に向かって襲いかかった。晃明が一瞬身を固め、口を開く。
「俺、まだ死にたくねぇよ・・!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます