28話 敵は
「栄狂は精鋭特務部隊の人が単独で討伐するらしいよ」風華が言った。
「あんな強敵を一人で?ちょっと無茶じゃないかな・・」僕が言うと、琉晴が「違うだろ。あの迷宮にぶち込まれたら、人数が多いほど栄狂を見つけにくい。だから単騎で攻め込むんじゃないか」と言った。
「なるほど・・!」確かに、僕たちは四人がそれぞれ鏡に映りまくっていたので、一向に本体を見つけられなかった。
「そんなキラキラした目で俺を見るな」琉晴が言った。
「敵の軍勢が不明だけど、とりあえず総力戦で対抗するみたい。まぁ江戸が潰されたらおしまいだもんね・・」風華が呟いた。
僕は総務部に無理を言って、今回の任務に出させてもらえることになった。
首は絶対に守るので!!と懇願したら、永善さんが頷いてくれた。
*
我々は、徳川秀忠に用がある。
手紙を送ったところ、対談の許可を得ることができたため、今日、城に向かう。
義統・冬馬(俺)・側近十名・精鋭特務部隊より『晃明』『風間真一郎』、そして護衛の布陣で江戸城へ向かう。
「話の進め方はこれで良さそうだな」永善の作成した雑記に目を通し、義統が言った。
「うむ。くれぐれも失礼のないように。そして、選択を迫られた場合は俺が答えるまで喋らないように」今回の交渉は、考案者である俺が全責任を負う。ヘマをすることは許されない。
江戸城に到着した時、我々はその威風堂々たる姿に圧倒された。高くそびえる城壁、厳重に守られた門。神隠団としても多くの妖冥と戦ってきたが、こうした政治の中枢を守る力強さには別種の威圧感がある。
「ここが江戸城か・・」晃明が小声で呟いた。その声には隠しきれない緊張が感じられる。
「気を引き締めるぞ。今日は神隠団にとって歴史的な日になる」俺が静かに注意を促した。
心を引き締め、徳川秀忠との対談に向けて場内へ足を踏み入れた。
案内役の侍に導かれ、奥へ進む。我々は沈黙を保ちながら、何度も廊下を曲がり、ついに広間に通された。そこには、徳川秀忠が待ち受けていた。高貴な雰囲気が漂い、彼の存在感が場を掌握していた。
秀忠は刺したまま、我々をじっと見つめた。やがて口を開き、穏やかな声で語りかけた。
「神隠団の皆、遠路遥々ご苦労だった。我々も、そなたらの働きには深く感謝している」
その言葉に、俺たちは一斉に頭を下げた。「恐れ入ります。秀忠公のお言葉、大変光栄に存じます」義統が丁寧に答える。
秀忠は軽く頷きながら、さらに話を続けた。「我が江戸は、神隠団の働きによって幾度も守られてきた。そなたらの戦いがなければ、今頃どうなっていたか・・我々はその功績を忘れはせぬ」
その言葉に、俺たちは再び感謝の意を示した。しかし、次の言葉を紡ぐ前に、俺は一瞬の間を置き、覚悟を決めた。
「秀忠公、我々が今日ここへ参上したのは、他でもなく、この江戸をお守りするための願いがあってのことです」俺は一歩前に出て、深く頭を下げた。
秀忠は眉をひそめ、興味深そうに俺を見つめた。「確かに、神隠団が江戸城を訪ねるとは相当な理由があるに違いない。聞こう」
俺は一瞬だけ息を整え、続けた。「実は、栄狂という名の強大な妖冥が、江戸に迫っております。その力は我々はこれまでに対峙した妖冥とは異なり、非常に強力です。どうやら多数の妖冥を従えているようでして・・このままでは江戸の民が甚大な被害を受ける可能性があります」
その言葉に、秀忠の表情が一瞬だけ硬くなった。「それほどの脅威であるか・・」
「はい、我々神隠団はこれまで独自に妖冥と戦ってきましたが、今回の相手は一筋縄ではいきません。そこで、秀忠公にお願いがございます」俺はさらに頭を下げた。「住民避難と外出制限の要請を、幕府の力を借りて実施していただけませんでしょうか」
秀忠はしばらく沈黙し、思案している様子だった。「それほどの脅威であるならば、民を守るためには避難は必要かもしれぬ。しかし、外出制限となると経済や商業にも影響が出る。簡単には決められぬ話だ」
その指摘はもっともだ。だが、俺は続けた。「確かに、影響は計り知れないでしょう。しかし、民の命が最優先です。この脅威を前に、我々は何としても江戸を守らなければなりません。また、少数で構いませんので、幕府から兵士を貸していただけないでしょうか。我々だけでは、あまりにも手が足りません」
秀忠は少し眉をひそめ、考え込んだ。「幕府の兵を神隠団に貸す・・それは、我が家の威厳にかかわることだぞ」
その時、義統が静かに言葉を添えた。「我々も、このお願いが非常に重いものだと承知しております。ですが、栄狂の力は桁外れです。このまま放置すれば、江戸全体が危機に陥ることは間違いありません」
秀忠はしばらく沈黙したまま、何かを考え込んでいる様子だった。その緊張の中、側近が一歩前に出て、慎重に言葉を選びながら口を開いた。「秀忠公、我々神隠団はこれまで幕府と直接接触することなく活動してきました。しかし、今は江戸全体の安全がかかっている状況です。我々の独立性を守りつつも、幕府との協力を求めることは、より多くの人命を守るための最善策かと考えております」
秀忠は側近の言葉を聞き、再び俺たちを見つめた。「神隠団の独立性は、我が国にとっても重要なものであることは理解している。その上で、幕府と神隠団が協力することが江戸を守るための最善策であるというのならば・・・・」
その言葉に、俺は心の中で安堵したものの、まだ予断を許さない状況であることを理解していた。「おっしゃる通りです、秀忠公。協力体制を築くことで、より強固な防衛が可能になります。我々も、この協力が一時的なものであることを誓います」
秀忠は一瞬の沈黙の後、深く息を吐き出した。「よかろう。民の命がかかっている以上、幕府としてもできる限りの協力を惜しまぬ。避難と外出制限についても、早急に検討させよう。兵士の貸与についても、少数ではあるが応じる」
その言葉を聞き、俺たちは深く頭を下げた。「ありがとうございます、秀忠公。これで江戸を守るための準備が整います。神隠団としても、全力を尽くして戦う所存です」
「頼んだぞ。そなたらの力を信じている」秀忠はそう言い、話を締めくくった。
俺たちは再び礼をし、その場を後にした。江戸城を後にする中、義統が静かに呟いた。「これで、準備は整った。あとは、我々がどれだけやれるかだ」義統が言った。
「そうだな」俺も頷き、改めて決意を固めた。
*
「おい、江戸幕府と神隠団が接触したらしいぞ」鳴海は掲示板を見るや否や全力疾走で家に戻ってきた。
「まじで言ってんのか?」琉晴が朝食の準備をしながら言った。
「らしいぜ。しかもあの徳川秀忠と団長が直接対談だってよ」鳴海が興奮気味に続ける。
「攻めたことするね・・」下手したら幕府から制限を受けるかもしれないのに。
「まぁ、俺らも呑気なことは言ってらんねぇよ。今日江戸に移動して、明日から任務開始だ」鳴海が背筋を伸ばして言った。僕らも頷き、移動の準備をした。
「今回もお前は精鋭特務部隊に同行するのか?」琉晴が言った。
「うーん・・戦いが始まってから決めるよ」
敵数も強さもわかっていないので、決断するのは時期尚早だろう。
その後、総務部の指示に合わせ、五十人程度の集団ごとに移動をした。
江戸の街は、どこか緊張感を漂わせながらも、平静を保っていた。
日本の政治の中心にしては、静かで人が少ない。これってまさか・・・・?
人々は日常を過ごしながらも、何かが起こることを感じ取っているようだった。神隠団の団員たちは既に現地に集結し、任務の開始を待っていた。
「いよいよだね・・」僕は呟いた。
「俺らが見つけた敵が、こんな騒ぎを起こすほどだったとはな」鳴海が笑みを見せたが、その表情には些かの緊張も見て取れた。
その時、副団長が前に立ち、団員たちの前で声を上げた。「全員、注目!」
団員たちが副団長に視線を集中させた。副団長は堂々とした態度で続けた。
「これから始まる任務は、我々神隠団にとっても、江戸全体にとっても一大事だ。江戸の街を守るため、我々は全力を尽くさねばならない。そして、ここで一つ、重要な報告がある」
その言葉に、団員たちの表情がさらに引き締まった。副団長は一拍置いてから続けた。
「今回の任務において、江戸幕府から正式な協力を得ることができた。我々神隠団と幕府が手を組むことで、栄狂を迎え撃つ準備が整ったのだ」
この発表に、団員たちの間からざわめきが起こった。神隠団がこれまで独立して戦ってきたことを知る者たちは、この協力がいかに異例であり、重要であるかを理解していた。
副団長はその反応を見て、さらに声を張り上げた。
「幕府は我々に兵士を貸してくれることを約束した。少数ではあるが、その力を借りることで、我々の防衛戦はより強固なものになる。江戸の街を守るために、これ以上の援軍はない!!」
その言葉に、隊員たちは士気を高め、再び副団長に注目した。副団長の演説は続いた。「しかし、忘れてはならない。最前線で戦うのは、我々神隠団だ。皆の力が試される瞬間だ。自分たちの力を信じ、この街を守り抜け!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」僕たちは声を上げた。
その瞬間、副団長の背後に妖冥が現れる。
「なっ・・」副団長の首元に、妖冥の持つ鎌がかかった。
混乱の中、周りを見渡すと、数え切れない量の妖冥が迫ってきているのが見えた。
すぐさま副団長を狙っている妖冥を竜仙さんが引き裂き、全員に指示を出した。
「緊急事態だ!!!総員、戦闘準備!迎え撃つ!!!!!幕府の兵士も・・」竜仙さんが辺りを見渡すが、先程までいた幕府の兵士が見当たらない。
「クッソ・・予想よりも早く来やがったな」勇作さんが刀を抜いた。
*
「副団長!!」側近が駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫だ・・助かった、竜仙」
竜仙は頷き、すぐに戦闘へ戻った。
なぜ今、妖冥たちが一斉にやって来た?なぜ幕府の兵士が消えた?
「神隠しに遭ったとでも・・言うべきだろうか」
その瞬間、視界の端に江戸城の方角が映った。そこには、城壁の上から江戸の街を見下ろす徳川秀忠の姿があった。彼は、冷酷な微笑を浮かべ、作戦が順調に進んでいるかのように、満足げに頷いていた。
「作戦通りだ」と、彼の唇が動くのを俺は確かに見た。心の底からの冷たさが、全身を凍らせるようだった。
「まさか・・幕府が裏切ったのか・・」俺は息を呑んだ。目の前に広がる状況が、信じられなかった。
だが、現実は残酷だった。敵は単なる妖冥ではなく、徳川秀忠という絶対的な権力者によって操られた暗殺者たちだったのだ。
神隠団の壊滅を狙ったその計画は、今まさに動き出した。
「こんなところで終わらせてたまるか!!!!」俺は叫び、周囲の仲間たちを見た。
「この際、幕府でも何でもかかってこい!!!!」三浦が叫びながら妖冥を蹴散らした。
「総員、戦闘開始!!!!敵は、江戸城にあり!!!!!!!!」
この戦いは、神隠団と幕府との壮絶な闘いの幕開けとなる。
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