23話 選択

任務を連続で行った僕たちには一週間の休暇が与えられた。


「僕は謹慎を含めて二週間、か・・」居間でくつろぎながら言うと、鳴海が「納得いかねぇよなぁ、謹慎は」と呟いた。


「まぁ、形式上、仕方ないらしいよ。謹慎って名目だけど実際は休養期間なんだって」と返すと、鳴海は腑に落ちた表情で頷いた。


「そんで、これから楓はどうする?客観的に見て、俺らなんかと一緒にいるべきではないと思うが」琉晴が言った。


「別にどうもしない。精鋭特務部隊に入る資格は得たけど、僕は入るつもりはないよ」


いくらなんでも経験が浅すぎる。僕に務まる仕事ではない。


「入らないの?」風華が言った。「足引っ張りたくないし、僕は皆と一緒にいたい」僕が言うと、琉晴は怒り口調で言った。


「そんな自分勝手な理由で精鋭特務部隊の加入を断るのか?お前は」


「だって・・足引っ張っちゃうだろうし」僕は小さな声で言った。


「お前、自分が今神隠団にとってどんだけ重要な存在か分かってんのか?」琉晴が言う。


「重要人物を気取れるほどの功績はないよ」


「話にならない。本部に俺が言ってお前を精鋭特務部隊にぶち込むよう伝える」琉晴がそっぽを向いた。


しばらく沈黙が続く。


もちろん、精鋭特務部隊に入ってもっと妖冥を倒したいと思っている。でも、一緒にやってきた仲間と離れたくない。


「なぁ、選択肢って、『精鋭特務部隊に入って俺らと離れる』『加入を断ってここに残る』の2つしかないのか?」鳴海が言った。


「私も思った。そんな極端に考えなくて良いんじゃない?二人ともさ」風華が言う。


「どういうこと?」僕が聞くと、鳴海は「精鋭特務部隊って、相当高い役職ってのもあって生活面の自由度は高いはずだろ?この寮に残りたいっていうお前の意志は尊重してくれると思うんだけどな」と言った。


「なるほど・・」僕は頭が固かったのかもしれない。


「まぁ、考える時間は十分あんだからさ、存分に悩めばいいだろ」鳴海が笑った。


「ありがとう」


「ね、琉晴もそれでいいでしょ?」風華が言うと、琉晴は「そう・・だな」と呟いた。


僕が琉晴の背後から近寄り、顔を覗き込むと、琉晴は少し笑っていた。


「何笑ってんの?」僕が言うと、琉晴は僕を突き飛ばした。「何覗き込んでんだよ!」と琉晴が怒鳴る。


「何で嬉しそうな顔してたの?ねぇねぇ」そう言って琉晴の肩を揺らすと、意気消沈した琉晴が布団に潜ってしまった。


「まぁ、一件落着だな」鳴海が言った。


 


 その日の夜、僕は琉晴に相談をした。


「精鋭特務部隊に入るのは、まだ良いかな」僕が言うと、琉晴は「理由は?」と聞いた。


「経験をもっと積みたい。だから、精鋭特務部隊には入らず、過酷な任務には同行することにするよ。それで自信と実績を手に入れたら、加入しようと思う」


琉晴は無言で頷いた。


「無理に精鋭特務部隊に入る必要はない。さっきは無責任なことを言ってしまって申し訳ない」琉晴が続けた。


「大丈夫だよ。弱音ばっかり吐いてる僕が悪いし」


「気にするな。弱音を吐けねぇ奴よりかはマシだ」琉晴が自嘲するように笑った。


僕は本部に連絡し、永善さんと話す時間を設けてもらった。精鋭特務部隊として、竜仙さんも来てくれるらしい。知り合いが居るのは心強い。




そして4日後。僕は心の中で決意を固めながら、本部の重厚な扉を開けた。


そこには、永善さんと竜仙さんが既に待機していた。僕が入室すると、二人は僕を静かに見つめた。


「考えがまとまったか」と竜仙さんが口火を切った。


「はい。精鋭特務部隊に入る資格を頂いたことには感謝しています。しかし、同時に僕はまだ経験が足りないとも感じています。ですので、しばらくは過酷な任務に参加して経験を積みたいと思います。その間、寮での生活は続けさせていただきたいです」


永善さんが少し驚いた表情で僕を見た。「過酷な任務への参加を望むとは、大胆な決断だな。だが、精鋭特務部隊への加入を断るのには何か理由があるのか?」


僕は少し戸惑ったが、正直に答えた。「僕は皆と一緒にいたいんです。特務部隊に入ることで、今まで築いてきた仲間との絆を失うのが怖いんです」


竜仙さんは少し微笑んで言った。「気持ちはわかる。しかし、精鋭特務部隊に入ったとしても、全てが変わるわけではない。仲間との共同生活を続けることは可能だし、これまでの関係を保つことも出来る」


僕は竜仙さんの言葉を聞いて、少し肩の力を抜いた。


「それが本当に可能なら、僕も特務部隊に入ることを検討したいです」


永善さんが静かに頷いた。「君の意志を尊重しよう。しかし、過酷な任務に参加することは容易ではない。君が選んだ道は厳しいものだが、私はそれに耐えられると信じている」


僕は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。皆様の期待に応えられるよう、全力を尽くします」


竜仙さんは僕の肩に手を置き、「君がどの道を選んでも、俺達は君を支える。安心して前に進め」と言った。


僕は再び深く頭を下げた。「本当にありがとうございます」


「最後に一番大事なことだが、他人に頼ることは、悪いことではない。これを肝に銘じてくれ」永善さんが言った。


「はい!」




「あ、そうだ」と呟いて永善さんが総務部の人を呼び、ある紙を見せてきた。


「君は今、宿舎で仲間と四人暮らしか?」永善さんが言った。


「はい」


「流石に君が狭い宿舎で暮らすのは我々的に宜しくない。四人で暮らせる建物を手配する」永善さんが言った。僕は「待ってください、良いんですか?本当に・・」と動揺した。


「特務部隊とその仲間だ。丁重に扱わねば」永善さんが言う。「それって、贔屓みたいに思われないですか・・?」


「災害級を討伐した者をそんな風に思う者はいない。心配無用だ」竜仙さんが言った。


「この三つから選んでいい」間取りと建物の概要が書いてある紙を見せられた。


「これにします・・」僕が指を差すと、永善さんは満足げに頷き、総務部の人に指示を出した。


正直どれでもいい。




「それに、君の代の新入りは試験で一級の討伐・・とまではいかないが、一級を追い詰めているし、他に比べて多少優遇されるのは然るべきだろう」永善さんが言い聞かせるように言った。


「意外と神隠団って緩いんですか・・?」僕が聞くと、永善さんは「そんなことはない」と急に背筋を伸ばす。




いいな、神隠団。


最近、上層部の人と関わることが多いけど、『この人たちについていきたい』と思うことがよくある。


こうやって優しく明るく振る舞っているけど、裏では血の滲むような努力をしているのは間違いない。


挫折の経験も数え切れないほどあるだろう。でも、だからこその優しさなのだと思う。




「引っ越しの準備をしておいてくれ。今日はもう帰っていいぞ」永善さんが言った。


「ありがとうございました!」




 僕は宿舎に戻った。


「どうだった?」僕が部屋に入って早々に鳴海が尋ねてきた。


「精鋭特務部隊には入らないけど、精鋭が出動するような過酷な任務には参加する。あと、僕たちはこれからも一緒に暮らせる」それを聞いて、風華が大喜びした。


「やったーーー!!」風華が僕を抱きしめようとしてきたが、さり気なく避けた。


「よかったな」琉晴が微笑む。「琉晴も嬉しいでしょ?」僕が聞くと、琉晴は視線を逸らした。


「あと、僕たちまたお引越しをします」


「また!?」風華が声を上げた。「うん・・精鋭なのに狭い宿舎は良くないとか言われてさ」


「大丈夫なのか?そんな適当で」琉晴が言ったが、鳴海は「良いじゃねぇか、広いところに越せるなら」と笑った。




「また、荷物まとめて休暇期間のうちに引っ越すから準備しといてね」


「了解」琉晴が言った。


まぁ、間取りを見た感じ、かなりいい家だ。四人では有り余ってしまうほどね。




「これからは、一緒に任務に行くことは少なくなるだろうけど・・お互い頑張ろうね」僕が言うと、三人は力強く頷いた。


「あったりめえだ」鳴海が僕の肩を叩く。「まぁ、そのうち俺らもそちらへ行く。一足先に見ておくんだな。上の世界を」琉晴が言った。




孤独で辛い時もあるだろうけど、家に帰ればこの三人が居る。拠り所になってくれる仲間がいるなんて素晴らしいことじゃないか。


僕は負けない。


どんな強敵でもかかってきな、江戸は僕たちで守り抜く。


精鋭特務部隊には入らないけどね。

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