19話 極悪

夜叉軍団の討伐作戦当日となった。

江戸の今後がかかってると思ったら緊張してしまって、昨晩は期待と不安とともに眠りについた。まぁ、僕一人の力で江戸の今後は変えられないけどね。

江戸を守ったとしても僕のおかげではないし、江戸が滅んでも僕のせいではない。残酷な事実ではあるけど、そう思うと少し肩の力を抜くことが出来た。


隊士が全員揃い、僕たちは陣形を整えた。

「昨日副団長から話があった通り、今回の任務は今後の江戸がかかった非常に重要なものだ。何が何でも勝て!わかったな!!!!」精鋭特務部隊の晃明さんが先頭で言った。

「はっ!!!」隊士の声が揃う。

馬での移動でおそらく1時間程度。江戸から離れた場所で戦闘を行う。

「楓」竜仙さんが僕の近くを移動しながら言った。「はい!」僕が返事をすると、竜仙さんは「一級の妖冥との戦闘に、楓も参加しろ」と続けた。

「待ってください、一級と戦うのは精鋭だけって・・」僕は困惑した。「昨日、霞月から君の能力について聞いた。硬化能力を持っているのは事実か?」竜仙さんが言った。

「はい、事実ですけど・・」

「では、一級の妖冥との戦闘に参加しろ。他の団員に何か言われたら『竜仙の命令でここに来た』と胸を張って答えるんだ。決して弱気な姿を見せないように」竜仙さんが言った。

一級妖冥は、第二選抜試験で遭遇した夜叉と同等またはそれ以上の相手。僕が役に立つとは到底思えない。

しかし、何度でも言うよ。僕が一番嫌なのは『やってもいないのに出来ないと決めつけて、本気を出さないこと』だ。無茶な命であろうと僕は必ず引き受ける。

それが、あの時坊さんたちを守れなかったことの償いになると思っている。もう二度と、僕は逃げないよ。

「しかし危ないと思った時はすぐに逃げろ」竜仙さんが言った。「え?」僕の意志とは真反対の指示だ。

「勘違いするな。逃げるというのは相手に臆して情けない面を晒しながら走り回ることではない。『戦略的撤退』だ。最前線から一歩下がることで、良い戦略が思いつくことも多い」困惑する僕に竜仙さんが言った。

「御意にございます」

確か、一級の討伐をしたら高位団員だっけ?あーでも精鋭との共闘じゃ資格は得られないのか・・まぁいい。いずれ僕は必ず一級を単独で討伐してみせる。焦ることはない。


「前方に夜叉軍団を発見!各自、戦闘態勢につけ!!!」隊士の声が聞こえてきた。

「前線の魔術部隊士の精鋭についていけ。おそらく一級と遭遇できる」竜仙さんはそう言い残して、美鈴さんと最前線に突っ走っていった。

「勇作さん!僕は一級の妖冥との戦闘に向かいます!竜仙さんからの指示です!」手短に伝えた。

「お前、本当に言ってんのか!?」鳴海が走りながら怒鳴った。「鳴海、お前はこっちの戦闘に集中しろ。行ってこい、楓。お前なら勝てる」琉晴が言った。

「皆さん、ご武運を!!」

僕は前線に向かった。走り続けると、奥で爆発が起きているのが見えた。あれは魔術部がやったに違いない。そして、魔術部が居るということは一級妖冥が居る。


前線に到着すると、夜叉との激しい戦闘が繰り広げられていた。気を抜くと味方の魔術に巻き込まれてしまいそうだ。

「増援に来ました!こいつが一級ですか!?」

「おい何こっち来てんだガキ!!副団長の作戦を聞いてなかったのか!!」案の定、現地の魔術部隊士に怒られた。僕は自慢げに「竜仙さんよりご下命を賜り、やって参りました」と一礼した。

「そ、そうか・・」団員は竜仙さんの名のおかげで、僕を認めてくれた。

「相手の特徴は?」僕が聞くと、「まだ相手は刀しか使っていないが、こちらの魔術はほとんど効かん。あれだけ重厚な鎧を身に着けているだけのことはある」と魔術部隊士が言った。

「わかりました!」まだ手の内は明かしていないということか。まぁ、こんな序盤に見せては来ないだろうね。


僕たちは魔術部と共闘し、夜叉の弱点を探った。魔術師たちは次々と呪文を唱え、炎や氷の魔術を放つが、夜叉の鎧によって全て阻まれる。それでも僕たちは諦めず、攻撃の手を緩めることはなかった。

すると、夜叉が突然馬上筒を取り出し、こちらに向けて威嚇してきた。閃光とともに巨大な銃声が響き渡り、周囲の空気が一瞬静まり返った。

※馬上筒・・火縄銃の一種。

なるほど、鉄砲ね・・閃いちゃったよ。

この勝負、僕がもらった。

相手が銃口をこちらに向けてくる。

「今だ!!」僕は瞬時に硬化能力を発動させ、夜叉に向かって突撃した。鋼のように硬くなった体で銃弾を受け止めた。それを見ていた夜叉の動きが一瞬止まった。

「はっ!!」僕は怯んだ夜叉に硬化した拳で一撃を加え、再び戦闘態勢に戻った。


「なるほど、だからこの少年を送り込んできたんだな・・竜仙殿」魔術師が目を輝かせていた。


夜叉は何度も馬上筒を発砲するが、僕は全ての弾丸を硬化した体で防ぎ続けた。弾丸が弾ける音が響き、そのたびに夜叉の苛立ちが増していくのが手に取るようにわかった。

そして、僕のもとへ近づいてきた魔術師が言った。

「見てくだされ。あの夜叉、次の一発を中々撃ちません。おそらく、残りの弾が一発しかないのでしょう」

「へへっ、承知いたしました!」僕は夜叉に向かって再び突進した。流石に焦ったか、夜叉が最後の弾丸を装填し、発砲しようとした瞬間、僕は瞬時に距離を詰め、馬上筒を奪い取った。

「僕が居なかったら、勝てたかもしれないね」僕は足技で夜叉を転ばせ、そのふくらはぎに馬上筒の弾丸を打ち込んだ。弾丸はしっかりと命中し、夜叉は激しい悲鳴を上げながら塵となっていった。

「これで終わりだよ」僕は馬上筒を投げ捨て、倒れた夜叉を見下ろした。その瞬間、周囲の魔術師たちからは歓声が上がった。


「なんという性格の悪さでしょうか・・あそこまで相手の自尊心をへし折る倒し方は見たことがありませぬ」魔術師が呟いた。それ、褒めてないですよね?

「皆さん、戦場ですよ、ここは。戦闘に集中です」僕は周りを見渡して言った。

「はっ!」

待って・・?皆僕よりも先輩だし立場も上だよね・・ちょっと調子に乗りすぎた。


      *


 楓が前線に言ってしまったので、俺たちは勇作さんたちと共に三級程度の夜叉と戦う。

「こう見ると、案外敵数は多くないね」春香さんが言った。

「ああ」雅さんが刀を抜きながら答える。


俺が一体目と戦い始めた時、既に琉晴は三体の夜叉を斬り裂いていた。

それを見て口をぽかんと開いている風華を現実世界に引き戻し、俺達は共闘を始めた。

やっぱり、普通の夜叉には俺の腕力を活かした真っ向斬りが効果的だ。

「人数も多いし、あまり走り回って敵を倒し続ける必要はない。一人一体の妖冥を倒す必要すらない人数だからね」雅さんが言った。

「はい!」風華が返事をする。


楓が無事かどうかだけが気がかりだが、きっと大丈夫だ。活躍しているだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る