16話 優れもの

 翌朝、僕は起床してからまず掲示板を確認するために外へ出た。


「ん~・・」朝一番に日光を浴びながら伸びをするのはすごく気持ちがいい。今は8月で暑い時期だけど、優しく頬を撫でる程度の朝風もまた心地よかった。


掲示板に目を移すと、任務内容の欄があった。


「えーっと・・」


任務内容を確認した。


上野浅草の町で最近、数名の行方不明者がでているとの報告があった。目撃者によると、夜になると妖冥らしきものが出現し、次々と人々を襲っているらしい。


敵数は妖冥四体、被害状況は・・数名の行方不明者と、複数の家屋が焼失。町の住民は夜間の外出を控えている・・か。初っ端から過酷そうな任務だ。


作戦参加者の部分には、先輩団員と思われる名前が四つと、楓・鳴海・風華・琉晴と書いてあった。


八人か・・この人数で大丈夫と判断したのだろう。きっとそれほど強敵ではない。




「おはよう。任務の確認か?」先輩団員があくびをしながら言った。「はい!」と答えると、「君やその仲間は俺たちと任務を遂行する。出発は今日の昼だ、準備をしておくように」先輩団員が言った。


「わかりました!」


僕は部屋に戻り、皆に任務内容を伝えた。


琉晴は「団員として最初の任務だ。危険な任務は任せないはず。あまり気負わずにいくぞ」と言っていた。


達観してるよなぁ、琉晴って。1歳しか年齢が変わらないとは思えない落ち着きぶりだ。まぁ、たまに口の悪さが気になるけど。




 朝食を済ませ、四人の先輩とともに浅草へ出発した。もちろん馬での移動になる。


団員になることで、一人につき一頭の馬が与えられる。名前も自分で決めていいらしい。僕は『あられ』と名付けた。理由はないよ。響きで決めたからね。




「俺らの名前だが、左から順番に勇作・みやび・一郎・春香だ。覚えなくていい」朝、僕に話しかけてくれたのは勇作さんだった。春香さんだけが女性のようだ。やっぱり、割合では男性のほうが多い気がしている。




浅草に到着する頃には夕方となっており、僕らは木の上から周りを見渡していた。


「まだ人が多い。おそらくまだ妖冥は行動を始めないでしょう」雅さんが言った。雅さんは知的な雰囲気で、声色も落ち着いている。


夜が深くなるまで待機し、人気も少なくなってきたところで事件は起きた。


「きゃー!!!」一方から女性の悲鳴が聞こえた。すぐに勇作さんは木を降り、「間違いない、ヤツらが現れた」と言って走り出した。僕たちも必死に走って勇作さんについていく。




急ぎ足で悲鳴の方向に向かった。通りを駆け抜けると、薄暗い路地裏に差し掛かったところで、女性が倒れているのが見えた。彼女の周りには四つの影がうごめいている。


「そこだ!」一郎さんが叫び、勇作さんが一瞬で前に出て刀を振るった。しかし、その刀は影を切り裂くだけで、実態に当たる気配がない。


「奴らは影に隠れている。実態を見つけるんだ」雅さんが冷静に指示を出した。


僕たちは四方に散り、周囲を警戒しながら影を探した。春香さんは弓を構え、狙いを定めている。


「見えない敵をどう対処するかが鍵だ」琉晴が小声で言い、僕に向かって「楓、お前の硬化能力で影から相手をおびき出すことが出来るかもしれない。試してみろ」と指示した。


僕は頷き、周囲の影に触れようと手を伸ばした。こんなことをされたら出てこずにはいられないはず。


すると、一瞬の感触が伝わり、影が怯むように揺れた。


「触った!今だ!!」僕は叫び、他の団員が一斉に攻撃を仕掛けた。


勇作さんが再び前に出て、刀を振り下ろすと、影が飛び散り、実態が露わになった。雅さんが素早くその動きを捉え、短刀で妖冥を突いた。


「一郎、頼んだよ!」春香さんが叫び、一郎さんが大きな斧を振り下ろすと、妖冥の実体は粉々になった。続いて、春香さんが狙いを定め、矢を放った。矢は見事に妖冥のふくらはぎを貫いた。


「まだ残りが居る。気をつけて」雅さんが周囲を見渡し、僕たちは警戒態勢に入った。


「ここだ!!」琉晴が叫び、彼の刀が影を裂いた。瞬時に琉晴は敵の背後に回り込み、深くしゃがみこんでの一閃を食らわせた。その太刀筋は、妖冥のふくらはぎを確実に捉えていた。


見事な剣術に見とれそうになったのも束の間、僕のそばに影が現れた。攻撃を食らいそうになった瞬間僕は硬化し、影の動きが止まった。


「鳴海!」僕の言葉に応え、鳴海が突撃し、力強い一撃で敵を討ち取った。


最後の一体は勇作さんと雅さんが一斉に突撃し、瞬く間に討伐された。


「よし、終わったな」勇作さんが息を整えながら言った。「みんな無事か?」雅さんが周囲を見渡し、僕たちも各自の無事を確認した。


よし、怪我はない。


「みんなお疲れ様」春香さんが笑顔で言った。


倒れていた女性に声をかけ、無事を確認した。


「大丈夫でしたか?」風華が尋ねると、女性は「はい、なんとか・・突き飛ばされただけで、あまり大きな怪我はしてないです」と答えた。


「良かったです。女性が夜道を一人でゆくのは危ないですから、お気をつけください」雅さんが丁寧な口調で言った。


「本当にありがとうございました。神隠団に感謝いたします」


女性を家まで見送り、僕らは道沿いの長椅子に腰掛けた。




「最初の任務で不安だったと思うが・・みんなよくやった。これからもこの調子で頑張れよ」勇作サンが言った。「初めてにしては君たち慌てている様子が一切なかったが・・」一郎さんが呟いた。


「あんた、知らないの?この子たちの代は選抜試験で少なくとも二級の妖冥を討伐したんだよ」春香さんが言うと、勇作さんと一郎さんは驚いた顔をしていた。


「それはそれは・・過度な心配は逆に失礼だったかもしれないな」一郎さんが言った。「いえ、先輩方のおかげで安心して戦えました」と僕が言うと、「強い上に良い子たちだ。将来有望であるな」と雅さんが言った。


「一応、今回の任務期間は一週間となっていた。が、初日に討伐まで完了してしまったから・・あと6日間はこのあたりを散策してよいぞ」勇作さんが言った。「良いんですか!?」僕が聞くと、一郎さんが笑った。


「君は反応が純粋だね」雅さんも微笑んでいる。


「別に、規則違反ではないのさ。任務期間というのは『この期間内に達成できなかった場合、さらなる実力者を向かわせる』というものだからな」勇作さんが言った。


「そうなんですね・・」




僕は浅草の夜空を見上げた。神隠団員としての最初の任務は成功に終わり、僕たちは次なる任務に備えることになる。




「そういえば、霞月さんっていう団員を知ってますか?」興味本位で聞いてみた。


「ああ、知ってるよ」一郎さんが言った。「僕、あの人に育ててもらったんです」それを聞いて四人は驚いていた。「どうりで優秀なわけだ・・」と勇作さんが言った。


「霞月さんって、凄い人なんですか?」団員としての霞月さんを見ることはあまりなかったので気になった。春香さんが「そうだねぇ・・総務部なのに、戦闘能力があまりにも高いから魔術部も掛け持ちしてるの。文武どちらも優秀な人なんだよ」総務部だったんだ・・霞月さん。


「それっていわゆる、高位団員ってやつですか?」そう尋ねると、「総務部が全員高位団員というわけではないが・・比較的優秀な人を集めた部だからね。高位団員の割合は高いよ。魔術部は一般的な戦闘部と変わらないかな」一郎さんが言った。


僕たちは戦闘部だ。最初は皆戦闘部で経験を積み、いろいろな部隊へ枝分かれしていくらしい。




「幹部ってのをよく聞くが、明確な定義はあるのか?」琉晴が聞いた。敬語は使わないんだ。


「難しい質問だね・・幹部の構成は、団長・副団長・総務部隊長・精鋭特務部隊・戦闘部のうち剣士隊隊長・弓兵隊隊長・槍兵隊隊長。情報部隊長・鍛冶部隊長・医療部隊長・魔術部隊長だよ」勇作さんが教えてくれたが、途中から僕は頭がこんがらがって思考を放棄していた。


「つまり、各部隊の隊長と精鋭ってわけか」琉晴が噛み砕いてくれた。ありがとう。


「そういうことだ。俺も最初からそう言えばよかったな」勇作さんが言った。「僕たちも、幹部になれますかね?」思い切って聞いてみた。すると、雅さんは微笑んで「この世に不可能なんて存在しないよ。本気で努力をすれば君たちもなれる。実力を磨き、実績を積む。それが一番の近道さ」と言った。


「ありがとうございます」僕はお礼をした。




「そろそろ、寝たいよね・・浅草には団員用の臨時宿舎があるからそこへ向かおう」勇作さんが言った。


十分ほど歩き、臨時宿舎についた僕らはすぐに眠りについた。




明日からの浅草散策、何しようかな!?

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