15話 決意

 神隠団員になり、僕たちは先輩から総務部から説明の紙を受け取った。風華が読みながら内容を僕たちに教えてくれた。


「まず、団員になることで一つ大きく変わるのは、生活の安定だね。衣と住は神隠団が提供してくれる。隊服や防具、それに住む場所の確保は心配しなくていい。これはありがたいね」と風華が紙を見ながら言った。


「食事はどうなる?」鳴海が尋ねると、風華は紙を読み進めた。


「食事は支給されたお金で食材を買い、各自で調理することになってる。自炊が苦手な人は、早いうちに料理の腕を上げておくといいだろうね。団の支給金は十分だけど、無駄遣いは禁物。ちなみに、拠点には団員食堂があるから、そこでお金を払ってご飯を食べてもいいって」風華が言うと、「移動が面倒だ。俺が作る」と琉晴が言った。ありがたいです。


「それから、周辺地域の見回りが当番制で行われるって。一ヶ月のうち一週間程度は見回りを担当することになる。見回りの担当期間中は、通常の任務は免除されるけど、見回り中に妖冥と遭遇する可能性もあるから、常に警戒を怠らないように。この担当期間中は昼夜が逆転しがちになるかもね・・」風華が怪訝そうな顔をした。


「仕方ないよね」と僕が言うと、鳴海と琉晴は頷いた。


「最後に、不定期に転勤があるって。神隠団の拠点は複数存在するから、必要に応じてどこでも派遣される可能性がある。家族や友人と離れることになるかもしれないけど、これも神隠団の一員としての責務・・だってさ」転勤かぁ・・この四人で一緒ならいいんだけど、一人での転勤があったら相当辛いだろう。


「具体的にはどういう拠点に配置されるんだ?」鳴海が尋ねると、風華は再び紙を見ながら答えた。


「拠点は大都市から山間の小さな村まで様々だよ。大都市の拠点では妖冥の出現が頻繁で、常に忙しい任務が待ってる。それに対して、山間の村などでは静かな日々が続くこともあるけど、突然の大規模な妖冥出現に対応しなければいけないこともあるって」一長一短だ。


「それと、各拠点には教育係の先輩団員がいて、最初のうちはその人達から直接指導を受けることになる。実践経験を積むとともに、神隠団の規律や作法も学んでいくんだって」


「そういえば、共同生活もあるんだよね?」僕が尋ねた。


「うん。団の宿舎は基本的に二人部屋か四人部屋。個室はないけど、仲間と過ごす時間が多くなることで、絆も深まるだってさ」だいぶ無理矢理な言い分だ。まあ、共同生活でいいけど・・


「休暇については?」鳴海が質問する。


「休暇は任務の合間に与えられるけど、特定の休暇期間はないよ。その時々の状況に応じて、団員それぞれが調整して取ることになる。ただ、休暇中も緊急事態には駆けつける準備をしておくようにって」


風華が説明を終えると、僕たちは新しい生活の具体的な心象が少しずつ固まってきた。新しい環境、新しい仲間、そして新しい任務。これからの生活がどれほど過酷で、どれほどやりがいのあるものか。期待と不安が入り混じった気持ちでいっぱいだった。


「じゃ、まずは引っ越しの準備だな・・この寮は次なる研修生に譲ろうぜ」鳴海が立ち上がった。


「そうだね」僕が言うと、皆で荷物をまとめ始めた。


とはいえ、この部屋に僕たちの私物はほとんどない。刀と制服くらいかな?




寮を出ようとすると、琉晴が僕たちを呼び止めた。


「お前ら、掃除もせずに出ていくつもりか?」怒った表情で琉晴が言った。


「あぁ・・」鳴海は情けない声を出し、部屋に戻る。僕たちも一緒に掃除を始め、十分程度で部屋は綺麗になった。「忘れ物はないね?」風華が確認する。「大丈夫!」と僕が言うと、皆で宿舎に向けて出発した。


あらかじめ僕たち四人が生活する宿舎の棟と部屋番号は決めてもらっている。永善さんは「お前らは四人部屋の方が適している気がする」と言って二人部屋ではなく四人部屋にしてくれた。分かってるね、永善さん。




 僕らの暮らす宿舎は主殿の北東に位置する棟だ。三十分ほど歩き、建物の前までやってきた。


「この建物で間違いない」琉晴が地図を見ながら言った。大きさはそこそこと言ったところ。


「入ってみようぜ」鳴海が先頭を行った。玄関には広めの土間があり、団員たちはここで足袋や下駄を脱ぐようだ。下駄箱も設置されており、靴の収納が出来る。


中に入ると、広々とした共同空間が広がっていた。畳敷きの部屋があり、座布団と低い座卓が配置されている。団員はここで食事をとったり、打ち合わせをしたりするそうだ。


そして、共同空間の隣には台所があった。かまど、鉄鍋、包丁、まな板などの基本的な調理器具が揃っており、団員たちは自炊を行うことが出来る。また、食材を保存するための蔵も設置されており、米や野菜などの食材が保管されている。


風呂場には木製の浴槽があり、団員たちはここで疲れを癒やすらしい。まぁ、入る頻度は低いだろうけど・・。浴槽はまきで湯を沸かす仕組みになっていて、入浴の際は準備が必要だ。便所は屋外にあり、簡素な作りだけど清潔に保たれていた。


「用を足す時は毎回外に出るのは面倒だな」鳴海が言った。


宿舎の外には洗濯場が設置されており、団員たちはここで洗濯を行う。洗濯板や桶が用意されており、手洗いで衣類を洗う。洗濯物は屋外の物干し竿で乾かす。




と、共用の部分はこんな感じ。寮に比べて設備が新しくて大きい!ってのが感想かな。


僕も団員になったんだなぁと実感した。


次は僕たちの生活する四人部屋に入ってみよう。


「六号室・・ここだな」琉晴が指を差した。棟の端っこにある部屋で、他に比べて明らかに広かった。四人部屋だもんね。


「心の準備はいいか?」鳴海が扉に手をかけ、謎の緊張感を演出してきた。「いいから早く開けろ」と琉晴が言うと、鳴海は「えー」と言って扉を開けた。


「広い!!!」まず最初に出た感想はそれだった。きっと、寮の1.5倍はあるよこれ!


「確かに広いな・・」琉晴が部屋を見渡して言った。




部屋には畳敷きの寝室があり、各自で布団を敷いて寝る。布団は夜になると敷き、朝には片付けて部屋を広く使うことが出来る。蚊帳も用意されており、虫除け対策がされている。


部屋には押し入れもあり、衣類や個人の持ち物を収納することが出来る。


部屋の一角には書斎があり、小さな机と座椅子が配置されている。ここで勉強や書き物を行えるんだって。僕はお勉強なんてしないけどね。灯火用の油灯もあり、夜間の作業も可能になっている。


部屋には油灯が設置されており、夜間の照明として使用する。明かり取りの窓もあり、昼間は自然光を取り入れて明るさを確保できる。


火鉢が用意されており、冬はこれで暖を取る。夏には涼を取るために竹製のすだれや団扇が使われる。




「生活する上で困りはしなさそうだな」琉晴は少し嬉しそうだった。「でも、食事する時は毎回部屋を出ないといけないんだね」前までは自分らの部屋に小さなかまどがあったから出る必要はなかった。


「しかし、設備はこっちの方が良い。おそらく今までよりも調理時間は短く出来る」琉晴が言った。「これからも琉晴が作ってくれるの?」僕が聞くと、琉晴は「当たり前だろ。お前らの作る飯は食えたもんじゃない」と言った。ツンツンツンデレ?




 部屋でくつろいでいると、戸を叩く音がした。


鳴海が戸を開けると、立っていたのは先輩団員だった。


「君らが新しく入ってきた四人か?」と聞かれたので、「はい!」と答えた。


「よし、今から色々と説明をするから一度外に出てもらえるか?」先輩団員が言った。僕たちはついていき、説明を聞いた。




「まず、任務についての説明をする。複雑だし長ったらしい話になるが、大事なことだからしっかりと聞いてくれ」先輩が言ったので、僕たちは背筋を伸ばした。




「任務の通達は基本的に以下の方法で行われる。まず、急な出勤が必要な場合、宿舎内に設置された鐘がなる。その鐘を聞いたらすぐに共用の空間に集まること。この鐘は緊急事態を知らせるものだから、最優先で動くんだ」僕たちは真剣に頷きながら、先輩の説明を聞いていた。


「次に、通常の任務についてだ。毎朝、総務部からの通達が掲示板に張り出される。そこに各自の任務内容と集合時間、場所が記載されているから、確認を忘れないように。また、任務によっては前日に通達されることもあるから、掲示板はこまめに確認することが大事だ」


掲示板の場所も同時に教えてもらった。


「さらに、特殊な任務や長期の任務の場合、直接総務部からの通知が届くことがある。その場合は、紙での通達か、口頭での指示になる。いずれにせよ、迅速な行動が求められるから、常に準備を怠らないようにしてほしい。


風華が手を上げて質問した。「緊急事態の際の準備はどうするんですか?」


先輩団員は微笑んで答えた。「緊急事態用の装備は宿舎内の装備庫に常備されている。必要なものは常に揃えておくように管理しているから、出動の際はすぐに準備を整えて出発できるようになっている」


「わかりました。ありがとうございます」風華が礼を言うと、先輩は続けた。


「最後に、任務終了後の報告も重要だ。任務が完了したら、必ず総務部に報告書を提出すること。これは次の任務に活かすための情報収集でもあるから、詳しく書くように心がけてくれ。・・さて、説明は以上だ。まぁ、入ってしばらくは俺ら教育係の団員と共に任務を行うから、わからないことがあれば随時聞いてくれ」


「ありがとうございました」四人でお礼を言うと、先輩は宿舎に戻っていった。




「俺らも戻るか」鳴海が言い、僕たちは部屋に戻った。


「多分、明日から任務あるだろうね・・」風華が伸びをして言った。「やりがいがあっていいんじゃない?」僕が言うと、「楓の前向きさには敵わないよ・・」と返された。


僕の夢は神隠団員になることだった。でも、いざ叶うと気づく。


神隠団員になるだけでは、何の意味もないんだ。そこで何をするか。


そして、僕の目標はもちろん一つだ。妖冥が発生し続ける元凶を見つけ出し、滅殺する。


きっといる。数百年、人に恐怖を覚えさせてきた妖冥の『頂点』が。


もちろん、僕一人では無理だ。精鋭特務部隊や、他にも沢山の人の協力が居る。どうやって協力を得るか、その手段は一つしかない。『協力したい』と思われる人間になるんだ。僕が変わらければ、周りからの視線も変わらない。琉晴・鳴海・風華と一緒だったら、僕は実現できると信じている。




「幹部を目指すよ、みんな」僕が言った。「急にどうした?」と鳴海が言うが、僕はただ笑っていた。




「妖冥との争いは、僕たちの代で終わらせる」

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