14話 精鋭特務部隊
「ガキ一人で俺様の相手をするつもりか?」夜叉が薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる。
「そうだよ。少しの間だけどね」僕は刀を鞘に収め、拳を握りしめた。
夜叉は触手を繰り出し、僕に向かって襲いかかる。なるほど、本体も触手を使ってくるんだね。
僕は腕で攻撃を受けとめ、硬化能力を発動させた。触手が僕に触れた瞬間、夜叉の攻撃が一瞬止まる。その間に僕は距離を取り直し、次の攻撃が来るまでの時間を伸ばす。
「やるじゃないか、ガキ」夜叉は舌打ちしながらも、その目には警戒の色が浮かんでいた。
「これからやってくる精鋭にビビってるんじゃないの?」段々と僕は楽しくなってきて、夜叉を挑発し始めた。すると、夜叉は目の色を変えて攻撃してきた。少し後悔。
再び触手が襲いかかるのを見極め、硬化能力を使って次々と防御する。硬化して相手の動きが鈍るたびに、僕は後ろへ下がって距離を保った。
ずっと続けてきた足運びの鍛錬はこういうところで活きてくるんだ。正確に自分の身を置きたい位置へ置ける。戦闘においてこれがどれほど重要か。
「少しでも時間を稼ぐんだ・・」僕は自分に言い聞かせながら、必死に戦い続ける。何度も攻撃を受け、そのたびに硬化して耐え抜いた。でも、痛みを感じないわけじゃないんだよね・・いつか限界はやってくる。
夜叉は苛立ちを隠せておらず、次第に攻撃が荒々しくなっていく。痛みと硬化能力の連発で激しい痛みに苛まれるが、根性で僕は立ち続けた。
「早く来てくれ・・精鋭特務部隊・・!」心の中で祈りながら、全力で戦った。
突如、夜叉の攻撃が一瞬止まる。僕はそれを見逃さず、全神経を研ぎ澄まし、意識を拳に集中させた。そして僕は硬化した拳で夜叉の顔面に一発お見舞いしてやった。
「やった!」初めて能動的に硬化能力を発動することが出来た!!まぁ、全く夜叉は怯んでないけど・・
すると、遠くから轟音が響き、精鋭特務部隊の到着を知らせる声が聞こえてきた。
「楓、よくやった!もう大丈夫だ!」鳴海たちが駆けつけてきた。
僕は緊張が解けて力が抜けてしまい、その場に倒れ込んだ。
すぐに琉晴が僕を抱えて運んでくれた。皆とやってきた三人の隊士が夜叉の方へ走っていく。
「あの三人が精鋭特務部隊だよ、楓」風華が指をさして教えてくれた。「お前、手に血ついてるけど大丈夫か?」鳴海が言ったので、僕が「夜叉の顔を一回殴ったから・・それで付いちゃった」と返した。
「君、あの夜叉を相手に一撃入れたのか!?」試験官の人が目を丸くしていた。「はい。硬化能力のおかげで出来たことですけど・・」と言うと、試験官は「こりゃあたまげた・・」と頭を掻いていた。緊張感ないね。
この短時間の会話のうちに、精鋭特務部隊の三人は夜叉を追い詰めていた。
「話に聞いてた通り、化け物だな・・あっという間に終わっちまった」鳴海が言った。夜叉の断末魔が森の中に響き渡り、試験は終わりを告げた。
戦闘を眺めていた僕のもとに、精鋭特務部隊の三人が歩いてきた。
「君が、俺たちが来るまでの時間を稼いでくれたのか?」一人がしゃがんで言った。「はい!」そう答えると、「名前は?」と聞かれた。
名前を教えると、隊士は「覚えておく。自分では敵を倒さず、強者が来るのを待って勝ちを手にするとは・・13歳近くの子どもにできる芸当ではないな」と笑ってこの場を離れた。
「やっと終わった・・・・」僕は琉晴に支えてもらい、なんとか立ち上がった。
「それでは、この妖冥を討伐・・はしていないが、第一段階のコイツを討伐したということで、ここに居る十二人は合格だ」僕らのことを見渡しながら試験官が言った。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」それぞれが喜びの声を上げた。僕・鳴海・風華は互いに抱き合い、喜びを分かち合った。
「ほら、琉晴もおいでよ」僕が言うと、「俺はいい」と冷たく返されたので、三人で琉晴を囲んでもみくちゃにした。琉晴は、少しだけ笑ってた。
「今回は特殊な試験となり難易度も高かったと思うが、本当によくやった。特に、指揮を取って皆を引っ張った琉晴、特攻隊長を務めた鳴海、精鋭特務部隊が来るまでの時間を稼いだ楓。この三人の活躍は称賛に値する。しかし、この三人に任せず勇猛果敢に攻め、討伐に貢献した残りの九人も不可欠な存在だったと言えよう」試験官は、僕たちの欲しい言葉をすべて与えてくれた。
「褒められちまったな、俺ら」鳴海が照れ笑いする。「静かにしろバカ」琉晴が鳴海を叩く。
「さて、明日は筆記試験だ。過酷な実戦の試験を通過したのに、筆記試験の出来の悪さで落とされることのないように。まあ、君たちなら大丈夫だと思うが」
僕たちは寮に戻った。
「俺正直、楓のこと舐めてたわ・・」鳴海が少し自信を失っていた。琉晴は「最終手段とは言ってたが、まさか本当に実行することになるとは思わなかった」と言った。多分、皆そうだ。
「柚を守れなかったのが唯一の心残りかな・・」嬉しい気持ちと、悲しい気持ちが入り混じっている。守れなかった不甲斐なさでため息が出てしまう。
少し休んでいると、急に琉晴が布を頭に巻き、袖をまくった。
「どうせお前らのようなヘタレは一日何も食っていないから死にかけだろ。俺は大丈夫だが仕方ないから夕飯を作ってやる」ツンツンツンツンデレ!?
「助かります!」鳴海は都合の良い対応をしていた。
料理をしているときの琉晴は、どこか楽しそうだ。作るのが好きなのかな?
でも、料理中の琉晴に話しかけるとすごく不機嫌になる。一回、すごく冷たくされた。料理に集中してるんだろうけど・・
「はいはい、起きろ。夕飯だ」琉晴はおたまで鍋を叩き、鳴海のことを起こした。
「いただきます」琉晴の作るご飯はいつも美味しい。ちょっと量が多いけど。「琉晴って、ご飯作るの好きなの?」気になっていたので聞いてみた。「誰がこんな作業を楽しいと思うんだ」と琉晴は吐き捨てた。「でも、かれこれ一年はご飯作り続けてくれるよね・・?」分担制にしようという提案を何度かしたけど、毎回琉晴が反対して却下になっていた。
「飯を作るのは好きじゃない。ただ、俺の作った飯を食う人間の顔を見るのは・・嫌いじゃない」琉晴が頬を紅潮させて言った。「意訳するけど、美味しそうに自分の料理を食べる皆の顔を見るのが好きってこと?」風華が言うと、琉晴は「そんなことは言ってない。早く食え」と不機嫌になった。
「まぁ、細かいことはいいじゃねぇか。いつも美味い飯作ってくれてありがとな、琉晴」鳴海が笑顔で言うと、琉晴は黙った。
翌日、僕たちは主殿に隣接した施設で筆記試験を受ける。
試験会場には永善さんが待っていた。
「よし。君たち12人が実戦試験を突破した若き英雄たちだな」茶化すように永善さんが言うと、控えめな笑いが起きた。
「筆記試験だ。当然だが黙って自分一人で解くこと。覗き見等不正行為が発覚した場合即不合格、及び神隠団から永久追放だ。つまり、二度と試験は受けられない。研修生の立場もなくなる」
誰もそんなことはしないはずだ。
「制限時間は三十分。では係の者が紙を配るから待っておけ」永善さんは皆の正面に座った。
「では、始め」
すぐに僕は問題用紙へ視線を移した。
問一「妖冥は大きく三つの分類に分けられる。それぞれの分類の特徴を簡潔に述べよ。」
僕は筆を取り、回答用紙に書き始めた。
夜叉・・人間に似た外見を持つ妖冥。知能が高く、戦術的な行動をとることが多い。武器や道具を使うこともある。
獣冥: 動物の姿をした妖冥。獣の本能に従った行動をし、俊敏性や力強さが特徴。群れで行動することが多い。
異形: 人間や動物の形態を超えた、異様な姿の妖冥。奇怪な能力を持つことが多く、対処が難しい。
まだ簡単だ。知識があれば簡単に答えられる。
問二「三人以上の集団で人型妖冥と戦う場合、効果的な戦術を具体的に説明せよ。」
楓は頭の中で過去の戦闘を思い浮かべ、最も効果的だった戦術をまとめていった。
先手を取る・・高い知能を持つ人型妖冥は先手を取られると劣勢に立たされることが多い。奇襲や迅速な初撃が重要。
役割分担・・各団員の能力を最大限に活かすため、攻撃役、防御役、支援役と役割を明確にする。攻撃役が前線で戦い、防御役が仲間を守り、支援役が回復や援護を行う。
連携攻撃:・・一人の攻撃が通りにくい場合でも、連携攻撃で弱点を突く。今回の受験生で例を上げるのであれば琉晴の素早い剣技で隙を作り、風華の矢で仕留める。
問三「戦闘が不利な状況に陥った場合、どのように戦略的撤退を行うべきか。具体例を挙げて説明せよ。」
最近の戦闘での経験を踏まえ、慎重に回答を組み立てた。
状況把握:・・敵の強さや周囲の地形を迅速に把握する。例えば、前日の強敵との戦いでは、琉晴が状況を見極めて撤退を指示した。
退路の確保・・退路を確保しつつ、敵の追撃を防ぐために障害物や罠を設置する。撤退時には僕の硬化能力を利用して、敵の攻撃を防ぎながら安全に後退する。
連携・・全員で連携を取りながら撤退する。例えば、鳴海が相手の体の一部を切断して敵の動きを封じ、僕が硬化能力で防御し、他の団員が援護する。
問四「妖冥の弱点は基本的にふくらはぎである。ふくらはぎが弱点である妖冥と戦う際の戦術を具体的に述べよ。」
弱点の露出・・まずは敵のふくらはぎを狙って攻撃し、弱点を露出させる必要がある。攻撃役が素早くふくらはぎを狙い、防御役が敵の反撃を防ぐ。
連携攻撃・・ 弱点を露出させた後、連携攻撃で弱点を集中攻撃する。例えば、鳴海の強力な一撃でふくらはぎを狙い、琉晴の迅速な剣技で隙を作る。風華の矢で弱点を仕留める。
対策・・敵がふくらはぎを守るために動きが鈍くなることを利用し、他の部位への攻撃を織り交ぜる。敵の動きを封じつつ、弱点を確実に攻撃する。
回答が終わり、僕は深く息をした。疲れた・・・・
割とよく書けたと思っている。例を上げるといいという団員からの助言をもとに、具体的な人物名を出して回答した。
「そこまで」永善さんの一声で、僕たちは筆を置いた。
紙は回収され、しばらく待機させられた。
永善さんたちが戻ってくると、合格発表が始まった。
「では、合格者の発表だ。合格者は・・」室内に緊張が走る。
「ここに居る十二人、合格だ。おめでとう」永善さんが微笑んだ。「やった!!!」僕も思わず声を出してしまった。喜びの声は連鎖していき、僕と鳴海は目を合わせて笑った。
「ただ、あえて順位を発表しておこう。総合成績の発表だ。これには、第一選抜試験の成績も反映されている。一位、琉晴。二位、楓・・」
本当に嬉しかった。琉晴に次いで二位・・!
その後も何人か呼ばれ、風華は七位、鳴海は最下位だった。
「俺最下位!?」鳴海は崩れ落ちていた。
「鳴海は・・筆記試験の出来があまりにも悪く、最下位にさせてもらった。筆記試験が普通に書けていれば三位だったがな・・」永善さんは苦笑していた。
「なんて書いたの?」僕が聞くと、鳴海は「全部の欄に『気合』って書いちまった」と言った。
それは最下位でも文句は言えない。
「まぁ、実戦での活躍を踏まえて合格にした。あまり気を落とすな、誰にでも苦手分野はある」永善さんは慰めた。
「皆さま合格おめでとうございます。今日から、ここに居る十二人は正式な神隠団の一員として、妖冥との戦いに臨んでいただきます。今の世界には、皆さんの力が必要です。共に戦い、共に守り抜きましょう」団員の人の言葉に、僕らは胸を張って答えた。
「はい!」
これから始まる新たな戦いに向け、僕たちは決意を新たにした。
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