11話 団結

 まだ薄暗い早朝、神隠団本拠地には緊張感が漂っていた。


選抜試験に挑む研修生たちは、一様に引き締まった表情で集合場所に集まっていた。


僕もその中に立ち、心の中で決意を新たにする。




「ざっと見た様子だと、二十人くらいは居るようだ」琉晴が言った。


「果たして何人が合格できるんだろうね・・」そう言って風華は遠くを見つめた。




「おはよう」永善さんが皆の前に出て言った。


「おはようございます!」研修生の声が揃う。


「今日から始まる第二選抜試験は、お前らの覚悟と実力を試すものだ。試験は三日間行われ、妖冥の潜む山で生き延びつつ、一日に必ず一体の妖冥を討伐しなければならない。つまり、自分の身を守るだけでなく、自ら敵を見つけ出し、奴らの下腿三頭筋に刃を通す必要があるということだ。


この試験では毎度のように死者が出ている。今回は全員が無事に生還することを祈ろう。準備はいいな」


「はい!」研修生たちは一斉に答えた。




僕は琉晴と目を合わせ、互いに頷いた。一方、鳴海は柚と風華と共に気合を入れていた。


「絶対に合格するぞ!楓と琉晴もまた3日後に会おうな!」鳴海が言った。


「うん、お互い頑張ろうね」僕が答えた。




 試験が開始されると、研修生たちはそれぞれの集団に分かれて山へ向かった。


「単騎行動もいるようだな」琉晴が目を細める。


あまりにも危険だと思うけど・・琉晴のような実力者ならば単騎行動での合格も視野に入るか。


僕は琉晴と二人行動、鳴海と柚と風華は三人行動で進むこととなった。


山の入口に立った時、僕は其の険しさに圧倒されそうになるが、琉晴の冷静な表情に励まされて前進を決意した。




「よし、行こう」僕は深呼吸した。


「今日の目標は最低でも一体の妖冥を討伐することだ。慎重に行くぞ」琉晴が言った。


「うん、わかってる。絶対に生き延びて合格しよう」


琉晴は無言で頷いた。




僕と琉晴は、山の中腹まで慎重に進んだ。途中、鳥のさえずりや風の音に耳を澄ましながら、周囲の異変を感じ取ろうとしていた。やがて、琉晴が立ち止まり、手を上げて合図を送る。




「何か居る」琉晴は低い声で言った。


僕も耳を澄ませた。その瞬間、茂みの奥から低い唸り声が聞こえてきた。僕らは互いに視線で合図を交わし、武器を構えた。




「行くぞ、楓。準備はいいか?」


「うん、いつでも」




茂みから姿を現したのは、獣の姿をした妖冥だった。鋭い牙と爪を持つその姿に、僕は一瞬見をすくめそうになるが、硬化能力があることを思い出して自信へと変えた。




「楓は左から回り込め。俺が正面から引き付ける」琉晴が指示を出した。


正面衝突のような危ない役目を僕が人に任せることはない。


ただ、琉晴なら信用できる。きっと大丈夫だ。


僕は頷き、左側に回り込む。琉晴が剣を構え、妖冥に向かって突進した。妖冥は鋭い咆哮を上げ、琉晴に向かって突進する。しかし、琉晴はその動きを読んでいたかのように回避し、素早く攻撃を仕掛けた。




「今だ、楓!」琉晴が叫ぶ。


僕はその合図に応え、妖冥の横腹を狙って斬りかかった。鋭い刃が妖冥の肉を切り裂き、妖冥は苦しそうな声を上げた。しかし、すぐに反撃してきた妖冥の爪が僕に迫ってくる。


爪が当たった瞬間、僕の体は硬化して妖冥を弾き返した。




「お前の能力を信じたのは正解だった」琉晴は僕を助けるつもりがなかったようだ。


「ふふん」僕は再び刀を構え、今度は正面から妖冥に挑んだ。




妖冥の攻撃を巧みにかわしながら、少しずつ攻撃を与えていく。やがて、妖冥は疲れ果て、動きが鈍くなっていった。その瞬間を見逃さず、僕と琉晴は同時に攻撃を仕掛けた。




「これで終わりだ!」僕は全力で刀を振り下ろし、妖冥の首を斬り落とした。


妖冥は断末魔の叫びを上げ、地面に崩れ落ちた。


僕らは息を整えながらふくらはぎを切り、妖冥を殺した。




「よし。順調だ」琉晴が微笑んで言った。


「だね。琉晴がいてくれて助かったよ」


妖冥の頭蓋骨を討伐した証拠として回収し、僕たちは次の獲物を探し始めた。




複数人で行動することの問題点は、人数の分だけ一日あたりの討伐量が増えることだ。


二人行動であれば、一日に妖冥を二体討伐する必要がある。単騎行動であればその点を留意しなくてよいというのが利点だ。




      *




 一方、鳴海、柚、風華の三人も山の中を進んでいた。彼らは互いに弱点を補い合いながら、慎重に行動していた。




「鳴海、妖冥の気配はどう?」柚が尋ねる。


「近くに居る気がする。気を引き締めよう」俺は応えた。


風華は緊張しながらも、俺たちの背中を信頼して進んでいた。


三人で息を合わせ、妖冥に立ち向かう準備を整えた。




突然、風華が立ち止まり、険しい表情で前方を指差した。


「鳴海、柚、あそこに妖冥がいる」風華の声は震えていた。


「どんなやつだ?」俺が聞くと、風華は「少なくとも三体。人型の妖冥だ」と答えた。


「三体・・一筋縄じゃいかないね」柚は笑顔でそう言い、刀を抜いた。




三人で互いに目配せをし、息を合わせて前進する。やがて、茂みの向こうに人型の妖冥(夜叉)が現れた。三体の夜叉は鋭い目つきでこちらを見つめ、攻撃の機会を伺っていた。




「やるしかない。皆、準備はいいか?」俺が確認すると、風華は「もちろん」と答え、弓を構えた。


半年ほど前、近接での戦闘能力が乏しい風華は弓術が秀でていることに気がついた。それから風華はみるみる技術を磨いていき、遠くから木の実を射ることも出来るほどになった。


夜叉は絶好の的に違いない。俺らは風華を信頼し、二人で近接戦闘を仕掛ける。




夜叉たちは一斉に動き出し、三人に向かって突進してきた。俺は素早く前に出て、夜叉の攻撃を受け止める。風華はその隙を突いて矢を放ち、柚は巧みに回り込んで反撃の機会を伺った。




「クッソ・・!」三体の夜叉はそれぞれが異なる攻撃手段を持っており、戦闘は激しさを増していった。


俺は体格を生かして防御を固めつつ反撃を狙う。風華は遠距離から正確な射撃を繰り返し、柚は素早い動きで夜叉を翻弄する。


しかし、夜叉たちは手強く、連携を駆使して俺らを圧倒し始めた。柚が夜叉の攻撃をかわしきれず、倒れかけた瞬間、間一髪で俺が救い出した。




「大丈夫か!」俺は叫ぶと、柚は「ありがとう、鳴海。でも、このままじゃまずいよ・・」と辛そうな声で言った。


夜叉は他の妖冥に比べて賢いらしいからな・・連携能力も高い。厄介な相手だ。




夜叉の猛攻により、俺たちは次第に追い詰められていった。俺の防御も限界に達し、風華の矢も残り少なくなってきた。柚は足を負傷し、動きが鈍くなっていた。




「くそ・・このままじゃ全滅する・・」俺は唇を噛みしめた。


その時、突然、遠くから甲高い叫び声が聞こえた。夜叉たちが一瞬注意を逸らした隙に、琉晴と楓が駆けつけてきた。




琉晴が「クソ・・手間取らせやがって」と呟きながら突進する。


「助けに来たよ!」楓も刀を構えて駆け寄った。




琉晴と楓の到着により、形勢は逆転した。琉晴は瞬時に状況を把握し、指示を出す。


「楓、お前は右の妖冥を抑えてくれ。鳴海は左、俺と柚は中央を攻める」


「了解!」楓が力強く答え、右の夜叉に向かって突進した。




楓の刀が夜叉の動きを封じ、俺は左の夜叉に集中して攻撃を仕掛ける。中央の夜叉には、琉晴と柚の連携攻撃が加わり、次第に夜叉たちは劣勢に追い込まれていった。




「おりゃああああ!!!」俺は叫びながら左の夜叉に一撃を加えた。すると、夜叉の動きがピタリと止み、膝から崩れ落ちた。


「いけ、楓!」琉晴が叫び、楓は全力で刀を振り下ろし、右の夜叉を討ち取った。


中央の夜叉も、琉晴と柚の連携攻撃により、ついに倒された。


柚の雄叫びは酷いものだったが。


「おらぁしねええええええ!!!!」


まぁ、聞かなかったことにするか。




三体のふくらはぎを斬ったあと、俺たち五人は息を整えた。


「本当に助かった。二人とも本当にありがとな」俺は頭を下げた。すると、「楓が『鳴海の叫び声が聞こえる』って俺を引っ張ってきたから仕方なくだ」と琉晴が言った。


「素直じゃないよね~、琉晴って」風華が弓を手入れしながら言った。


「まぁ、琉晴はこのままでいいじゃねぇか。俺らが今生きてるのは琉晴のおかげだぜ?」と言うと、「ちょっと鳴海、僕は?」と楓が頬を膨らませた。


「悪い、もちろん楓もだぜ」




「一年、寮生活を共にした奴らが死ぬってのは気分の良いもんじゃないからな」


琉晴がぼそっと言った。何だかんだ、俺らを仲間として大事にしてくれてんじゃねぇか。


きっと、琉晴は不器用だなけだ。




「ほんと、無事で何よりだよ」楓が笑って言う。




「一つ問題がある」ほんわかした空気になったところで琉晴が言った。「何だ?」と俺が聞くと、琉晴は「今俺たちのもとにある頭蓋骨の個数を数えてみろ」と言った。




俺たちは一つずつ指をさしながら数え、同時に気づいた。


「四つしかない・・」柚が言った。琉晴は「そうだ」と答え、場には静寂が流れた。


「あと一体は、五人で倒しちゃおうよ」風華が言うと、楓が「それ賛成!!」とはしゃいで手を上げた。


「・・まぁ、お前らがそれでいいなら俺は構わん」琉晴が言った。




「じゃ、妖冥探しに行こ!」柚が勢いよく立ち上がったが、その後すぐにしゃがみこんだ。


「私、足痛めてるんだった・・」柚が言うと、「何してんだお前」と言って琉晴が控えめに笑う。




      *




 五人で山の奥深くへと進んでいくと、大きな岩陰に隠れていた巨大な妖冥が姿を現した。その妖冥は、獣のような姿と人型の特徴を併せ持ち、その姿は一際異様だった。




「これは・・今までの妖冥とは違うな」鳴海が呟いた。


「お前ら、気をつけろ。手強い相手に違いない」琉晴が言った。おそらく僕と琉晴が倒した妖冥は三級。鳴海たちが遭遇した三体は準二級。


この相手は二級以上の気配を感じる・・




「五人なら・・勝てるはず」僕が言うと、各々が武器を構えた。


準備が整ったところで鳴海が言った。




「攻撃・・開始!」

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