10話 重荷

 獣冥を倒した翌日から、僕は自分の持つ硬化能力について調べてみることにした。


「まず、本当なの?」風華は疑ってきた。


「本当だよ!俺がこの目で見たんだよ!!」鳴海が全力で主張する。


とりあえず、先生に聞いてみよう。




「先生、体を硬化させる能力とかって聞いたこと無いですか?」


「硬化能力か・・近頃は聞かないが、昔、その能力を持つ伝説の剣豪がいたということは知っている」先生は顎ひげをいじくりながら言う。


「伝説の剣豪?」


「ああ。『風龍剣一ふうりゅうけんいち』という名の男で、神隠団の黎明期を支えていた伝説の隊士だ。神隠団員で知らない者はいないだろう」


「詳しく教えてほしいです!」




先生は頷いて腰を下ろした。


「剣一は背が高く、白髪が混じった黒髪を後ろに束ねていたらしい。そして、鋭くまるで雷のような光を宿している青い瞳だったそうだ。白と青の戦闘服を常に着用し、背中に雷の模様が描かれていた。


一番の特徴は硬化能力。自身の戦闘能力も飛び抜けているのは当然だが、彼が妖冥との戦いで負け知らずだったのはその『硬化』のおかげだったという。


若い頃からその剣技を磨き、妖冥との戦いで名を馳せた。神隠団の創設に際して、彼一人で多くの妖冥を討伐し、団の基礎を築いたそうだ。


多くの伝説的な逸話があり、特に一度に百体もの妖冥を相手にし、全てを倒したという話が有名だ。それから、神隠団の紋章には雷が刻まれている」




なんという化け物。


硬化がなくても強かったはずだけど、伝説は硬化能力あってこそだもんなぁ。




「伝説の隊士と同じ能力を持っているんだ。お前には才能があるに違いない」先生が言った。


「精進します!」




 まず、発動条件について調べる。


「思い切りやっていいんだな?」琉晴は竹刀を握り締めている。


「うん。容赦なくやっていいよ」


琉晴は僕の背中を思い切り打った。




「いった!!!!!!」


硬化など起こらず、背中に激痛が走るばかりだった。


「はぁ・・?」琉晴は呆れていた。


「まさかお前・・偶然だったとか言わねぇよな?」鳴海が言う。


「多分、攻撃の強度が足らん。真剣でやってみろ」先生が言った。


「本気で言ってます?」


死にますよ?僕。




「いくぞ」有無を言わさずに琉晴は真剣を構えてきた。


「えぇ・・」


琉晴の振り下ろした真剣の刀身が腕に触れた瞬間、刀が折れた。




「おぉ!!!」周りから歓声が上がる。


「本当に出来た・・」


真剣じゃないと駄目だったのか。


「おそらく、重症を負う、もしくは死に至るほどの攻撃でない限り発動しないようだな」先生が言った。


「おい、お前・・なんか目青いぞ?」鳴海が僕の顔を見て言う。


「え?」




「本当だな。青い」琉晴が言った。


「硬化した部分は今どう?」柚が言った。


「もう柔らかい。いつも通りだよ」


攻撃を受けてる瞬間だけ硬くなるんだ。




「あれ、目の色戻ってる」風華が言った。


うーん・・能力を発動すると青くなるのかな?




「その、目が青になるってのがどんな意味を持つのかも調べてみようぜ」鳴海が言った。


「それがいいね」


皆鍛錬を忘れて能力に夢中になっている。




「猪に突進されてくれないか?楓」琉晴が言った。


聞いたことのない願いである。


「いいけど・・」


山の中に入り、猪を見つけた僕らは草原までおびき寄せてきた。




「いけ、楓!」鳴海は本当に無責任だ。


猪を挑発すると、すぐさま僕の方へ突進してきた。




「ぐっ・・!!」


僕へ猪が接触した瞬間、猪の牙が折れた。




「やっぱり碧眼になってる・・!」柚が言った。


「それに、髪色も若干変わっている」琉晴が言った。


「嘘でしょ?」そんなのもう僕じゃないじゃん・・


「なるほど・・」


と呟きながら、先生は何かを記録しているようだった。




「ちょっと待って・・」


目の前に居る猪がみるみる大きくなっていく。


牙も生え変わり、毛もフサフサになった。




「これ妖冥じゃん!!!」僕が叫びながら逃げようとした瞬間、猪の獣冥は苦しそうな声を上げて倒れた。


「一体何が・・?」先生が言った。


すると、妖冥の後ろから血のついた刀を持った琉晴が出てきた。




「俺が斬った」刀に付着した血を払いながら言った。


こんな一瞬の間にどうやって・・


「敵が動いてねぇうちに決着をつけるのは鉄則だ。人間との戦いであろうと、妖冥との戦いであろうと」


柚と風華は完全にときめいていた。




「かっこいい・・」二人が目を合わせて言う。


「黙れ。妖冥との戦いは常に死と隣り合わせだ。あまり呑気なことを言ってる場合か」


琉晴、柚たちには未だに厳しいよなぁ~。




「こんな危ねぇところで能力を調べるのはやめとくか。楓の碧眼についてはまた後日にしようぜ」


琉晴が言った。


「そうだね」




 数日後、先生に僕の能力と剣一の共通性について尋ねた。


「まず、碧眼というのは完全に剣一の特徴と一致している。しかし、剣一の碧眼に何か特別な能力があったかは不明だ。そして、楓は能力発動時に髪色が灰色っぽく変化し、少し長くなった。剣一の髪色は白髪の混じった黒髪だったという情報から、ここも共通性があると言えるだろう」


「ただ、別に硬化以外の能力は発現してないですよね・・身体的特徴が剣一さんに寄っているだけで、何も変わらない気がします」僕は反論した。


「ここで、二つ仮説を立ててみよう。まず、剣一も元々は楓と同じく日本人らしい風貌をしていたが、硬化能力を使い続ける中で碧眼・白髪へと変化したという説だ。二つ目は、人々は『戦っている最中の剣一』つまり、身体的特徴が変化している状態の剣一を『風龍剣一』として認識していたため、普段は普通の見た目をしていたが気づかれなかった。という説だ」


「なるほど・・」




僕と、伝説の剣豪である剣一には共通点が多いらしい。


でもどうして・・?僕みたいな劣等生なんかより、琉晴みたいな才能も実力もある人がこの能力を持つべきだ。




「剣一さんと同じ能力なんて、僕には荷が重すぎますよ・・」


期待されてるほどの役目を果たせなかったら?


それどころか、硬化以外ただの劣等生だったら?


「弱音吐いてんじゃねぇよ」


後ろで話を聞いていた琉晴に背中を叩かれた。


「いった・・」


「もうお前は重荷を背負っちまったんだよ。一度背負った荷物を途中で下ろすなんて、俺が絶対にさせてやらねぇから」真剣な表情で琉晴が言う。


確かに、琉晴の言うとおりだ。生まれ持った能力がない人はたくさんいる。その人たちが喉から手が出そうなほど求めている『能力』を持った僕が、その荷物を放棄するなんてあまりにも無責任だ。


必ず、この重荷は僕の墓まで持っていくよ。何度転んでも、何度倒れても。




「たまには・・俺も肩貸してやる」琉晴が言った。


「やっぱ優しいじゃん、琉晴」


「死ね」そう吐き捨てて琉晴はすぐどこかへ行ってしまった。




 とうとう、研修生になって一年が経過した。今日、僕たちは明日受ける『第二選抜試験』の説明を受ける。


これで入団出来るか否かが決まる、とても大切な意味を持った試験だ。何が何でも合格しないと。


訓練場にやってきた僕たちは、再び永善さんと顔を合わせることになった。




「只今より、第二選別試験の説明を行う。が、この試験の内容は単純明快だ。内容はたった二つだけ。


其の一・・森に三日間潜入し、一日に最低でも一体の妖冥を討伐、そして生還により合格。


其の二・・筆記試験。高度な問題を解いてもらい、必要な知識と柔軟な判断力を兼ね備えているかを確認する。


一つ目の試験では死者が出ることも珍しくない。覚悟を決めて臨むように」




 鍛錬を終えて寮に戻ってきた。


「一日に妖冥を一体って・・最低でも三体倒すんでしょ・・?」風華が言った。


「協力してもいいらしいぜ。5人行動してどんどん倒していくのが良いんじゃねぇか?」と鳴海が提案するが、琉晴は嫌だと言って却下された。


「俺は一人で行動する。足手まといを増やす気はない」


まったくもう・・




「琉晴、僕と二人だったら・・どう?」首を傾げ、かわいこぶってみた。


沈黙が数秒続く。


「まぁ一人くらいなら許容範囲・・」


「おいおかしいだろお前!楓に惑わされんな!」鳴海が言った。


「そうだよ!可愛い声出せばいいってもんじゃないでしょ!!」柚も怒っている。


「選ぶ権利は俺にあるはずだ」琉晴は冷静だった。




「へへ、じゃあ琉晴は僕がいただくよ」


「ずるいなー」風華が言った。


その後、僕も結局琉晴に脅されたんだけどね。


「足引っ張ることを許可したわけじゃねぇからな」


「う、うん」

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