7話 天才は盗む
その日の晩、僕たち受験者は建物の中に集められた。
「これにて、全ての工程が終了した。只今より、合格者の発表を行う」
一気に緊張感が走った。
ここで名前が呼ばれなかったら・・霞月さんに合わせる顔がないと、僕は脂汗を流した。
「琉晴・鳴海・風華・柚・楓の五人だ」
「よし!!!!!!!」
反射的に声が出てしまった。
父さん、母さん、そして妖冥に殺されたみんな。
大切な人を守れなかった無念は、僕が必ず晴らす。
「呼ばれなかった十五人は残念だが不合格だ。またの機会に」
暗い表情の十五人が建物を離れていった。
「そして、先ほど呼んだ順番がそのまま試験結果の順位となる」
僕、五番目!?
めっちゃギリギリ・・っていうか、ほぼ偶然じゃん・・
「楓、よかったな!」自分は合格することが分かりきっていたかのような鳴海が肩に手を回してきた。
「危なかったよ・・二位って、鳴海は流石だね」
「これからもよろしくな、楓」
「もちろんだよ」
他の三人と話す時間はなかった。というか、話しかけられる雰囲気ではなかった。
「今日はお前らを寮に案内するだけになる。本拠地全体の案内など細かい説明は明日行う。では、案内を頼む」永善さんはそう言うと、早足で別の部屋へ移動していった。
総務部長となると、多忙を極めているのだろう。
「では、案内いたします」団員の人が言った。
「はい!」
しばらく着いていくと、簡素な建物があるのが見えた。
「こちらが、今後五人で暮らしていただく寮となります。また明日、周辺施設や本拠地の説明をいたしますのでよろしくお願いいたします」
「はい!」
団員の人はお辞儀をし、寮を離れていった。
「入ってみよっか」
寮はそこそこ広かったが、五人で暮らすには少し窮屈に感じた。
まぁ、研修生だし仕方ない。暮らす場所を用意してくれるだけで有り難いんだ。
僕たちは座布団に座った。
「まず、自己紹介しませんか?」小柄な女の子が言った。
「そうだな」鳴海が答える。
「俺は鳴海。13歳だ。よろしくな」
「私は風華。15歳。よろしくね」
「楓です。13歳です、これからよろしくお願いします」
「私、柚!よろしくね!あ、14歳!!」
滑らかに自己紹介は進んでいったが、一向に喋らない者が居た。
「次、君だよ」風華が催促する。
「ちっ・・しょうもねぇな。琉晴だ、好きなように呼べ」かなり雑な態度だ。
確かこの人は試験結果が一位だった。なのに・・こんな関わりにくい性格だと困っちゃうな。
「とりあえず、今日はみんな疲れちゃったし寝よっか。またこれからたくさん話す機会はあるだろうし、少しずつ仲良くなれるといいな」風華が言った。
翌朝。
僕含め四人は起きたが、鳴海は未だに爆睡中であった。おそらく、団員の人が来るというのに。
「鳴海~?」駄目だ、一向に起きる気配がない。
すると、琉晴が鳴海の頬をパチンと叩いた。
「さっさと起きろ、愚図」
「そんなに言わなくていいじゃないですか」流石にカチンと来てしまった。
「五位で滑り込み合格した奴がしゃしゃり出るな。気持ち悪い正義感で突っかかってきやがって」
確信した。この人とは仲良く出来ない。
「突っかかってるのは一体どっちですか」
「お前だろうがよ」今にも手を出してきそうな態度で琉晴が言った。
「朝から何だよ騒がしい・・」鳴海が起きた。
「まぁまぁ二人とも落ち着いて、今日は団員さんに案内してもらうんだからさ」柚が仲裁に入った。
「ごめんなさい、ちょっと頭に血が上っちゃって」
でも正直、琉晴って人が悪いでしょ・・
「チッ・・」まだ琉晴の怒りは収まっていないようだった。
団員の人が訪ねてきたので、僕たちは今から本拠地の案内と説明を受ける。
「まず、こちらが主門になります。本拠地の入口ですので皆さんも通ったでしょう。初代団長が拘って装飾を施したものになります。入口には門番所があり、警備が常駐して訪問者を確認します。許可なく立ち入ることは出来ません」
格好いい門だなぁ・・見た目から溢れ出る力を感じる。
「そして、中央広場です。ここには広大な訓練場があり、日常的な稽古も行われています。みなさんはここで試験を受けましたね。訓練場は砂利と草地で構成され、剣技や徒手格闘の訓練が可能です」
「ここで全団員が訓練は出来ないですよね・・他にも場所があるんですか?」
純粋に疑問を持った。
「ええ。ここはあくまで本拠地なので、神隠団のすべてではありません。他にも多数の基地や訓練場を持っています。基本的に団員は様々な拠点を転々としながら生活しています。稀に、自分の家で暮らす団員も居ますが」
霞月さんのことだ。
「大変ですね・・」
きっと、本拠地にずっと居るのはかなり役職の高い人らなのだろう。
「そして、この最も大きい建造物が主殿です。ここには神隠団団長や主要幹部が居住しており、重要な会議や作戦立案が行われます」
僕もいつか、ここに入ることができるのかな。
「続いて、修練館になります。剣技を鍛えるための広い道場があり、竹刀や木刀を使った稽古が行われます。隣には武器保管庫があり、刀、弓矢、槍などの武具が保管されています」
ずらりと並ぶ武具の姿は圧巻で、少し中の空気も冷たく感じた。
「こちらが居住区です。研修生寮をはじめ、高位団員や指導者のための個別の住居も設置されています」
「高位団員ってのは具体的には・・?」鳴海が尋ねる。
「精鋭特務部隊員や、一般の戦闘部隊員でも優秀な者は本部から声がかかります」
すごい・・手強い妖冥を倒すとやっぱり出世できるのか。
「これが医療施設で、医務室には医師や薬師が常駐しています。隣には薬草園があり、治療に必要な薬草が栽培されています」
移動含めて三時間程かかり、本拠地全体の案内は終了した。
「次は、研修生の日程について説明いたします。当然、変動する可能性もあるのであくまで参考程度に」
「はい!」
「5:00 - 6:00 早朝起床と身体鍛錬
6:00 - 7:00 朝食
7:00 - 8:30 基本剣技の稽古
8:30 - 10:00 戦術訓練
10:00 - 10:30 休憩
10:30 - 12:00 精神修養と瞑想
12:00 - 13:00 昼食
13:00 - 15:00 個別訓練
15:00 - 16:00 講義と座学
16:00 - 16:30 休憩
16:30 - 18:00 実戦訓練
18:00 - 19:00 夕食
19:00 - 20:00 復習と反省
20:00 - 21:00 自由時間
21:00 就寝準備と就寝 といった日程になります。最初は大変かと思いますが、頑張ってください」
源治さんと鍛錬をしていた頃と同じような生活だ。
たしかに大変だが、耐え難いものではない。成長に繋がるのなら全く苦じゃないしね。
「この生活を続けて一年経過すると、第二次選抜試験を受けることが出来ます。これは一次試験のように複数人から選ぶのではなく、一人ひとりで試験を受け、個人としての実力が団員として不足のないものかを判断するものとなります。つまり、全員合格も全員不合格もあり得るということです」
そこからは完全に個人の問題ってことね。
それまでにちゃんと実力をつけていかないと。一回の試験で合格が理想であり目標だ。
「説明は以上になります。では、皆様のご活躍とご健勝をお祈りしております」
「ありがとうございます!」
翌朝。5時に起きた僕は一時間ほど外を走ってきた。
戻ってくる頃には皆起きていたようだ。
「お、みんな起きたんだね。おはよう~」
「楓、どこ行ってたんだ?」鳴海が言う。
「朝は走らないと気が済まなくってね。一時間くらい走ってきたんだ」
「よくやるね・・だからあんなに長距離走も速かったんだ」風華が感心する。
「ペチャクチャ喋ってねぇでさっさと飯食えノロマ。作ってあるからよ」
琉晴は朝から機嫌が悪い。
・・って、え?
「琉晴が朝ご飯作ったの?」
「なにか問題あんのか?」琉晴のおでこに血管が走る。
「すごい!!こんな美味しいそうなご飯、僕と同い年くらいの人が作れるなんて・・」
「うるせえ早く食え!言っとくけど俺の方がお前より1歳上だからな」琉晴が怒鳴る。
「ごめんごめん、ほぼ同い年ってことでさ、許してよ」
「・・ったく、腹立つ野郎だな」
琉晴の作るご飯は彼の性格と真反対にすごく優しい味付けで、運動後でもしつこく感じなかった。
朝起きてみんなの分の朝ご飯を率先して作るって・・本当は仲間思いなのかな。
よくわからないお人だ。
「稽古が始まるから、訓練場に行こ!」柚が言った。
「そうだね」
基礎的な剣技の稽古を受けていても、琉晴の技術が別格なのは伝わってきた。
可動部の末端は脱力しており、体の中心に近い、より大きな筋肉は力を込める。
それによって、安定した動作ができる上に大きな力を生み出すことを可能にしている。
「おいお前!力任せに振りすぎだ!!」
先生に鳴海が怒られていた。まぁ鳴海の剣術は荒削りだからね・・
柚は速さに特化していた。力は強くないようだけど、風を切る音が鮮明に聞こえるほど鋭い振りだ。
「お前、どうして合格できたんだ・・」
先生も引いてしまうほどの剣術を披露していたのは風華だった。
今日初めて竹刀を握ったのかと疑ってしまうほど・・言っちゃ悪いけど変な動きをしていた。
確かに、合格できた理由はわからない。よっぽど他の試験の成績が良かったのかな。
「君、基礎の動きはよくできているが、まだ力と速度をもう一段階上げられるな」
「はい!」褒めてもらえた・・!
休憩時間に僕は琉晴に尋ねてみた。
「どうしたらあんなに速く、強く刀を振れるの?」
「知るか」琉晴は答えてくれなかった。
「お願い、僕も琉晴みたいに強くなりたいんだ」
「じゃあ、身を持って知ってもらおうじゃねぇか」
近くに置かれていた竹刀を手に取り、僕に渡してきた。
「模擬戦をしてやる。技術は教わるもんじゃねぇ、盗むもんなんだよ」
琉晴と僕は向かい合った。
待って、絶対に僕が負ける・・
「じゃあ、審判は俺がやってやる」会話を聞いていた鳴海も立ち上がった。
「一本勝負だよね・・?」
「三本勝負でもいいが、一本終わった時点できっとお前は動けなくなる」
震える手を必死に抑え、僕は竹刀が落ちないよう強く握った。
「始め!」
鳴海が言った瞬間、目にも止まらぬ速さで斬りかかってきた。
「くっ・・!」
霞月さん並の動きだ。ただ霞月さんと違うところは、全力で僕を仕留めに来ているところ!!
「出直せ、雑魚」
琉晴が思い切り僕の肩を打ち、僕は倒れた。
「大丈夫か!?」鳴海が駆け寄ってくる。
「う~ん・・」
明らかに感じたことのない痛みだ。
脂汗が止まらない。間違いなく怪我してる・・
「先生!」鳴海が遠くから先生を連れてきた。
「どうした?」先生が言う。
「竹刀で強く打たれて・・」僕が肩を指さした。
「誰が打った?」先生が眉をひそめる。
「俺だ」琉晴が言う。
待て、教えてほしいと頼んだのは僕。悪いのは琉晴じゃない。
「琉晴は悪くないんです!僕が模擬戦をしようと挑発して、こうなったので・・」
「そうか。とりあえず、医療施設に行くぞ。自力で立てるか?」
「はい・・なんとか」
鳴海と先生に体を支えてもらいながら、僕は医療施設へ向かった。
「あの野郎、黙って俺のせいにすれば良かっただろうが・・」琉晴が呟いた。
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