化け猫

海湖水

化け猫

 「にゃ、にゃぁ?」


 朝、私は目を覚ました。

 いつも通り窓から陽が入ってくる。しかし、なぜか、その窓がやけに高い場所にあることに気が付いた。


 「にゃ?……にゃ!?」


 いや、なぜさっきからにゃあにゃあ言っているのだ、私は。朝に弱いからって口すらまともに回っていないのはどうなのだ。

 とりあえず、布団から起き上がって、歯を磨こう。ほとんど開いていない目をこすりながら、私は洗面所へと向かおうとする。

 ……なんで四足歩行なんだ?私はなぜか手を地面についていた。いや、すでにこれは手とは言えないかもしれない。

 猫の前脚だ。嫌な想像が頭をよぎる。私は近くの窓に顔を近づけた。


 「……にゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 私が見た、自分の姿。それは猫だった。

 茶色の体毛にシュッとしたボディ。体毛がフワフワしていて、人間のころよりも温かさを感じるのは気のせいだろうか?

 私は動物の毛全般にアレルギーを持っているのだが大丈夫なのだろうか。

 そんな現実逃避のようなことを頭の中で考えていると、スマホのアラームが鳴り響いた。そういえば、今日は朝にちゃんと起きれるようにアラームを13重にかけたんだった。

 私はアラームをかけた理由を思い出す。そうだ、今日は友達と会う約束をしていたんだった。

 友人にはあとで断りのメールを送っておかなくては。

 私は苦笑する。まだこんなことを考えることができるというのは、随分とのんきなものだ。普通の人間ならば、何故猫になったのかと混乱するはずなのに。

 いや、混乱していないというと嘘になるだろう。確かに混乱している。その混乱している頭の中のことを整理することができないだけだ。

 とりあえず外に出てみれば何かわかるかもしれない。

 私は窓を猫の手で無理やり開けると、外に飛び出した。あまり現実的に思えないのは、これが夢だと思っているからだろうか。



 「うん、化け猫」

 

 公園についてから会った猫に話しかけると、なんと言葉が伝わることがわかった。その中でも、特に猫に関して知っているということで有名らしい、長老の第一声だった。

 

 「にゃ?」


 長老はなぜか人間の言葉を猫の声帯で話すことができているが、私にはもちろんそんな技術はない。しかし、向こうは自分の言いたいことがわかるのか、しっかりと知りたいことには答えてくれた。


 「たまにいるんだよ、子供の頃から人間として過ごしてきたことで、自分のことを人間だと思ってる化け猫。まあ、あんまり珍しいことじゃないから安心しな。数日間訓練すれば元の姿に戻れるさ」


 その後、ショックによって、ねこんでしまったのはナイショである。

 ショックを受けたのは、人間でなかったことなのか、それとも自分の家族が全員猫だということに気づいてしまったからか。

 数日間訓練すれば、化ける能力が少しは手に入り、今では以前と何も変わることなく過ごすことができている。

 化ける能力は殆ど、猫に小判のようなものだったが。

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化け猫 海湖水 @Kaikosui

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