第12話買い出し

次に目が覚めるとちゃんと戻っていた。

かすんでいる視界の隅にシーターの顔が見える。

さっき様子を見たから知っていたが、俺が泊まっている部屋のベットに寝かされている。

女性しかいなかったが協力して運んでくれたのだろう。

手で目をこすりかすんでいる視界を正常に戻す。

「レイ君、大丈夫?」

手を動かしたことで俺が起きたことに気づいたのだろう。

「うん、大丈夫。少し疲れてたのかも」

本当のことは言えなかった。

だって本人が目の前にいるんだもの。

本人の前でなければ言えるのかと言われてもNOと答えるが本人がいれば尚更だ。

「ちゃんと休んでくださいね」

「うん。・・・・・・そういえばどれ位経った?」

「4、5時間ですね。そろそろお昼ご飯ですよ」

あれ?そんなに寝てたの?

・・・・・・・・・ということは・・・・・・

「ごめん、ご飯作らないといけないのに時間とっちゃって。僕も手伝うから今から作ろう」

「そんなすぐに動いたらダメですよ。ご飯はお姉ちゃんが代わりに作ってくれてますから心配しないでください」

「・・・・・・分かった」

皆さんに迷惑をかけてしまったな。

ただでさえ居候させてもらっているのに。


少し待っていると、お昼ご飯ができたという声が聞こえた。

起き上がろうとするとシーターに止められる。

もう大丈夫だと言っても聞いてくれずシーターが料理を持ってきてくれた。

俺が倒れたこともあってかコーンポタージュなどの食べやすいものだった。


「フー、フー、はいどうぞ」

コーンポタージュをすくったスプーンを差し出される。

さすがにそれは恥ずかしいため手でスプーンを受け取ろうとする。

しかし、中々離してくれない。

「はい、あーん」

押し切られちょうど良い温度になったコーンポタージュが口に入ってくる。

とても美味しかったがそれどころではないくらい恥ずかしかった。

周りに見ている人がいないのが救いだ。

結局そのまま食べることになり恥ずかしくてもう一度意識を失ってしまいそうになった。

なんとか耐えきったがもしそうなっていれば夕食も同じことになっていたかもしれない。

そう考えると冷や汗が出てくる。



レイが休んでいる部屋の外。

ドアの隙間からのぞく三つの陰があった。

イリー、レイシー、イーリアのものである。

この3人はてっきり一緒に食べると思っていたのだが、シーターがレイと自分の分だけ持って部屋に帰っていったため様子を見に来たのである。

見たのはレイがシーターに差し出されたスプーンをくわえるところ。

3人は邪魔しないため静かにその場を去るのだった。



少し時間が経ち、ようやく動くことを許された。

初めに迷惑をかけた3人にもお礼をしようとしたのだが3人の様子が何かおかしい。

疑問に思いつつもお礼はしっかりした。


夕食の少し前にガイズドさんが帰ってきた。

ガイズドさんも3人の様子がおかしいことに気づき俺に聞いてきたがそれは俺にも分からない。

夕食を手伝おうとしたら断られ、ゆっくり休んでいてと言われたのでやることがなく逆に困ってしまった。

仕事をしていると暇な日々を過ごしたいと度々思うが暇すぎるとそれはそれでしんどいのである。


その日はその後夕食を食べ、早く寝るように言われたためそのまま寝たのであった。



レイが部屋に入った後、シーターは姉妹と母親に囲まれていた。

「調子はどうなの?」

「今日は攻めていたわね」

「もう結婚?」

イリー、レイシー、イーリアの順に質問がとんでくる。

「もしかして見てたの?」

「なにを?」

「・・・・・・お昼の」

「そりゃあ、見てたわよ。レイ君も赤くなってたし良かったんじゃないの?」

レイシーにあっさり見ていたことを明かされシーターの顔は一気に赤くなる。

「あらあら、あんな良い子中々いないんだから離さないようにしなさいよ」

「結婚、まだ?」

離さないように釘を刺すイリーと結婚をせかすイーリアの言葉でその日の会話は終わったのだった。


翌日。

俺はガイズドさんについて森に行くことになった。

強さ的には森の管理も任せられるということで一度試して見ることになったのだ。

魔物が出る森にも行くのでちゃんと剣を持ってきている。

森の中で火の魔法なんて使えないし、水の魔法も足場が悪くなってしまうため使えない。

使える魔法が増えたらまた違うだろうがコマンドのレベルがどうすれば上がるのかまだ完全には分かっていない。

候補としては3つある。

1.魔物を倒すとレベルが上がるもしくは経験値が入る

2.魔法の使用回数によってレベルが上がる

3.魔法で魔物を倒すことでレベルが上がるもしくは経験値が入る

1と3は似ているようでこの差は大きい。

1の場合は魔法になれるまで剣で魔物を倒していけば良い。

3だった場合はなれない魔法で魔物を倒していかなければならない。

2に関しては一番早くレベルを上げることができるだろう。


今日は1の確認をする目的もある。

俺としては早く魔物を見つけて試してみたいのだが今日はお試しということで弱い魔物しかおらず遭遇率も低い森にきている。

配慮はありがたいが聞いた限り技を使わなくても勝てそうな相手ばかり。

いたとしてもレベルが上がるのか心配である。


「お、魔物がいるぞ。あれだ」

ガイズドさんの指さす方向を見るとハイウルフよりは小さく通常のオオカミくらいの大きさの魔物がいた。

「僕がやっても?」

「もちろん良いぞ。あいつはレッサーウルフ。ハイウルフと同じウルフ種だが、ハイウルフと比べるとかなり弱いぞ」

俺が記憶喪失なのを知っているからかとても丁寧に教えてくれる。

少し嘘をついているという罪悪感はあるがうまく機能してしまっているためそのままにしている。

どうせ前世の記憶があるといっても信じてもらえないだろうし。


レッサーウルフはまだこちらに気づいていない。

それを利用し一気に距離を詰め、

「カイザード流 一 疾」

抜剣と同時に素早く首に一撃。

何事もなく倒すことが出来た。

ちなみにカイザード流は変わった流派で抜剣の技しかない。

今のは基本とも言える速さを求めた技。

そういえばこの世界に来たとき木に向かって撃ったラザード流はすべて龍をモチーフとしている。

とにかく分かることは流派の開祖は全員変わり者だったということだ。

ただ、ラザード流の開祖とはわかり合えそうな気もしている。

会えることはないが。


「お見事。さ、次行くか」

その後数体ほど魔物と遭遇したが手こずることはなく昼前に帰ることになった。

一応俺が初めてということで早めに切り上げることになった。

先ほどこっそりコマンドを確認してみたがレベルは上がってなかった。

単に経験値が足りなかったのか、剣で倒すことでは上がらないのか。

まだ、分からないためもう少し試してみないといけない。


家に帰ると入った途端、美味しそうなにおいがキッチンから漂っていた。

そのにおいにつられるようにリビングに行くとちょうどシーターがキッチンから昼食を持ってきているところだった。

その料理はどこかの店のシェフが作ったかのようにおしゃれなもので料理にあまり詳しくない俺ではその料理名を知らなかった。


食べてみると本当に店でこの料理が出てきたら満足できるほど美味しかった。

凄く手が込んでそうだったから何か特別な日なのかと隣に座っていたシーターに訊いてみるとそうではないらしい。

では何故と訊こうとすると逆隣のガイズドさんに止められた。

「今日はお前の初仕事だろ?疲れているだろうからって朝から何作るか考えて張り切ってたんだ。だからそれ以上訊くな」

いや、それはうれしいけれど皆に聞こえるように言ってしまうと俺を止めた意味がない。

「お父さん・・・・・・・・・」

その一声でガイズドさんは固まり、それ以降俺の方つまりシーターの方を見ることはなかった。

これ、俺は悪くないよね?

ガイズドさんの自業自得だよね。

ただ、この家の中での序列みたいなものが本格的に見えてきた気がした。

俺も将来家庭を持ったらこうなるのだろうか。

そのときは先輩であるガイズドさんを頼ろうと密かに誓うのだった。


皆が食べ終わり後片付けが始まる。

後片付けは当番制で今日はシーターが当番だった。

ちなみにその中に俺は入っていない。

何度か俺もやると言ってみたがレイシーさんにはシーターは本当に良い子を連れてきたと感動されるだけで終わり、シーターは三人で十分だから良いと言われ、イーリアちゃんはお姉ちゃん(シーターのこと)を手伝ってと言われ結局その当番の中に俺は入れていなかった。

それが今朝の話だ。

だから、イーリアちゃんに言われたとおりシーターのお手伝いをすることにし今一緒に皿洗いをしている。

「お昼美味しかったよ。ありがとう」

ガイズドさんが嘘をつくとは思えないしあの様子から張り切って作ってくれたのは本当のことだろう。

それを抜きにしてもあんなお店でしか出てこないような料理を家で食べられたため本当に驚いた。

「私も美味しそうに食べてもらえて嬉しかったです」

先ほどのガイズドさんに暴露された事を思い出したのか手を止め少し赤くなりながらシーターは答えた。

その後、気まずくなり皿と皿が当たる音だけが響いていた。


皿洗いも終わり自分の部屋でゆっくりしていると扉がノックされた。

どうぞと言うとガイズドさんが入ってきた。

「悪いな、ゆっくりしてるところ」

「いえ、大丈夫です」

「明後日なんだが近くの街まで買い出しに行くことになったんだ。一緒に行くか?」

俺的には買うものはないがこの世界についてより知るチャンスだ。

「良いのですか?僕が一緒に行っても」

「良くなかったら言わねぇよ。それに・・・・・・」

そこまで言い急に近づいてくる。

「お前とシーターのデートも兼ねてんだ。お前が来ないと意味がないんだよ」

先ほどの反省からか小声で話すガイズドさん。

「そういうことでしたら僕も行かせて頂きます」

「よし、じゃあシーターも誘ってくるわ」

そう言って去っていく。

俺はてっきりシーターはもう行く事になってるのかと思ってたんだけど。

でも、確かにシーターも来ると断言はされていない。

これはやられた。

まあ、シーターが来ないにしても街に行ってみる事が出来るから良しとしよう。



ガイズドは先ほどに続いて次はシーターの部屋に来ていた。

ちなみに他の家族達には全員話を通しているため後はシーターだけである。

ちなみになぜレイから話したのかというとシーターは街に苦手意識がある。

何故かは分からないが初めて街に行った以来行こうとしていない。

そのためレイが行くという事実でシーターをつろうと考えたのだ。

レイが思ったよりも簡単に行くと言ってくれたためその勢いに乗りシーターも誘う。

「どうだ?明後日、街に行かないか?」

まずはレイが行くことを伏せて訊いてみる。

「行きません」

「そうか?レイ君も行くみたいなんだが・・・・・・」

「え?」

「さっき訊いてみたら即答で行くと言っていたな」


シーターの中で行くか行かないか考える。

レイ君と一緒に行きたいという気持ちは大きい。

しかし、脳内に流れてくるのは初めて見た街の記憶。

表面的にはとても綺麗で凄かった。

だが、少し目をこらすと貧しそうな人達が倒れていたり通る人にお金をくれと頼んでいたりする道がある。

そのギャップが幼いながら耐えられなかった。

そのためそれ以降行くのを避けていた。


「やっぱり行かないか?」

少しの時間が経ち様子をうかがうようにガイズドが訊く。

「・・・・・・行く」

その声は小さかったがガイズドは聞き逃さなかった。

「そうか・・・・・・」

シーターの中で葛藤があったのは見ただけで分かった。

だからこそそれ以上言わずその部屋を出たのだった。



夕方にさしかかる頃。

俺はキッチンの方へ先回りした。

理由は最近手伝えてなくて居候感が強いからだ。

今日は森の管理に同行したが難易度が低めの所だったしお試しということだったため仕事をしたとは言えない。

それにシーターとあの気まずい状況が最後のまま過ごしたくない。

少し待っていると、シーターが来た。

「どうしたんですか?」

「いや、手伝わないと本当の居候になっちゃうかなと」

「そんなこと気にしなくても良いのに・・・・・・」

「ん?なんて?」

シーターの呟くような小さな声を聞き取ることは出来なかった。

「何でも無いです。早く作りましょう」

「お、おう」

なんかはぐらかされた気はするが夕食の準備に取りかかる。



ついに買い出しの日が来た。

そのため今日は結構早めに起きて準備をした。

話を持ちかけられた日の夕食の時にシーターが行くことをガイズドさんが発表したときに皆の驚きようが凄かった。

それも引きこもりが外に出ると言ったようなそんな感じだった。

シーターは引きこもりでは無いと思うのだが・・・・・・

考えても分からないため今は考えないようにしている。

移動はこの村に住む人が共用している馬車だ。

費用などは村人全員から少しずつ徴収しているらしい。

そのため村人全員に使用権があるが、一人が独り占めすることを防止するために二日以上使用した場合それに伴ってお金を払わないといけなくなるらしい。

そして、日が増えるにつれ支払うお金が増えていくようだ。

今回は街で一泊するため少し旅行気分ではある。

今回の買い出しにあたり金貨10枚をもらっている。

ちなみにこの世界のお金は硬貨しかなく、石貨(日本円で100円)、銅貨(日本円で500円)、銀貨(日本円で1,000円)、金貨(日本円で10,000円)となっている。

金貨10枚ということは10万円だ。

さすがにもらい過ぎだと思い一度は断ったのだが、ハイウルフの討伐報酬だと言われた。

魔法一発で倒した奴の報酬が10万はさすがにおかしいと思いしれっとシーターに訊いてみたのだがどうやら本当のようだ。

俺の魔法の威力がおかしいのかこの世界の物価が高いのかよく分からない。



街へは馬車で三時間ほどかかった。

朝早く出たこともあってまだ朝の9時だ。

初めに今日泊まる宿に馬車と荷物を置きそこから買い出しに行くことになった。

そうして・・・・・・・・・

気づけばシーターと二人取り残された。

宿の受付の人に午後8時までには夕食を済ませて帰ってくるようにと伝言を残して先に行ってしまったらしい。

「とりあえず買い物行こうか」

「はい、なんというかごめんなさい」

「全然良いし、シーターが謝ることじゃないよ」

こうして二人きりになり思っていたよりもデートに近い形になった。

いや、もうデートといって良いと思う。

ちなみにこういう経験は無かったので結構緊張している。

今日の予定は衣服を買うことと剣を見て良さそうなものがあれば買うこと位で後は考えていない。

皆がいたら時間の都合上それ位しか出来ないと考えていたためそれ以外考えていなかった。


早速、周囲を見渡して服屋を探そうとしたのだがシーターが何故かそわそわしていることに気づく。

「どうしたの?」

「前に来たときと雰囲気が違うと思いまして」

「そうなんだ」

実はシーターが以前来たときは丁度内戦が落ち着いてきていた時期であったのだ。

しかし、落ち着いてきていたとはいえ生活が困難になっている者が少なからずいた。

そこから数年経ちそういう姿は見なくなったのだがシーターが前に来ていたときは幼くそういうことを知らなかった。



少しぶらぶらしているとすぐに服屋が見つかった。

入って値段を確認してみる。

値段は日本とさほど変わらなかった。

このことから俺の魔法の威力がおかしいという説が濃厚になった。

服屋の中では別行動をすることになった。

この店はそこまで大きいわけでは無いため探したらすぐに合流できると考えたからだ。

俺は服にはあまりこだわりが無いためサクッと決め、シーターを探す。

思っていたとおりシーターはすぐに見つかった。

手に一着の服を持っている。

「良いのあった?」

「あ、早かったですね。服は間に合っているので・・・・・・」

そう言いながら手に持っていた一着を戻す。

どう見ても欲しそうなんだけれど。

「じゃあ僕は買ってくるから店の前で待ってて」

「分かりました」

こうしてシーターが行った後先ほどシーターが手に取っていた一着も一緒に買った。

これぞサプライズというものではないだろうか。 

やりなれてないためうまく出来ているのかは分からないが・・・・・・

店を出るとすぐ近くでシーターが待っていたためそのまま武器屋を探しながら歩く。

さっきのはどう渡せば良いのか分からずまだ渡せていない。



武器屋を見つけて入るとそこにはいかにも武器屋の店主といった感じのごつい人がいた。

「なんだぁ。ガキが来るようなとこじゃねえぞ」

「見るだけもダメですか?」

「勝手にしろ」

一通り見て回ったがある一つの剣を除いて銀貨5枚以上はするようだ。

だが、何故か目を引くのは一つだけ銀貨1枚の剣。

「すみません、この剣は?」

「あぁ、そいつは辞めとけ。安いのは何度か使うとその人はもう使えなくなるからだ。上物ではあるんだがな」

そういう話をケルバイアスでも聞いたことがある。

剣が意思をもって使用者を選ぶ事があるという。

そういう剣の中には使用者以外触らせてくれない剣もあるという。

そうは言われなかったということはチャンスはあるということだろう。

「この剣買っても良いですか」

「かまわねえが使えねぇぞ」

「大丈夫です」

その時の俺は何故かその剣しかあり得ないと思っていた。


「使えなくなったら来い。ちょっとはサービスしてやる」

結構いい人なのかもしれない。

こうして店を出た。

「良かったんですか?」

シーターは俺が何故使えない剣を買ったのか聞きたいのだろう。

「ちょっと試してみたくなったんだよね」

「そんなことしてたら破産しちゃいますよ?」

このとき見せた笑顔は街に来てから初めて見た笑顔だった。

本当はこのためにさっきの服を買ったのだがまあ、良しとしよう。

「そうかもな・・・・・・ところでこれからどうする?」

「行きたいところは・・・・・・」

「もう、ないんだよね」

というかそもそもどんな店があるのかも知らないし。

「なら、お昼ご飯行きませんか?」

「それじゃあ、お店を探そうか。何か食べたいものある?」

「では、ハンバーガーはどうですか?」

そう言いながらシーターが指を指す先には一つの飲食店があった。

メニューを見てみると様々な種類のハンバーガーに驚く。

「どうします?」

「どうしようかな」

「これはどうですか?」

そうして示されたのは「チーズたっぷりとろとろハンバーガー」だった。


「すいませーん」

「はい、ご注文ですね」

「チーズたっぷりとろとろハンバーガーのセットを二つ」

「かしこまりました、しばらくお待ちください」



「お待たせいたしました。チーズたっぷりとろとろハンバーガーのセットです」

セットメニューはよくあるポテトとジュースだった。

そして主役のハンバーガーはというとこれでもかというほどチーズが挟まれており他の具材も入っているのだがチーズで隠れている。

これは思っていたよりもチーズが多い。

そして、とろとろのチーズが今にもはみ出ようとしている。

急いで一口食べると一瞬でチーズの味が口の中で広がり、その後でしっかり他の具材の味も楽しめるように設計されているかのように完璧な味だった。

シーターの様子をみてみるとどうやら気に入ったようでパクパクと食べ進めていた。

いつもはお上品に食べるのだが今回は口の周りにチーズがついている。

それを見てかわいいと思ったのはここだけの秘密だ。

食べ終わった頃に口の周りにチーズがついていたことに気づいたシーターはもの凄く恥ずかしそうにしていた。


「銀貨二枚になります」

シーターが自分の分を出そうとしているが止め俺が払う。

さすがに払わせてたら格好がつかない。

店を出ると、

「ありがとうございます」

「いや、彼女に払わせるわけにはいけないでしょ」

「か、彼女」

「あ、ごめん、友達そう、友達」

いけない、いけない。

最近いちゃついたりするから彼女だと錯覚してしまっている。

気を付けないといけない。

「そう、ですよね・・・・・・」

「次はどうしようか?」

案が全くない。

「では、飲み物を買って公園にいきませんか?」

なるほど、ありだな。

「じゃあどこかで飲み物買おうか」



近くでジュースを買った後、公園を探し丁度見つけたときそれは起こった。

「そこのお嬢さん、そんな奴放っといて俺らと遊ぼうぜ」

後ろからそう声をかけられた。

振り向くとそこには5人組の男がいた。

「すいませんがお帰り願えますか」

とりあえず平和的解決を目指す。

「なんだぁ?やんのか?」

失敗に終わったようだ。

「やっても良いですが」

少し殺気を込めてみる。

これで大抵の人は逃げるはず。

逃げないとすると強者か、殺気すらも察知できない弱者かのどちらかだ。

立ち振舞いからして強者であるようには見えないが彼らは逃げずに殴りかかってきた。

「ラザード流 六 流れ龍」

流れるように鞘付の剣を当て気絶させていく。

最近この技ならば鞘付でも使えるのではないかと考えていたが、まさかこんなにも早く使う日が来るとは思わなかった。

この技は動きを極力滑らかにし切っていく技だ。

この滑らかな動きを応用することによって鞘があっても流れるように攻撃することが出来たのだ。

「大丈夫?怪我してない?」

シーターの方へ振り向きつつ訊く。

「大丈夫ですけど・・・・・・」

そういうシーターの目線の先には先程気絶させた5人組がいる。

「大丈夫だよ、気絶させただけだから。さ、あそこの空いてるベンチで休もう」

「はい・・・・・・」

これでもまだ不安げなシーター。

「正当防衛だから大丈夫だって」

いや、待てよ。この世界に正当防衛の制度あるよね?

「そうですね」

俺の内心の焦りはシーターが同意してくれたことにより消えた。


ベンチに座り一休み。

それが終わる頃には買ったジュースは空になり、空がオレンジ色になっていた。

「ちょっと早いけど、夜ごはん食べに行こうか」

「そうですね」

その後、ちょっとおしゃれなレストランで食べた後まだ、早かったが宿に帰ることにした。

受付の人に鍵をもらおうとすると何故かひとつしか鍵をくれない。

何故かを訪ねてみると、

「早めに帰ってくるだろうから同じ部屋に案内するように言われております。それとご予約の部屋数的にお二人が同じ部屋でないと数があいませんのでご了承ください」

と言われた。

そして、いつのまにか流されるように今日泊まる部屋に二人で入っていた。

救いはベッドが二つあったことだろうか。

さすがに同じベッドで寝ることはダメな気がしている。

というか娘を男と同室で泊まらせる親がいるか!?

俺を男と思ってないとか?

いや、今十歳の体だしセーフなのか?

そういえば思い返してみると十歳の子供二人をおいていくなんてどうかしてないか?

中身は大人だから気にしてなかったけど。

それと嫌なことにも気づいてしまった。

途中で絡んできた男5人組、全員ロリコンじゃねえか!

なんか急に体の力が抜けた気がした。

「とりあえずお風呂に行こうか」

「そうですね」

さすがに部屋ごとにはついてない。

多分技術的にそして費用的に無理なのだと思う。

さすがに混浴を勧められることはなく、しっかり疲れをとることが出来た。

こういうところが若い体の良いところだ。

部屋に戻るとシーターはまだのようだったため引き返し女湯の近くで待つことにした。

しばらくしてシーターが出てきた。

すぐにこちらに気づいたようで慌ててこちらに駆けてくる。

「すみません。お待たせしました」

「いや、僕が勝手に迎えに来ただけだから」

「ありがとうございます」

シーターの顔が赤い気はしたが多分お風呂上がりだからだろう。

そのまま部屋に戻りすぐに寝ることになった。

もちろん別々のベッドで。

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