期末テストで負かされたい。③
それから三人は黙々と教科書に向き合った。
その見た目から勘違いされやすいが、基本的に理子は真面目だ。授業をサボることもなければ、板書もきちんとしていた。だが、学力がそれに伴っていないのは至極残念な話である。
最早いつの授業で書いたか曖昧なノートを見返しながら、微かな記憶を辿りつつ理子は予想問題を解く。地歴公民などの暗記教科は覚えるだけのため、やる気さえ出れば突破できそうだ。問題は国英数だ。あれらは応用を効かす必要がある。
――そういや、青森は国語が得意って言ってたよね……。
理子はちらと智樹の方を見る。現在は数学に向き合っているようで必死な顔でノートと向き合っていた。普段とはまた違う真面目な顔が理子にはとてもかっこよく見えた。そしてたまに頭を抱える様子もとても可愛い。
――って何考えてるの今は勉強に集中しないと!
理子が邪念を振り払おうと物理的に頭を振っていると、何かと思ったのか、ふと智樹が顔を上げ、こちらを見てきた。
「何? どうしたの?」
ふいの質問に理子の心臓が跳ねる。
「あ、いや! 順調かなーって……」
「まぁぼちぼちかな。なんとか思い出せてる」
見ていたことはばれていないようで理子は心の中で安堵した。しかし、勉強の方は全く安心できない状態だ。この三人の中でどうやら一番赤点に近いのは理子のようだ。
智樹は普段の読書量も相まって、言語系は一切問題なさそうだった。その分を暗記系、計算系にあてれば問題なく赤点は回避できるだろう。咲良は数学が致命的だが、それ以外の教科は問題なく理解が進んでいる様子だ。それに数学は一度公式を覚えてしまえば、あとは応用をするだけだ。
そんな二人に比べて理子はというと、国語の文章題も数学の応用もちんぷんかんぷんだった。
――作者の気持ちなんてわかるわけないじゃん! それに数学も意味わかんない。ほんとに日本語? って感じだし、マジで変な記号使わないでほしい!
そう心の中で叫びながら、理子は頭を抱えた。
「西村、大丈夫か……?」
そんな様子をみて智樹が声をかけてくれる。その雰囲気にはなんとなく余裕を感じられた。自分より焦っている人がいると人は落ち着きを取り戻すと聞いたことがあるが、それは本当のようだ。
「あはは……ま、なんとかするよ……あ、ちなみに期末テストも賭けの対象だからね」
力なく理子が告げた。咲良に聞こえると追及されて面倒くさいことになりそうなため、智樹にだけ聞こえる声量で伝えた。理子にとってこれはピンチではあるが、恋を成就させるチャンスでもあるのだ。
「いいよいいよ。とりあえず乗り切ろ。一番の問題は現国と数学?」
力なくうなだれつつも賭けを提案する理子に対し、呆れたような声で智樹が訊ねる。
「うん……全然わかんない……マジやばい……」
顔面が机にめり込む程に突っ伏す理子を前に、智樹は少し考える様子を見せた。
「現国は俺が教えるよ。って言っても俺もそんなに偉そうなこと言える程、成績良くないけどさ……」
そう自信なさげに智樹が言う。不器用ながら慰めてくれようとしているのが、ひしひしと伝わってきた。
「で……問題は数学だけど……」
智樹が頭を抱えた。咲良も数学が苦手だという話だし、解決策が一切見当たらないのだろう。
そのとき、智樹の目が何かを見つけたような様子で動いた。
理子は視線の先を追ってみた。するとその目は、図書委員の仕事をひと段落させ、カウンターの奥ですごく分厚い本を読んでいる裕也の姿を捉えていた。
智樹が考えるような仕草を見せた。そして、何かを決めたようにカウンターの方へ近づいていく。
「青森?」
理子はその様子を不思議に思い、智樹に声をかけた。智樹は目で大丈夫と訴えてくる。
カウンターに近づいた智樹に気づいたのか、裕也が本から目を離した。
「青森くん、どうしたの?」
「あ、いや」
何かを言いにくそうにする智樹に対し、裕也の頭に疑問符が浮かぶ。
そんな裕也を前にし、意を決した様子で智樹はお願いをした。
「勉強、教えてくれない? ……俺ら三人に……」
裕也は目を丸くした。
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