期末テストで負かされたい。②
放課後、三人は図書室に移動した。候補としてハンバーガーショップや、喫茶店なども上がったが、この暑い中、一度外を移動した後に勉強をする気にはならないだろうと言う結論に至り、学校の図書室で勉強を行うことになった。普段図書室を利用することのない理子はその利用者の数に驚いた。きっと同じような考えの生徒が多いのだろう。かろうじてテーブルは確保できたが、ほぼ満席状態だ。もう少し遅かったら席を確保することはできなかっただろう。
「あれ、青森くん? 放課後に来るの珍しいね」
図書室のカウンターの奥から、智樹を呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると昼休みに智樹の周囲を囲んでいた中にいた明石裕也がいた。
「うん……ちょっと勉強しようと思って……」
「テスト近いもんね。僕もやらないといけないや」
そう笑顔で智樹と話をしていた裕也だったが、理子と咲良の姿を見ると、気まずそうにカウンターの奥に隠れてしまった。
「あれ、やっぱりアタシ避けられてる?」
「いや、そんなことないと思うけどな……」
理子は心配になり、再び智樹に尋ねる。
確かに客観的に見れば、派手な見た目のギャル二人がオタク一人を囲んでいる姿はいじめやカツアゲ、恐喝など、よくない想像をされるかもしれないが、そんな自覚は理子には一切なかった。
確保した四人掛けのテーブルに教科書を広げながら、理子は咲良に尋ねた。
「てかさー。咲良、なんでアタシに頼んできたの?」
自慢ではないが、理子の成績は芳しくない。それなのに何故理子に白羽の矢が立ったかが、少し疑問だった。ちなみに理子が原宿などでよく遊ぶギャル仲間は同じ高校にあと二人いる。その二人も勉強ができるほうかと問われると疑問だが、少なくとも自分よりはマシだろうと理子は思った。
「いや、ぶっちゃけ由香と杏奈にも同じように泣きついたんだよー。りこちんよりはマシだろうと思って」
「おい」
自分でも勉強ができないのは認めるが、それをお前が言うなと理子は突っ込みを入れた。
「そしたらさー、二人とも彼氏と勉強するんだって……なんかテスト勉強期間とかで部活がないから、一緒にいるチャンスなんだってー……絶対勉強してないよあいつら……絶対イチャイチャしてるよ!! もうマジ友情どこいったって感じだよ!!」
小柄な身体からどす黒いオーラを出しながら、咲良が吼えた。ギャルのような見た目で他人のことなど気にしないと言った雰囲気はあるが、基本的に咲良は常識人なため、図書館で人の迷惑にならない程度の声量であった。
「あー、そういうこと。ま、幸せならいいじゃん」
「そ、幸せならおっけーです! あははは!」
理子と咲良は二人で笑った。
「で、理子って平日あんま遊ばないじゃん? あれもしかしたら勉強してんのかなってみんなで言ってたんだよー」
「いや、全然そんなことはないです」
理子は全力で否定した。スリーピースカードゲームに興じているとはこの場では言う必要はないだろう。
「えー、そうなんだ。じゃぁ一緒にがんばろうだ! 青森先生、お願いします!!」
「えっと、俺も正直できる方じゃない……」
そういって頭を下げる咲良に智樹は気まずそうに告げた。
「え、うそじゃん! 眼鏡かけてるのに⁉」
「眼鏡をかけてるからって勉強できるわけじゃない」
「さっきカウンターの人に図書館の常連ぶってたじゃん」
「いや、それは新作のライトノベルを置いてもらうのによく要望を出しに来てるからであって、決して勉強をしにきてるわけじゃない」
「黒髪なのに? 勉強できないの? うそじゃん!」
真面目な顔で偏見にまみれた発言をする咲良に智樹がすぐさま突っ込みを入れる。
「ほとんどの生徒はそうだわ」
「なにそれー!! りこちんの彼氏使えないじゃん!!」
「はぁ!! いや別に彼氏じゃないし!」
咲良の発言を理子は咄嗟に訂正する。しかし落胆のあまり咲良には聞こえていないように見えた。あまり必死に否定をして変な空気になるのも嫌だったので、すぐに理子は違う話に切り替える。
「じゃぁ咲良、みんなで苦手な教科をフォローし合おうよ」
「というと?」
絶望の中で一筋の光明を見つけたように、咲良は顔を上げ、理子を見つめる。
「例えば咲良の苦手な教科は何?」
「数Aが絶望的です」
そう聞いた理子の表情が歪む。そして横にいた智樹に尋ねる。
「青森、数A得意?」
「いや。めっちゃ苦手」
理子は少し考えこむ様子を見せた。そしてわざとらしく明るい表情を作り、咲良に向き合う。
「咲良、他は?」
「え? 数Aの話は?」
「とりあえず数Aは置いとこうよ! ほら他!」
納得のいかない表情で咲良は「公民」といった。理子は再び智樹の表情を伺う。そして智樹が首を横に振ったのを見て、にこやかな笑顔で再び咲良を見た。
「他は?」
結局、智樹が得意な教科である国語系(現文、古典)の名前が出るまでこのやりとりは続いた。なお、理子の得意教科はない。
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