ゲームセンターで負かされたい。①

 娯楽屋から秋葉原駅までの帰り道、理子はいつも以上に緊張していた。


 そろそろお開きにしようという雰囲気になったとき、てんちょーが気を回し、さりげなく智樹に理子と一緒に帰るように促してくれたのだ。二人っきりになるのはいつものことだが、今日は土曜日。二人とも私服だ。平日の放課後に二人でカードゲームをするるのとはわけが違う。いつものように軽口を叩こうにも自然と言葉が出てこない。


 ――まるでデートじゃん!


 実際は秋葉原駅までの帰り道だけなのだが、いつもは他の常連も一緒なため、こうして休みの日に私服で並んで歩くというのは経験がなかった。


「そこのカップルさん! メイド喫茶どうです?」


 そういって声をかけられる。他にカップルらしき人間は一人もいないため、どう考えても理子と智樹のことだが、気づかないふりをしながら二人は歩みを進める。理子はそのカップルという単語にふいにドキッとしてしまう。


 ――カップルに見えるんだ……。青森はどう思ってんだろ……。


 ちらと隣を歩いている智樹を見る。何も変わった様子はなく進行方向だけを見据えている。今日の智樹の服装は明らかにユニクロで買ったであろう白のTシャツに、黒のパンツ。おしゃれに興味がないが故にシンプルなコーディネートだ。それが理子にはとても格好良く見えた。これも惚れた弱みだろう。


「あ……」


 ふとゲームセンターの横に止まったときに声が漏れた。

今日てんちょーが言っていたことを思い出す。他のゲームでも賭けをすればよい。今日も理子は智樹に全勝した。智樹は理子以外の人間には勝っていたし、理子は智樹以外の人間に負けることもあった。しかし、この二人の戦いは永遠に理子の勝ちだった。さすがに今日はジュースは奢らせていないが。


「どした?」

 いきなり立ち止まった理子を不思議に思い智樹は声をかけた。

「青森、今日この後、時間ある?」

「あるけど?」

「……一勝負しようよ」

 今日こそ負けてやる。そう意気込んだ理子の勝負が再び始まる。

 

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