カードゲームで負かされたい。②
「ふふふ……今日の俺は一味違うよ……」
翌日の放課後、不敵な笑みを浮かべながら、智樹は一枚一枚丁寧にカードをシャッフルしている。珍しく少しテンションが高いように見受けられる。
「へぇそう。じゃ、今日こそ敗北を知れるのかー。やっとかー」
煽るような口調で理子は話すが、智樹の余裕は崩れない。
「そう言っていられるのもいまだけだよ。 負けて泣いたって知らないよ」
負けて泣くのならあんたはもう二百回は泣いてるんだけどなとは思ったが、何も言わないでおく。智樹のシャッフルが終わり、お互いにメインカードを表にした。そこで理子は驚く。
「お、黄色?」
スリーピースカードゲームは一枚のメインカードと、五十枚のカードで構成されるデッキを用いて戦うゲームだ。色は赤、青、黄、緑、黒と五色あり、それぞれの色に特徴がある。そして使用するデッキにはメインカードと同じ色のカードしか入れられないルールになっている。よって、青単アグロをメインデッキとしていた智樹はこの二百戦ひたすら青色のメインカードを使っていた。そして何度も何度もキャラクターを展開しては、理子の圧倒的な高コストキャラクターに蹂躙されてきた。それらの負けパターンを反省したときに、智樹は考えついた。
――同じデッキを使えば負けないはず……。
愛着の湧いた青デッキを使わないことに迷いがなかったわけはない。誰にと言われると難しいが、ゲーマーは得てして「○○の使い手」と言われることへの憧れがある。青デッキと言えば、青森智樹だと街のカードショップで密かに噂をされたい。そんな願望は勿論智樹にもあった。なんなら人一倍その傾向は強い。
だが、今は目の前の勝利を優先してしまった。
――青デッキ……今は我慢してくれ。そして見届けてくれ、俺の勝利を……勝てばよかろうなのだ……。
半ば勝ちを確信している智樹に対し、理子は一瞬面を食らったが、すぐに冷静さを取り戻す。
――要するにミラーマッチってことね。それなら……。
理子は手札からコストに使うカードをチャージし、番を智樹に返した。その思考時間の少なさから動揺は一切感じとれない。逆にそれが智樹の動揺を誘った。
「なんだよ。少しは驚いてよ」
「いや、驚いてるよー。そういや青じゃないあんたと対戦するの初めてだなと思って」
「そらそうだよ。だって青以外使うの初めてだから」
そういって智樹もコストをチャージし、番を返す。智樹が普段使っている青と違い、黄色は比較的高コストのキャラクターが多い。そのため、二人とも序盤はコストを貯めることに集中した。本来キャラクターが置かれる場にはまだお互いのキャラクターが一体も登場していない。
――このままでは拉致があかないじゃないか……!
このゲームは最初に山札の上から五枚をプレイヤーのライフとする。そしてキャラクターの攻撃が通ればそれを一枚相手の手札へと加えさせることができる。勝敗は相手のライフを全てなくした後、直接キャラクターの攻撃を空いてプレイヤーに通した方が勝ちとなるのだが、全く動かないライフと盤面に智樹がしびれを切らしてしまった。
青色を使っていたときは二ターン目には相手のライフを攻撃しだすため、このスローペースのゲームに耐えられなくなってしまったのだ。貯めたコストを支払い、大型のキャラクターを登場させた。盤面には智樹の大型キャラクターだけが鎮座した。
「ターンエンド……!」
そういって智樹は椅子の後ろまで踏ん反りかえりそうなドヤ顔を見せた。これまで青しか使ってこなかった智樹は一体で盤面を制圧する程、強大なキャラクターをプレイした経験はない。圧倒的な力を振るうことに少し気持ちよくなってしまっていた。
ドヤ顔の智樹に対し、理子は少し複雑な気分になる。
――行動が予想通りすぎるよ……。
お互いに同じ色を使っている以上、そのデッキに対する理解度、熟練度が勝敗に直結する。今回の場合、黄色に対する理解度が理子に対し、智樹は圧倒的に足りていなかった。
――黄色は耐え忍ぶ色だよ……青森!
理子が手札にある大型のキャラクターを手にかけた。そのキャラクターが登場したとき、場のキャラクターは一掃されてしまう。
黄色同士の戦いでは先に動いた方が負けに一歩前進することを智樹は知らなかった。
「な!」
最初のキャラクターを皮切りにどんどん理子の大型モンスターが並んでいく。智樹もそれらを追うようにキャラクターを展開していくが、いつの間にか後追いになってしまい完全に理子のペースとなっていた。そしてそのままライフを削られ、智樹は今日も敗北した。
――先に登場させたのは俺なのに……なんで……。
「黄色同士は簡単に相手のキャラクターを消せる。だからお互いにそれを登場しあったときに結局先に動いた方が、手札の枚数消費が多くなって、最終的に負けちゃうの」
結局今日も勝ってしまった。まぁでも練度の低い相手とのミラーマッチはいつも以上に負ける気がしなかったが。
うなだれる智樹にアドバイスをするが、届いているのかはわからない。反応はとくにはない。
「てか、何で青じゃなくしたの?」
「いや、青でずっと負けてたからさ」
「で、こだわりを捨てて勝ちに来たけど負けちゃったわけだ」
「西村、そういう追い打ちかけるのよくないよ」
「あ、ごめんごめん。ついつい。あっはっは! あ、てかさ」
「ん?」
「逆にずっと何で青だったの?」
理子は黄色のデッキをよく使う。しかし、二百戦以上もやっていれば、黄色以外を使うこともあった。それに対し、智樹はひたすら青だった。理子は何故そこまで青色を使うことにこだわっていたのか気になった。好きなキャラクターがいるのだろうか。それとも速攻で相手を倒す戦法が好きなのだろうか。
「……青森だから」
斜め上の回答に理子は思わず吹き出してしまった。
そういう単純なところも可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだなと我ながら思った。
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