第2話 牡丹との遭遇
「こんな時間に登校なんて珍しいのね。なんか、ツチノコに遭遇した気分よ」
「どういう意味だよ。俺妖怪じゃないんだけど」
「わっ、悪い意味じゃないわよ!」
牡丹は俺の隣を歩き始めた。やめてくれ……。周りからの視線に気づいてくれよ……!
「牡丹さん……もう少し離れて歩かないか……?」
「その、なんで牡丹って呼ぶの?ふゆちゃんって呼んでくれないの……?」
牡丹は上目遣いで俺を見つめてくる。俺がお前と仲良くした結果、今どんな目に遭っていると思ってるんだ。いや、俺が隠してるんだけど……。
「もう高校生だろ。いつまでも俺は子供じゃねーの。ただの女友達をあだ名で呼べねーよ」
「た、だの、女友達?」
牡丹の足が止まった。しまった。傷つけたかな。
「いや、ごめんそんなつもりじゃな」
「わかったわよ。わかった。あんた、覚えときなさいよ」
牡丹は駆け出して学園の中に入っていってしまった。あいつ悪くないし、後でちゃんと謝らないとな……。
さて、この朝だけで三大美女のうちの二人と遭遇してしまった。なんて日だ。早く安全地帯に向かわないと。
いつも通り向かった先は、保健室。
ノックしても返事がなかったので、そのまま入った。
「失礼しまーす」
ようやく息ができる気がする。
保健室登校を初めて2ヶ月経った。去年の2月頃から教室に行けなくなって、退学しようとしたあの時からはもう4ヶ月程経った。時の流れとは早いものだ。
「失礼します! おい健也!」
ノックもせずに入ってきたのは、俺と同じクラスの空本開青だった。去年も同じクラスで、周りがなんと言おうと俺と仲良くしてくれる良い奴だ。
「おはよう開青。どうしたんだ?」
「どうしたもなにも、何があったんだよ。今朝の仲座さんとの件。一緒に登校してたって」
うわ……もう広まっているのか……。
「去年付き合ってるとか言いふらされた後、関わるのを辞めたんじゃなかったの?」
「やめたよ。あいつのファンに校舎裏に呼び出されて殴られてからは、辞めたさ。今日のは偶然。もうしない」
俺がやれやれのジェスチャーをして見せると、開青はため息をついた。
「いや別に仲良くしてくれた方がいいんだけどさ……。僕は単純に、お前のことが心配なだけだし……。じゃあどういうことか訊きに来ただけだし、僕もう戻るね。お昼ご飯にまた来るから」
「あいよ。赤目達も来んの?」
「もちろん。みんなで来るよ。じゃあね」
ちょうど予鈴が鳴り、開青は教室に戻って行った。
俺は普段保健室の隣の相談室で勉強をしていて、昼休み、開青達は弁当を持ってそこへ来る。教室にいくらでも友達はいるだろうに、教室へ行けない俺のために足を運んでくれるのだ。めちゃくちゃいい友達を持ったものだ。ありがたい。
「ふう〜……。誰も来ないし、見てないよな?」
茶色の長椅子に寝転んだ。白色に黒点が点々とついている模様の天井が目に入る。
俺何やってるんだろうな……。教室から逃げて、保健室でのろのろと勉強をする毎日だ。もちろん教室に戻りたい気持ちはある。開青達と勉強がしたい。あいつらに面倒をかけることもなくなる。
でもどうしてもこの天国のような地獄から抜け出せないんだ。この地獄は適温で、静かで、そして何より俺にとっての天使がいる。今はいないけど。
とにかく大きな大きなため息をつく。嫌な気分になったら肺の中のモヤモヤをすべて出し切るに限るんだ。
「はぁぁぁああ……あーあ……っえ!?」
モゾり、とベッドを囲むカーテンが動いた気がした。嘘だろ……!? 誰かいたのか!? いや、気の所為だ気の所為だ……!! 風であってくれ……!
またモゾりとカーテンが動く。窓は閉まっている。風じゃない。
上履きを履く音が聞こえる。シャっとカーテンが開けられ、そこにいたのは有名人。本当に今日はなんて日なんだ。コンプリートしてしまったじゃないか。
「あら? 私の他にも人がいらっしゃったのですね。貴方は……神木さん!?」
第七学園三大美女が一人〝机上の花〟
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