第9話 私の超能力

「それで、あなた超能力があるのかって聞いたってことは、不破さんにもあるんですよね?超能力。」


 その言葉を聞いた不破さんは、待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、まっすぐ俺を見つめる。


「そうね。良いものを見せてもらったし、私の超能力も見せてあげるわ。」


 パチン


 不破さんが指を鳴らす。すると、俺の足元に黒いのようなものが見えたような気がした。


 瞬間、椅子に座っていたはずの俺は下に落ちる。突然の浮遊感に驚愕する間もなく、


 バスッ


 という音の後に俺は椅子の上に尻から落ちる。


「痛っっったぁ!?!?!?!?」


 尻の痛みに悶絶しながら、何とか椅子から転げ落ちないように耐える。痛みが治まると、俺は目を開く。


 目の前には、真っ白な砂浜と、宝石のように青く輝く海が広がっていた。頭上では太陽がまぶしく輝き、四月にしてはあたたかな潮風が、頬を抜けていく。


 ここは...ビーチ?。


「いや、どこだよここ?」


「沖縄よ。昔、家族と来た時に地元の人に教えてもらった穴場のビーチなの。良い所でしょう?」


「確かに誰も居ないし、景色もきれいでいいところですねー...うわぁつ!?」


 いつの間にか俺の横に不破さんが立っていた。驚いて椅子から転げ落ちそうになる。不破さんの後ろには、黒いもやに覆われたのような穴があった。穴の向こうには数秒前にいたはずの空き部屋が見える。


「これは...ワープ?」


「正解よ。」


 俺の推測を聞いた不破さんはよく出来ました、と言って微笑む。


「そう、私の超能力はワープ。目に見える範囲と、自分が今まで行ったことのある場所にを通して移動することが出来るの。」


 不破さんは自慢げに胸を張っている。おぉ...改めてみるとやはり大変大きい...八浪の見立ては最高だな...。と、くだらないことを考えつつも、おれは自分の足元を指さして言う。


「なるほど、じゃあは俺の真下に窓を作ってここに落としたってことですかね?」


「それも正解、驚いたでしょう?」


 不破さんはクスクスと笑う、どうやらなかなかのいたずら好きのようだ。


「ええ。でも、もう少し優しく落としてほしかったですね。」


「それは私の胸をガン見した罰よ、甘んじて受け入れなさい。」


「ウッス...。」


 そう言われると何も言い返せない、別の物を見てたとはいえ不破さんの胸を凝視したのは事実だからな...。


 そうしていると、南国特有の暖かな風が通り抜けていく。不破さんの艶やかな黒のロングヘアが風になびいている。不破さんは、その風を感じながら気持ちよさそうに伸びをした。


 ホント絵になるなぁ...俺が芸術家ならここでキャンバスとパレットを広げていたことだろう。


 じっと見られていたのに気付いたのか、不破さんが「何か?」と言ってこちらを見る。


 俺は見惚れていたことを誤魔化すため、慌てて話題を変える。


「しかし、今まで行ったところならどこでもワープできるってのはすごいですね!それなら寝坊しても一瞬で学校来れるじゃないですか!」


「そうね、私もそう思ったし、実際この能力が発現したのは遅刻寸前で急いでた時に「どこでも〇アでもないかしら」と思ったのが切っ掛けだったわ。」


 おい、俺の超能力の使い方が俗っぽいとか言ってた割に自分も大概じゃないか。


 俺の非難の篭った眼差しを見て、不破さんは俺の考えに気づいたようだ。


「しょうがないじゃない。私だって叶うなら、正体不明の化け物に襲われて絶体絶命のピンチの場面で超能力を覚醒させたかったわよ。でも実際はを見たせいで、アラームに気づけなかったのが原因だったわ。まったく...」


 不破さんは頬に手を添え、心底不満げに言った。と言うか化け物に襲われて覚醒って...意外と不破さんも異能バトル物とか読むんだ。英語の文庫本とか読んでるイメージだったな...。


 ん?変な夢?もしや不破さんも、今朝俺が見た草原と湖の夢を見たんだろうか?


 疑問に思った俺は、不破さんに問いかける。


「変な夢って、もしかしてあの...」


「その話はまた後でにしましょう、そろそろ戻らないと午後授業に間に合わないわ。」


 スマホで時間を確認していた不破さんは、俺の話を遮って言う。俺も時間を確認すると、もう5分ほどで昼休み終了のチャイムが鳴るか、という時間だった。これはいけない。


「本当だ、急いで戻りましょう。」


 そう言って俺は椅子を持ってへ向かう。不破さんは素早く頷き、俺に並んで歩いた。


「次の授業は何ですか?」などと他愛もない話をしながら2人そろってを跨ぎ、空き教室にたどり着く。よし、急いでクラスに戻ろう。


 しかし空き教室の床に足をつけた瞬間


 ジャリッ


 と、不快な音が教室に響く。


「「あっ」」


 俺と不破さんの声が重なる。そうだ、俺たちはさっきまで砂浜にいたんだ。しかもうち履きで。


 俺と不破さんは互いに目を合わせ、頷く。


 まずは、すぐにうち履きを脱いで後ろを振り返る。の外、すなわち浜辺の方に靴を持った腕を伸ばし、全力で靴をはたいた。


 靴についた砂を落とした後、手早く靴を履き、床に散らばった砂を掃除する作業に取り掛かる。しかし、空き教室を見渡しても掃除用具入れは見つからない。すると、


「堀田君!」


 と不破さんが僕の名前を呼んだ。不破さんの方を見ると、不破さんは新たなを作り、別の空き教室に空間を繋いでいた。


 その教室に見える用具入れのドアをサイコキネシスで開け、中のほうきとちり取りを浮かせてこちら側へ引き寄せる。引き寄せられたほうきは俺がそのままサイコキネシスで動かし、砂を集めていく。


 ちり取りは不破さんがキャッチ。そして不破さんは俺が集めた砂を回収する構えを取った。


 手早く集めた砂をそのまま不破さんの構えたちり取りの中にシュート、それを受けた不破さんはちり取りを傾ける。当然、中の砂は床へ向かって流れ落ちていく。


 しかし、ちり取りの中の砂は再び床に撒かれることなく、黒い靄のかかったへと落ちていく、そして落ちた砂は掃除用具入れがあった空き教室のゴミ箱へと吸い込まれていく。


 俺は用具入れのある教室につながったから少し身を乗り出して、ちり取りの中の砂がすべてゴミ箱へと流れたことを確認した瞬間、不破さんの方を向き、サムズアップ。


 それを受けた不破さんも頷き、ちり取りから手を放す。


 不破さんの手を離れたちり取りは落下することなく、サイコキネシスにより、掃除用具入れへと飛んでいく。


 ほうきとちり取りが元の場所に戻り、用具入れも人のを借りることなくゆっくりと閉まっていく。


 その様子を俺と不破さんは、元居た空き教室側からを介して見届けていた。


 バタンッ...と掃除用具入れのロッカーが閉まると同時、空き教室同士をつないでいた窓も消失した。


 全く無駄のない連携を実現した俺と不破さんは、互いに満足そうな笑みを浮かべ、がっしりと握手をする。


俺達、気が合いそうですね私たち、気が合いそうね


「さっきの夢の話はまた放課後に」


「はい、この空き教室に集合でいいですね?」


 俺と不破さんは頷きあいながら、各々の教室に帰っていく。


 いつにもまして、放課後が楽しみになっていた。


















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