第4話 けれど普通に

 さて、この力、どう扱ったものか...。


 ぼーっとテレビを見ながら考える。


 この力は口外すべきではないだろう。あまり目立ちたくないし、この能力の詳細が知られれば誰もがこの力を恐れるだろう。俺が知覚できる範囲なら、どこでも、何でも動かすことが出来る。俺がその場にいなくても、重たいものを動かし、人を殴ってしまえばいとも容易く、証拠もなく人を殺めることが出来る。


 うん、決めた。この力は家の中でしか使わないようにしよう。家事を手早くできるだけで大変有用である。家の外ではの人間として生きていこう。余計なヘイトを買うべきではない。


 決めてしまえば気は楽だ。家の中ではガンガン使っていこう。テレビを消し、超能力で家中のゴミ箱からゴミを集め、市の指定のゴミ袋へと詰める。同時に干してあった洗濯物も超能力で取り込み、ハンガーから外して畳んでいく。これらの作業も普通にやるには大変面倒なものだったが、サイコキネシスにかかれば俺が動かずとも楽々終わらせることが出来る。


 けれど、さすがにこれだけの作業を同時にやろうとすると、俺も動きながらだとかなり厳しい。目を閉じて余計な情報を遮断し、無数の”手”の動きに意識を集中させる。もっと慣れていけば、作業量が多くても俺自身が動くことはできるのだろうか?


 考えてるとあっという間にゴミを集め切り、洗濯物も畳み終える。


 丁度登校の時間になったので、鞄と集めたゴミ袋を持って家を出る。


 ゴミステーションにゴミを捨て、入学して間もない高校を目指す。


 歩いていると、ふと気付く。超能力を使っていなくても、意識すれば超能力の源である湖の”水”を感じることが出来る。


 この”水”は超能力の発動以外には使えないのだろうか?


 夢の中でやったのと同じように、手で掬ったりできるのだろうか?そう考えていると、


 ポタリ


 と、下ろしていた右手から、”水”が滴り落ちる感覚があった。


 ギョッとして右手を見てみるが、右手が濡れた様子はない、地面にも水滴の跡はない。


 しかしあの感覚...”水”は体外に出すことが出来るのか?しかし、体外に出した”水”が見えないのであれば確認のしようがない。


 確認してみるか。少し立ち止まり、瞬きと同時に湖から”水”を目に流すようなイメージをしてみる。ちょうど、乾いた目を涙で潤すようなイメージで...


 目を開く。視界の外側に、ぼんやりと星空色のもやがかかる。これは...目に”水”を流すことに成功したのだろうか?右手を見ると、星空色の液体でびっしょりと濡れている。


 おぉ...思った通り、目を”水”で覆うと体外の”水”を見ることが出来るようになるのか...。何に使うんだコレ?


 無駄な時間だったと思いながら登校を再開する。


 そしてすれ違ってくる通行人を見た俺は、驚愕に目を見開く。


 星空色のもやがかかった目で見た通行人の胸元には、


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る