第9話 リスナーの発見
狂我弥さんと出会った私達は狂我弥さんと相席をする事にした。そして狂我弥さんの注文が終わった頃、雪菜さんがそわそわした様子で栞菜さんに話しかけた。
「か、栞菜さん……もしかしてこちらの方って……」
「そうだよ。雪菜が大好きな小説家の狂歌さん」
「や、やっぱり……!」
雪菜さんがキラキラした目で見つめる中、狂我弥さんは少し困ったような顔で笑っていた。その様子に疑問を抱いていると、栞菜さんは私達を見ながら静かに口を開いた。
「狂我弥さんはいま少し悩んでるところなんだ。だから、正面から感想とかを言うのはまだ止めてあげてほしいな」
「悩んでる?」
「狂我弥さん、この子達になら話してもいい? 前に話した私の同期の子達なんだけど……」
「……ああ、いい。本山さんの同期なら信頼出来そうだ」
「ありがとう」
栞菜さんはお礼を言うと、少し哀しそうな顔で話し始めた。
「狂我弥さんはスランプ気味なんだ」
「スランプ?」
「うん。私達の中でも雪菜がそうなように狂我弥さんの作品が好きな人は多いし、私も同じ小説家として狂我弥さんの作品は見習いたいところは多いし、尊敬もしてる。そんな期待の重圧があるだけでも辛いのに偶然その中にアンチが紛れていて、その一言に狂我弥さんは完全にやられてしまった。その結果、狂我弥さんはスランプになってしまったんだ」
「そんな……」
雪菜さんが哀しそうな顔で口元に手を当てる。私達だってこの件は他人事じゃない。どんどんチャンネル登録者数が増えるのに比例して、今後への期待や心ない言葉を言うアカウントはSNSで見かけるようになったし、私達だっていつそうなるかわからない。明日は我が身という気持ちでいないといけないのだ。
私達がなんて言えばいいかわからなくなっていた時、狂我弥さんは私達を見てからどうにか笑みを浮かべた。
「けど、こうして話を聞いてもらえるだけでもありがたいよ。それに、最近新しい楽しみも増えたしさ」
「楽しみ? 前に私の配信観てくれてるって言ってたけど、もしかして同じ箱の子とか?」
「いや、バーチャルカンパニーの人じゃなくて、ソラジオっていうラジオチューブで聞けるラジオ配信なんだ」
それを聞いた瞬間、私達三人は顔を見合わせた。まさかこんなところで他のリスナーに会えるなんて。
「狂我弥さん、実は私達もリスナーなんです」
「え? そ、そうなのか?」
「私が巫女狐で」
「私はゆきやこんこんで」
「私がブックメーカー。私が最初に翔子に薦めて、その話を聞いた雪菜も聞き始めて私達の中のプチブームみたいになってるんだ」
「そ、そうだったのか」
狂我弥さんは驚いていたけれど、その顔は嬉しそうでもあった。狂我弥さんもソラジオを本当に楽しくて聞いているようだ。
その後、私達はしばらくソラジオについて話をしていたが、その間の狂我弥さんはとても楽しそうであり、それを見る栞菜さんもとても嬉しそうだった。
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