第8話 狂我弥鏡歌との出会い
カフェに着くと、私達はそれぞれの注文を済ませた。そして待っている間にボーッとしていると、栞菜さんはふと何かを思い出したような顔をした。
「カフェで思い出したんだけど、普通ではいけないカフェの話って知ってる?」
「普通ではいけないカフェ……?」
「何かドレスコードがあったり秘密の合言葉が必要だったりするんですか?」
「そういうんじゃないんだけど、何か悩みを抱えている人が雨の日に歩いていたら見つけられるカフェらしくて、雨の日にしか開店してないんだって」
「雨の日にしか空いてない……それで採算取れるのかな?」
客商売ならお客さんが来てなんぼのはずだ。それなのにお客さんがあまり来なそうな雨の日にしか空けないなんて普通なら考えられないと思う。
「それはわからないね。でも、そこに行った人は必ず何か良い出会いがあったり悩みが解決したりするらしいし、一度行った人やその人が紹介した人しかお店にはいけないって聞いた事があるな。そしてその名前は、『かふぇ・れいん』」
「雨の名前を持つカフェ……」
「ひらがななのがなんだか可愛いですね」
「メニューも全部ひらがならしいよ。なんでもとても可愛らしい女性とこの世の者とは思えないくらいのイケメンが二人で経営してて、イケメンさんの方が横文字があまり得意じゃないのと漢字じゃなくひらがなにした方がお客さんが読みやすいからっていう理由みたい」
「栞菜さん、よく知ってるね」
「私の知り合いがお世話になったそうだから。因みに、たまに先代の店主さんも来るらしいし、見習いらしい子供達もいるようだから行けたらとても楽しいだろうね」
栞菜さんは笑みを浮かべながら言い、雪菜さんも同意するように頷いた。誰でも行けるわけじゃない雨の日限定のカフェ。たしかに行ってみたいな。
「この街のどこかにあるんですか?」
「そうらしいよ。ただ、その悩みっていうのが押し潰されそうな程に辛いものじゃないといけないようだから、一人で見つけるなら本当に難しいだろうね」
「そもそもそんな悩みすら持ちたくないですしね」
「うん、同感」
そんな事を話している内に注文したものが届き、私達はいただきますと言ってからそれらを味わい始めた。
「……うん、美味しいね」
「おいひいですねえ……」
「美味しすぎておいひいと言っちゃう雪菜が可愛い。翔子、連れ帰って良い?」
「しっかりとご飯と寝るところはあげるんだよ?」
「もちろん」
「でも、それなら翔子さんも一緒でお泊まりしましょうよ。それで一緒にソラジオを聞くんです」
「ソラジオ……そうだ、忘れてた。翔子から話を聞くんだった」
雪菜さんもそれを思い出した様子でうんうんと頷く中、私は苦笑いを浮かべた。
「話って言ってもさっき言った通りだよ? でも、本当に元気はもらえたな……私も
「すべての翔子さんが元気をもらったんですね。わあ、なんだか素晴らしいです」
「そうだね。ん……あれは」
「栞菜さん、どうしたの?」
「知り合いがいた。ちょっと待っててね、呼んでくるから」
私と雪菜さんが頷いた後、栞菜さんは一人で座っていた男性に近づいていった。その人は目にクマが出来てやつれていて、身体が細めの塩顔の人だった。
そしてその人を連れて栞菜さんは座り直すと、その人を手で指し示した。
「紹介するね。同じ小説家の
「ど、どうも……」
狂我弥さんは少し気まずそうな感じで会釈をした。
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