第10話 一つのアイデア
「それじゃあみんな、またねー」
子狐での配信を終えた後、私は背もたれに体を預けた。今回の配信の同接は20人。少しずつ増えてきてはいるけど、やっぱり玉藻には敵わない。
「はあ……どうしたら良いかな」
子狐が悪いわけではない。デザインもバーチャルカンパニーのライバーさんを担当してくれたママにお願いしているし、ママからも配信自体が悪いと言われたわけではない。けれど、やっぱり個人勢と事務所勢では世間からの期待も知名度も圧倒的に違う。
事務所に所属していると、事務所その物や他のライバーさんに迷惑をかけられないから言動には気を付けないといけないし、同接も必然的に多くなるから掛けられる言葉の種類も様々だ。
そして個人勢は自分だけの責任になるのでやり方も自由度は増すけれど、事務所所属に比べて観に来てくれる人は少なくなるから人気になるための苦労は計り知れない。
「……いっそ、玉藻の片鱗を見せてしまおうかな」
それはやらないと決めた事だ。子狐での配信だって事務所の力を借りずに自分の力でどこまでやれるかを試したかったから。だから、玉藻の力を借りるというのは事務所の力を借りる事と同義だ。けれど、子狐がこのまま人気になれないのは悔しい。
「……子狐、玉藻。私、どうしたら良いのかな?」
私の中の子狐と玉藻に問いかける。子狐は心配そうに私を見て、玉藻は静かに私を見ている。当然私の妄想なので答えはしないのだけど、玉藻の言いたい事はわかる。それは自分で考えろと言いたいのだ。
「そうだけど……私には何が出来るんだろう。子狐に対してしてあげられる事は何なんだろう……」
辛さを感じながら呟いていたその時、携帯にマネージャーさんからの着信が入った。
「なんだろ……」
私は携帯を手に取り、電話に出た。
「もしもし……」
『お疲れ様です、狐崎さん。配信お疲れ様でした』
「ありがとうございます。でも、今日もそんなにリスナーを楽しませられなかったなと自己反省してます。子狐の事、もっとみんなに可愛がってもらいたいのに……」
『やはり個人でやるのでは勝手が違いますからね。ですが、狐崎さんの頑張りはしっかりと伝わっているはずです。社長も狐崎さんが演じる子狐には期待しているようですし、これからも頑張ってみましょう』
「はい……」
マネージャーさんの言葉と社長の気持ちは嬉しかった。けれど、やはりうまくいかないと辛いのだ。そして少し話して通話を終えた後、私はソラジオの時間が来たのに気づいてラジオチューブを開き、ソラジオの待機所に行った。
『ソラジオ、はっじめるよ~!』
数分後、明るい音楽と同時にソラジオが始まる。そしていつものように楽しみながらソラジオを聞いていたその時だった。
『ソラジオネーム、カフェ巡り歴千年目さん。だいぶ巡ってるねぇ。ソラさん、こんばんは。ソラジオネームにも書いたのですが、私はカフェ巡りが趣味です。ただ、普通ではいけない不思議なカフェがあるそうです。雨の日にしかいけない上に普通の人ではいけないというそのカフェ。行けるようにお祈りしてもらえると幸いです。か……』
「そういえば、そんな話を栞菜さんから聞いたような……」
ソラジオを聴きながらそのカフェの事を考えていた時、私の頭の中にある考えが浮かんだ。そしてソラジオが終わった瞬間に私はマネージャーさんに電話をかけた。
『もしもし……』
「マネージャーさん、夜分にすみません。明日はマネージャーさんもオフでしたよね?」
『そうですが……?』
不思議そうなマネージャーさんに対して子狐と玉藻が見てくる中で私は口を開いた。
「明日、雨の中で一緒にカフェを探してもらえませんか?」
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