第3話 二匹の狐は空を仰ぐ

『さて、オープニングトークはここまでにして、ふつおた戻して二日ぶりのオタ芸のコーナーに行こうかな』



 五分程度のオープニングトークも終わって、今度はふつおたのコーナーみたいだ。というか、ふつおたって普通のおたよりのはずだけど、このソラジオでは変わった言い方をするみたいだ。



『……うーん、やっぱりそろそろジングルとかタイトルコール用の音声が欲しいな』

「そういえば、ジングルがなかった気がするな」



 ラジオでジングルはコーナーとコーナーの間を繋ぐ大切なもののはず。だけど、このソラジオには無いようで、ソラさんも欲しいようだ。



『今度用意しようかな。後はピー音の代わりになるものも』

『ソラタソの際どい発言聞けなくなるん?』

『これでも抑えてるんだよー? もっと色々言いたいしさぁ』

『これ以上とかヤバすぎ』

『でも、それを求めてしまう身体になってしまった。責任取ってよ、ソラタソ!』

『もちのろん! さて、今回もメールフォームに送られてきたふつおたを読んでいくけど、今から送られてきた分も拾うから安心してねー』

「メールフォーム……あ、これか」



 配信の概要欄にメールフォームのリンクを発見した。私はすぐにタブを一つ増やして片方でメールフォームを開いて、軽い二窓のような形でソラジオを聞き始めた。



「でも、何を送ろう……?」



 私は悩んだが、いまVTuberとして伸び悩んでる事を相談しようと決めてすぐにメールフォームにふつおたを送った。そして数分程度ふつおたのコーナーが続き、そろそろ終わりそうな雰囲気になって、これは読まれないかなと思っていたその時だった。



『じゃあこれで最後だね。ソラジオネーム、巫女狐さん』

「あ、私だ!」



 読まれた嬉しさで思わず声を上げてしまう。



『ソラさん、初めまして。初見です。お、初見さん! これは嬉しいねぇ』

「そうだよね、初見の人がいると嬉しいよね」

『私は個人VTuberをしている者です。ですが、中々同接も増えずに悩んでいます。ガワを用意してくれたママにも申し訳ないし、これからどうしたら良いのかわかりません。ソラさんはVTuberではないのはわかっていますが、今後どうしていけば良いのでしょうか? なるほどね……』



 ソラさんは少し悩んでから答えを口にした。



『厳しい言い方をするなら、私に聞くよりもまずは行動をした方が良いかな。巫女狐さんもわかってるように私はVTuberじゃないからそっちは専門外だしね』

「や、やっぱりそうだよね……」

『でも、私は巫女狐さんを応援するよ。それも全力で』

「え?」

『VTuberをやろうと思ったその気持ちも頑張りたいという想いもこれからどうしたら良いんだろうという悩みも苦しみも。その全てが輝いてるからね。それは応援したくもなるよ』

「ソラさん……」



 私の目からポロリと涙が流れる。晴れ渡る空のように透き通った言葉は私の中に染み込んでいき、これから頑張りたいというメロディーを奏で始めた。



『とりあえず言える事は、やりたいという気持ちがある間は精いっぱい頑張ってみて。やりたいという気持ちは自分を動かす原動力になってくれるからね。中には心無い言葉を投げ掛けてくる人もいると思うけど、そんな人達に負けないように自分も強くなろう。ここには巫女狐さんを応援してくれる最高の仲間達がいるからね』

「うん、うん……!」



 嬉しかった。言葉が、気持ちが、その全てが嬉しかった。そうして元気付けられた私はソラジオを視聴し続け、ソラジオが終わった瞬間にふうと息をついた。



「終わっちゃった、か」



 途端に寂しさが込み上げる。けれど、寂しさなんて感じてる場合じゃない。あと一時間後には予定があるのだから。


 そんな事を考えていると、机の上の携帯電話が震え始めた。画面には“マネージャー”と出ていて、私は携帯電話がを手に取って電話に出た。



「もしもし、マネージャーですか?」

『狐崎さん、お疲れ様です。あと一時間でコラボ配信でしたので念のためにお知らせをと思いまして』

「ふふっ、ありがとうございます」



 マネージャーは驚いたような息を吐いたが、すぐに安心したようにふふと笑った。



『その様子ですと良い事があったみたいですね。あなたのもう一つの姿、子狐での活動がうまくいったんですか?』

「いえ、今回もボロボロです。すみません、事務所にも許可をもらってやってる事なのに力不足で……」

『仕方ありませんよ。声色や話し方、絵師の方も変えた上での活動ですから、あなたがこの“バーチャルカンパニー”のライバーの一人であり、登録者数100万人を抱える玉藻たまもだとは思いませんよ』

「でも、私は諦めませんよ。だって、元気をもらいましたから」

『……どうやら本当に嬉しかったようですね。では、これから簡単なリハーサルがあるのでよろしくお願いしますね』

「はい」



 私は気持ちを切り替え、声を調整する。私の中の子狐が玉藻わたしを見てくる。大丈夫だよ、子狐わたし。しっかりとやってくるから見てて。


 そして私は自分の中の玉藻と頷き合った後、コラボ相手のライバー達が待つ特設の待機所にアクセスした。

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