第三話

暗闇の星ダーク・スターの女王は陰と陽、光と闇…両極端な能力を秘めている。

それは、女王の手に“すべて”を委ねているということなのか?

平和を願う女王にも、破壊を願う女王にものだから。






★★★★★

気が付けば、突然の、真っ暗な闇色の空間にいた。

女王の住まう城であるダーク・ジェイルの女王の執務室で軍の報告書を読んでいたルキアは自分を包む闇を見詰めていた。真っ黒で何も無い。それでいてどちらが上か下か、左右なんて概念がまるで存在しないような感覚が曖昧な場所にいるらしい。


ーーー《我が、女王よ…》


また突然に、誰かの声がこの暗闇の中に響いた。まるでその声は一瞬“世界の声”かと思わせるがやはり違う。唸るように低く、聞いた者を支配し、取り込むような印象を受ける…不可思議な音がする。

何故だろうか、聞いていて不快を感じるのに…どうしてかと思う。ずっと“聞きたかった声”だと思うルキア自分がいる。


「誰、なの?」


聞いたことがない声のはずなのに、何処か聞き覚えがあるような…自分の中の想いが気持ち悪い。


ーーー《我が女王…我を受け入れよ》


またの声が響く。まるで、その声に手があり自分の“心”を素手で鷲掴みにされたような痛みが体に走ったような気がした。

そんな意味の理解できない痛みに、ルキアは反射的に呻いた。“悲痛”を感じ頭が理解すると、その苦痛に顔が歪む。条件反射のように胸を押さえて体に力を入れてもがく…そんな状況に、恐怖を感じさせる声に、必然的にルキアは反応してしまう。


「っ、イヤ…!」


訳も解らずに、ルキアが否定の声を上げた瞬間…それを感じ取ったように、その声の“手”はルキアの心臓を握り締めてくる。形、実体の無いはずのがとても恐い。


『私がまだ、お側にいます』


また誰かの声が暗闇に響いた。まるで、暗闇を照らす光のように、その声は強く優しい。前女王リオンとはまた違う、凛とした女性の声だった。

女性の声が響いた後、不快な低い唸り声のような恐い声の気配は無くなっていた。もう、心を鷲掴みされているような痛みも苦しみも何処かへ消えてしまったようだった。


「さっきの声、昔どこかで聞いたような…誰だったけ?」


そう思いながら、ルキアはいつの間にか自分が泣いていたことに気付いて服の袖で涙を拭いながら呟いた。

さっきまでのことを思い出しただけで、また恐くなり体が震える。そのせいで、今まで以上にルキアの瞳には苦しみや恐怖、憎しみ、負の感情の色が強く映るようになる。

世界の声よりも、今のこの声の方が強力にルキアの心を蝕んでいるのではないだろうか。確か、一部の女王についての物語や絵本にもについて出てきていた気がする。


「世界なんて、無くなればいい…」


ルキアの言葉は緋友の言う通り呪詛だ。暗闇の星ダーク・スターの女王としての能力がまた、くにに破壊の能力として作用している。






目を閉じて、何度目かの瞬きの後、ルキアの目の前は暗闇から本来いたはずの女王の執務室に戻っていた。確かめるように周りを見回して自分の両手を開いて閉じてを数回繰り返しては心を落ち着かせるように大きく深呼吸した。


「あれが噂の、“星の意思”っていうやつ?」


自分の記憶から該当するを探し出して仮定の答えを導き出す。いくつもある女王とナイトの恋物語の中でも、暗い内容の悲恋や難しい内容の方の歴史書の方にしか出てこない登場人物…と言っていいのか困る奴だが。星の平和を願おうとする女王を言葉巧みに惑わせたり、主人公の女王が聞いてはいけない声で悪魔の囁きをする、アニメでもドラマでも悪役としてイケメンで存在感が抜群の役だったりする。

“星の意思”というやつだ。


「これって、私はバッドエンドの女王様ってこと?」


もし、こんな自分なんかが歴史書に残って語り継がれるとしたら、星を壊してしまう女王ということだろう。ずっと女王の役割から逃げ、今も破壊の能力ばかりを使う自分なんかが…あの格好いい女王なんかに成れる訳が無い。自分が、主人公ヒロインなんて最初から無理だ。


「こんな私に、できるわけないんだから…」


ルキアが力無く呟いた。そう、自分には“できないこと”だった。

そう思っていると執務室のドアがコンコンとノックされてから、最近聞き慣れてきたメイドの声が聞こえた。


「女王様、お茶の用意ができました」


「……………」


返事を返す気にもならならなくて、ルキアは黙って…いつの間にかクシャクシャに握りつぶしてしまっていた軍の報告書に目を落とした。しばらくしてドアが開き、メイドがアンティークなティーセットののったティーワゴンを押して中に入ってきた。実を言えば、彼女に返事を返さなかったのは今回が初めてではない。きっともう、私のことなんて嫌いだろう。いや、こんな自分を嫌いになってほしい、なんて思う。


「あまり良くないことでも書いてありましたか?」


お茶の準備をしながらも彼女はルキアの手の中でシワになっている紙をちゃんと見ていた。心配そうに声をかけ、メイドとしてクシャクシャにシワの寄ってしまった紙を直すと言う。

そんな彼女に対してルキアは、何が癇に障ったのかも理解できぬままに手に持っていた報告書を床に落とし、机を叩きつけて怒鳴った。


「うるさい!」


そして、ルキアは女王の破壊の能力を発動させて周りを破壊する。何度女王の執務室を破壊しても、悲鳴まじりに何度メイドにお止め下さいと言われても、破壊の力を止めることはできなかった。


ーーー分かってるの。


自分が悪いって。機嫌が悪いだけで感情的になって八つ当たりしてること。そこにいる誰かを構わずに攻撃してしまうこと…傷付けることしかできてないって、ちゃんと分かってる。

どうして、何で…こんな私を星の意思は“女王”になんて選んだの?

誰かを傷付けるしかできない私なんかを。


「もう!壊れてよ!!」


ルキアは何度も元に戻り続けるダーク・ジェイルの中で、疲れで気絶するまで女王の破壊の能力を放り続けた。

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