第二話
女王就任の儀が終わると、前女王は最後の仕事をすることになる。
それは、前女王が現女王にナイトを選ぶこと。
それはもしかしたら、前女王が“罪”のような意識にさいなまれるからかも知れない。
★★★★★
女王就任の儀が終わった次の日。リオンは前女王としての最後の仕事をしていた。
長い間現女王が見付からずに頭を悩ませ、
「やっと、皆さんのために星を安定させることができます」
ここは女王の玉座の間のさらに奥の隠し扉から薄暗い階段を下りた場所にあるまっ暗闇な空間。ここは、“女王”の名を
「世界の声よ、
リオンは願う。無限の世界の声の中から女王であるルキア・ダークネスを守護する意志のある者を。
そう、
「ルキアさんを守ることのできる方を…」
リオンの額から頬、顎へと、つーッと汗が伝い落ちていた。いくら制御下にあっても、星すべての声を聞いて内容を処理し、彼女のナイトを探しだすのは至難の技だ。
「ごめんなさい、ルキアさん…」
女王ルキアを守るナイトを選び、このダーク・ジェイルに迎え終えれば、前女王としても役目を終えることになる。
『あなたが次の、この
ルキアのナイト探しをしながらも、リオンは自分が女王になったばかりのことを思い出していた。記憶の中には自分の前の女王が浮かんでいた。
『リオン、あなたをこの城に閉じ込めてしまう私を
あの頃の私が懐かしい。世界の声を聞いて正気でいられなくなることも、自分がコントロールできずに友人達に当たり散らしていたなんてこともあった…世界の声のマイナスな面ばかりを聞いているルキアさんのことをどうこう言えないの。
『だから、私が選んだナイトを頼ってね。私みたいにわがまま言って困らせるくらいでいいから!』
『おい、ルキリア。あいつらの仕事を増やしてやるなよな』
ーーールキアさんのナイトを選び終わったら、会いに行きましょう
リオンはそう思うと、懐かしむのをやめて再び世界の声に集中し直したのだった。
ルキアの女王就任の儀から2日目には、女王の執務室には女王であるルキアと前女王リオンが向かい合っていた。その他にはリオンの元ナイトであるユウガと魁人…そしてあと2人の姿があった。
その2人はルキアにとって
「ルキアさん、あなたのナイトが決まりましたわ」
先日世界の声の中からナイトとなる者を選んだリオンは早急に首都を出て彼らの元へと向かった。
そして順番に女王のナイトについての説明と説得をして、ナイトの任に就いてくれたのはこの場にいる2人だった。
「何で、秋斗…?」
数日会っていないだけなのにとても懐かしい気がするルキアは秋斗に声をかけた。
すると、秋斗の気持ち悪いくらいに嬉しそうな顔が近付いてきたかと思ったら、いつの間にか彼の腕の中にいた。
「心配しましたよ、わたしのルキア」
「いや、秋斗のものになった覚えはないんだけど…?」
そう言いつつも、ルキアが秋斗の腕を振り払うことはない。嫌だと見せかけつつも、ルキアは秋斗の服をぎゅっと握り返していて…大嫌いだが保護者の必要そうな再従兄弟を思い出したように聞いた。
「緋友は?秋斗まで
「緋友のことなら心配いりません。わたしは会ったことがありませんが、あなた達の祖母もいらっしゃるので…」
秋斗の言葉に“そういえば…”とルキアは納得した。いつもなら会えないけど、自分が本気で会おうと思えば会えるのが
「そうだよね。緋友なんて気にするだけムダか…」
ルキアが小さく呟くと、秋斗の隣にいたもう1人の男性に目を向ける。学院の先輩であるライキ・レデネスだ。
この前…助けてもらった時と違い顔には眼帯だけでなく、擦り傷や切り傷ができていて絆創膏が増えている。治療されているとは言え、彼は軍校舎で陸軍を専攻していると言っていた…だから、きっと、仁奈達と同じように軍として駆り出されたはずだ。そう、彼女達と同じように
「まさかあの時保健室に運んだお前が
彼の言葉にルキアは苦笑で答えつつ、慌てて秋斗から離れた。
あれ?何だか、気付いたら心の中がちぐはぐで…一度にいくつもの感情が存在してはお互いの存在を掻き消していく。ちゃんと、彼らの話を聞いて受け答えができているのだろうか?ちゃんと、会話をしている?…どうして私は
目の前の現実(?)に戻ると、リオンは良かったと笑顔で話の後を引き継いでいた。
「彼ら2人はルキアさんのナイトを引き受けてくださいます」
どうやら秋斗とライキさんが
何故か、目の前には心配そうな秋斗の顔がある、ここにいる誰もが私を心配するように見ているの?
ーーー《我らと
私の中に、頭の中に直接話しかけてくる
彼らはまるで私を侵食してくる。否、
「ルキアさん!気をしっかり持ってください。のまれてはいけません、それでは
リオンがルキアを落ち着かせるように彼女の手を強く握り、励ますように笑顔を見せた。
ルキアはそんなリオンを見て、リオンの瞳に映る自分を見てハッと息を飲む。そして一瞬だけ、自分の顔は不敵に笑っていた。
「っ…私は、“女王”なんかじゃない!」
壊れたようにルキアは泣いて叫んだ。もう抑えることなんてできない、と云うように女王としての“破壊の能力”を今度は城の中ではなく外の、星中に振るっていた。
「イヤ!女王なんか、女王なんて嫌!!」
ルキアは逃げるようにリオンの手を振りほどき、世界を拒絶する言葉を叫び続けた。
自分も星の人々も、さらにこの
「私なんかに、こんな私にできるわけ無い…もう、こんな世界いらない!」
「いけませんルキアさん!それでは星が本当に亡んでしまいます!!」
ーーー「だって、
その言葉は声に出ていたのかどうなのか、果たして自分が発した言葉なのか、今のルキアには理解できなかった。
「いいかげんにしろ」
その言葉と共に首の後ろに痛みが走ったかと思うと、ルキアの目の前は暗転した。
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