第三話

 暗闇の星ダーク・スターの女王だったリオンが玉座を下りてから、1年がたとうとしていた。

 いまだに新しい女王は現れていない。聖域である首都、ライトシャインから遠い場所には女王不在の影響が出ている。このくにに住む種族達ではどうしようもできない自然災害や災い、疫病…身体能力が高く普段病気にかかりにくい鬼やヴァンパイアでさえケガをし、病気にかかって死にいたる。魔力や霊力を持って生まれるマジシャンでさえ、日々磨き上げた力を合わせても、強大すぎる自然災害を防ぐことができない。





 ★★★★★

 聖ライトシャイン学院、高等部へ向かう道。準首都にあたるこの街も女王不在の影響か、梅雨時期でもないのに雨の降る日が多くなってきていた。

 そしてまた、ルキアも1年前の状況から大きく変わっていた。ルキアの両親は再従兄弟の両親と共に地方の自然災害の防衛に派遣され、マグマが吹き出す火山地帯で熱く燃え盛る炎に巻かれて亡くなったらしい。4人共、聖霊魔術学院で出会い成績優秀な生徒会長やら問題児でも激強な生徒だったと自慢していたくらいの父親達…マジシャンとしての実力はあったはずなのに。

 誰も遺体は残らなかったため本当に“もういない”なんて信じられない。


(「誰か、助けてくれよ…!」)


(「どうしてですか?我々を、見捨てるのですか…?」)


 高等部の生徒玄関まではまだある。それなのにサァーと音を立てて雨が降り始めた。周りの生徒達は走って生徒玄関に向かったり、傘をさしたりしているがルキアはそれに反応すらしない。


「……………」


 ルキアの周りにはいつしか“友達”はいなくなった。そしていま現在もルキアの周りには誰も近づかずに皆が避けていく。まるでそこにはように…。

 いつの間にか、が日常になった。


「…雨?」


 やっと気づいたルキアがそう呟くと、さらに雨が強く降る。雨が真上からじゃなく、斜め上からに角度を変える。風も吹いてきていた。


「…世界なんて・・・・・」


 皆が校舎に向かって前に進むのに、ルキアはその場で立ち止まった。

 黒色の多い灰色の分厚い雲が広かっている。あの頃の、青かったはずの空は見上げても見えない。

 傘をささないルキアは頭から服の中までずぶ濡れになっている。それさえも、今のルキアにはどうでもよかった。

 そんなルキアを見る生徒達の視線は多く、良いものではない。


「マジであの子何なの?」


「ちょっとー聞こえちゃうよー?」


(「お助けください…お願いします」)


「何であいつ傘ささねーんだよ?」


「ほっとけよ。あんな奴」


(「女王様…どうか、ご加護を…」)


 生徒達の声が雨の降る中でも聞こえる。その中に混じってこの場所には合わない声もいつの間にか聞こえている。何故だろう。後者の声の方が強く、ハッキリとルキアの耳には届いている気がする。いや、違う…頭の中に勝手に響いてくる。たくさんの声が、願い事が、助けを求める声が、世界を嫌う声が…。

 それに気づいた瞬間、もう気づかないふりなんてできない。聞いてしまう。


「…っ、いたぃ……」


 聞きたくないと、ルキアは自分の手で耳をふさぐ。それでも声は止まない。耳をふさぐ意味がない。


 ーーー怖い怖い怖い怖い怖い………痛い!!!


 聞こえてくる声が多すぎて脳内での情報処理が追いつかない…否、そんなレベルの話じゃない。立っているのが辛い。そう思うのに、さっきまで歩いていたはずの石造りの道が目の前にあった。


「うっ…たす、けて・・・・・」


 痛みに耐え、やっと絞り出した言葉は小さく雨の音にかき消される。関わり合いになりたくないと生徒のほとんどはそのまま通り過ぎて行く。心配して見ているだけだ。

 ルキアの頬を水滴が伝い落ちるがそれが苦しんで流れた涙なのか、ただの雨なのかも分からない。


「お前、だろ」


 疑問符のついていない言葉。その声の主は、上からルキアを見下ろしていた。知らない男の人の声…今までに見たことがあっただろうか?違う学年?どこの科の生徒だろうか。

 ルキアはただその声に助けを求めるように見上げても彼はそこ立っているだけで、どんな顔をしているのかも見ることができない。


「…きと…?」


 自分が何を喋ったのかも分からない。段々と視界が黒く、暗くなっていく。

 ルキアは暗闇に落ちるその直前、何だかこの世界に笑われているような気がした。






 ーーーーー

(女王はいったい何をしているんだ!)


(何で俺達がこんな目に遭うんだ!?)


(女王様、どうか私達をお助けください)


(どうか我々にご加護を…)

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