第四話


「…キア……我の、俺の…はどこにいるの?」


 誰だろう、を呼ぶのは。“ルキア”は私の名前。

 だけど、私はあなたを知らない。






 ★★★★★

 今まで、誰かに呼ばれていたような気がしていた。でも、誰に呼ばれてたんだっけ?何で呼ばれていたのかも分からない。

 何だか変な夢でも見ていたのだろうとルキアは思い、目を開けた。光がものすごく眩しい。

 妙に見慣れた白い天井とカーテンとそのレールで遮られて半分くらいしか見え合い蛍光灯。どうやら高等部の保健室のベッドの上らしい。


「何であんなに眩しく思ったんだろ…?」


 ただの保健室の明かりなのに、突然暗闇から光の世界に来たみたいな…起きたから、眩しったのか。ルキアは不思議なこともあるものだと首を傾げながら状態を起こした。

 保健室の先生はいるだろうか、今日も早退届けを出して家に帰ってしまおうかなんて考えながらルキアは自分の内履きを探した。


「目ぇ覚めたか?」


 おそらく保健室の先生がいつも座っているところから声が聞こえた。誰だろう、保健室の先生は数人いるが、いつも女性だ。ちゃっかり保健室の常連になっているルキアでも男性の先生はは見たことが無い。

 やはり自分が話しかけられたらしい。彼はまっすぐルキアが寝ていたベッドの方へ来たかと思うとカーテンの前で止まった。


「……………」


 返事をした方が良いだろうか。ルキアは少ししてから返事をした。ベッドに座り直してかけていた布団も少し綺麗に直す。

 するとカーレンが開けられて彼と顔を合わせるが、やっぱり知らない人だ。高等部の生徒かと思えば制服を着ていないし、髪の色がこんなに目立つ赤なら見覚えがあると思う。それに、彼の左目…“めっぱつ”でもしているのだろうか?眼帯をしている。まさか“中二病”とかだろうか。先生にしては自分達の方に年齢が近いような気がする。


「お前、高等部の校舎前のところで倒れてたけど大丈夫か?」


 彼のルキアを心配する言葉と表情…どうやらそれほど警戒しなくてもいいようだ。雨の降る中で倒れていた自分を助けてくれたのだから。きっと悪い人ではないだろうし、自分が“人間”だからといって食べたりしない人なんだと思う。


「すみません、ありがとうございました」


 ルキアはそうお礼を言って頭を下げた。そして彼は少し安心したような表情をしながら右手で口元を抑えた。

 少しその仕草に違和感を覚えたルキアだが、それには気づかないふりをした。


「俺はライキ・レデネス。軍校舎で陸軍を専攻してる」


 軍校舎とは高等部の左隣にある大学部の校舎の中にある1つである。この暗闇の星ダーク・スターの軍事関係の専攻科は陸海空とあり、彼ライキ・レでネスは陸上戦を得意としているらしい。先程の口元を抑える仕草から種族は身体能力の高い鬼かヴァンパイアだと推測できる。


「私は高等部のルキア・ダークネスです。ただの一般科です」


 一般科とは特に何も専攻していないという意味だ。高等部にもいくつか専門の科があるが、例えば軍校舎に行くには体育科や工業科、医療科などからか、もしくは姉妹校である聖霊魔術学院からの編入が主である。

 それに、去年まで高等部に在籍していたルキアの友達である仁奈達は3人共体育科だった。女王不在の影響が酷くなり、仁奈達は飛び級で大学部の軍校舎へと通うようになったが…各地へ派遣されたまま2人は行方不明、仁奈はひどい大怪我で帰ってっ来てはいるが、記憶はほとんど飛んでいるのである。ルキアのことも友達も、家族のことも分からなかった。


「ごめんね、戻ったわよ」


 保健室のドアが開き、保健室の先生が戻ってきたようだ。安心する。いつもの見慣れた保健室の先生だ。

 どうやらライキは空きコマの間、職員棟に用事があった保健室の先生の代わりにいてくれたらしい。


「まあ、ちゃんと起きてくれてよかったよ。俺はそろそろ軍校舎に行くから」


 “じゃあな”と手を振りライキは保健室を出て行った。もう彼は高等部を卒業したのだから高等部の校舎にいる方が可笑しいのだから。

 ライキを見送った後、保健室の先生に“早退する?”と早退届けの用紙を出されたためルキアは家に帰ろうと思いベッドを下りた。早退届けを書くため机に向かいペン立てにある鉛筆を取る。

 書こうとしたその瞬間、ルキアはまた耳を押さえた。


「っ…!?また…」


 突然、苦しそうにするルキアを心配する保健室の先生だが、最近どうしてルキアが苦しそうに顔を歪めるのか原因が分からない。

 保健室の先生の声が、今日はいつも以上に


 ーーー待って、あの人の傍…このうるさい声が聞こえなかった…?


 疑問符ばかりがルキアの頭な中には浮かび続けた。

 でもそれは、暗闇の星の女王としての1つ目の運命の出逢い。

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