別れ

 信次と景満は驚いた。

「あれ?俺たち、陸にいる!」

「周りを見てみろ!」

 武田軍と上杉軍の両方から歓声が上がった。2人の前に、武田信玄と上杉政虎がやってきた。信次は信玄に、景満は政虎に持っていた刀を渡した。

「この刀で、織田信長を倒しました」

「はい。ところで家臣たちや村上殿は?」

 村上義清もその場所にいた。

「ここにおりますぞ。お2人が信長を倒したから、その隙に逃げてまいりました」

「この柿崎景家も、傷ひとつないぜ!ほかの武将たちも、御実城様もだ」

 次の瞬間、光を出す巨大な穴が現れた。

「別れの時なのかもしれないな」

「化石ではない、本物のメガロドンの歯を持っている。これを見たら、人々は驚くはずです、御実城様」

「俺も、本物のリヴァイアサン・メルビレイの骨が欲しかった」

「元気でいてくれ」

「俺たちも頑張るから、俺たちの活躍を後世の人々に伝えてくれよな!」

「寂しくなりますな。しかし、それがしは軍師として努めて参ります」

 宇佐美定満と工藤祐長は、涙を拭っている。

「我らのこと、忘れないでくだされ」

「別れるなんて言わないでくれ。まだ少ししか過ごしていないではないか」

「我らについて研究するのもよいが、あの太古の海の宿敵についても覚えておいてくれ。その方が、あのサメとクジラもあの世で喜ぶであろうな」

 信次と景満は穴に向かって走り出した。村上が叫んだ。

「それでは、お元気で!」

「ありがとう!」

 信次と景満は手を振っていた。穴はだんだん小さくなっていき、やがて秋の青く澄んだ空に消えた。

 気づいた時、信次と景満は研究室の穴があった場所にいた。そこには、信景もいたのだ。

「信景!生きていたのか?」

「何のことかしら?」

「すっかり忘れたのだな。それより、これを見てくれ!」

 景満が信景に見せたのは、化石ではないメガロドンの歯であった。

「これは!なぜ現代にこんなものがあるの!?」

「大方あんたのせいなんだが」

「私にはわからない。忘れたのかも」

 そこに、観光客たちが入ってきた。

「大丈夫なんですか!?」

「俺たちは大丈夫だよ」

「いろいろあったがな」

 観光客たちは笑いだした。それにつられて3人も笑っていた。

 雲ひとつない、ペルーの晴れであった。

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新・川中島 齋藤景広 @kghr

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