第59話 大逆転
「……何だろ」
俺の目の前にあるのは米と牛肉、玉ねぎ。そして何でかフルーツぽいのが一個とレンコンだ。
「……すみません。これって何ですか?」
果物が何かを確かめるとスタッフからではなく、近くにいた鷲尾さんから答えが返ってきた。
「それイチジクだね。英語だとfig」
「……フィグは肉じゃなかったんですか」
「フィグは肉じゃないよ」
「そんなの教えてもらってません!」
「だって覚えてなきゃいけない単語じゃないし」
俺は自分の方で色々と気がついてなかったけど、鷲尾さんの方はどうなんだろうか。チラリと鷲尾さんのテーブルの方を見る。
「ぶ、毒島さん……それ」
並んでるのはトマト、バター、キャベツ、何かの肉、桃だ。
「耐えた! 耐えたぞ、僕は!」
「いやいや、桃は無理じゃないですか?」
どう考えても果物感あるし。
桃は無理だってイマジナリー母さんも言ってる、多分。桃を一品の中に材料として使うのは流石に。
「まあ料理と行こうか、マナブくん」
「良いですよ。イチジクだろうが何だろうが俺のやる事は変わりません。桃よりは大丈夫だと思いますし」
全部一緒に炒めて塩胡椒で味付け。
これで完璧だ。
「────これで完成です!」
俺が調理を終えて皿に盛り付けても、鷲尾さんはまだ続けてる。
「これは……チャーハン?」
「はい! お米と玉ねぎ、それと牛肉あるので。塩胡椒で味付けすれば良いと思いまして」
「……これは?」
「フィグ……イチジクらしいです」
「フルーツだよね?」
「塩胡椒の味付けがされてます」
「塩胡椒で誤魔化されててもフルーツだよね?」
「食べてくれないんですか?」
審査員なのに。
「う、うぐぐ……た、食べるよ! もちろん食べるよ! マナブくんが作ってくれたんだからさ!」
たいやきママが勢いよく頬張った。
「あれ、思ったよりイケ……レンコンのシャキッとしてるところと、何かプチッとしてたり。塩っぽかったり、甘かったり」
表現が難しいらしい。
「何て言うのかな、これ……でも思ったよりはイケるよ?」
顔も言葉を探してるのか考え込むような感じで。
「どう見ても料理素人のやり方だよね」
「あれ、終わったんですか?」
「まあ、ほら」
鷲尾さんの持ってきたさらにはロールキャベツみたいな物に何やらソースがかかっている。
「桃はどこに行ったんですか?」
「ソースにしたんだ、トマトと一緒に」
そんなの、そんなのアリかよ。
「ま、まあ、問題は味ですから?」
審査するのはたいやきママだし。
「そうですね。あの、たいやきママ」
「うん?」
「俺が勝ったら次の動画でケモミミ付けますよ」
「本当!?」
このやりとりを聞いていた鷲尾さんから「おいそこ、堂々と審査員を買収しようとしない!」と怒られてしまった。
「冗談ですよ」
「本当? 今、そこの審査員の顔がマジになってたからね?」
そんな。
たいやきママだって冗談だって分かってると思うけど。
「は、はは……ははは。ちゃんと審査しますよー、うん」
たいやきママが鷲尾さんの料理を口にする。
「……んんっ、これは! これ、なんか凄いオシャレっぽい感じする!」
俺の時より分かりやすい反応してる。
「思ったより全然美味しい……。え? これ本当に桃入ってる?」
「入ってますよ。そういうルールじゃないですか」
鷲尾さんはペラペラと調理工程の説明を始めてしまった。
「……むー」
「何か不服そうだね、マナブくん」
「審査員一人だけだと好みの問題があるじゃないですか」
「たいやきさんだけだと納得がいかないと?」
鷲尾さんの言葉に頷く。
「幸い、今回は他のスタッフさんも居ますし」
俺はさっきまでカンペで指示を出してたスタッフさんに目を向ける。半歩退いた気がしたけど。
「食べてもらいたいですね! それで決めましょうよ!」
結果、全会一致で俺の敗北が決まった。
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