第56話 新たなる動画のネタ
「いよいよ、今日初めての動画がアップされるわけだけど」
鷲尾さんは俺たちに言う。
俺たちと言うのは、この場には俺と鷲尾さんだけじゃなくてたいやきママも居るからだ。
「もう何本かは撮っておきたいよね……って話なんだけど。僕としても料理だけでやってくのは流石に無理だと思うんだよ」
それは確かに。
プロフェッショナルって訳でもないし。
「はいはい!」
「……たいやきさん」
「私に名案があります! ひたすら奈月くんと鷲尾さんが私をもてなすの!」
「あり得ないくらいの私利私欲剥き出しの提案やめてくださいね」
需要はともかく、と鷲尾さんが顎をさすった。
「まあ、動画編集してくれたスタッフさんから色々と案を貰ってるし。その中に面白いのもあってね」
嫌な予感がする。
と言うよりも嫌な予感しかしない。
「自己紹介も兼ねて。今更だけどモーニングルーティンでも撮ってみよう」
「うわっ、本当に今更だ!」
たいやきママが声を上げた。
「えっと、それって俺が学ぶような要素ってあるんですか?」
「よく言うだろ? 出来る大人はルーティンがあるって。奈月くんも大人がどう言うモノか知る事でまた一つ進めるんだよ」
なるほど。
よく分からないけど、なんとなく分かったぞ。俺もここで鷲尾さんとたいやきママのモーニングルーティンを参考にする事で大人の仲間入りが出来るかもしれないと。
俺の不安は考えすぎだったみたい。
「あ、でも待ってください。姉ちゃんに許可取らないと」
「そっか。まあ、でも一週間以内にお願いできるかな」
家の中は撮っていいんだろうか。
もしかしたら音声だけってのも。
「映ったらヤバそうなのは全力で消してくから」
「よかったです。なら安心です」
まあ、それで姉ちゃんの許可が取れるかどうかは別問題かもしれないけど。
「私も参加するよ!」
たいやきママは右手を挙げた。
「ありがとうございます。僕もそのつもりでしたから」
「いつも通りで良いんだよね?」
「いつも通りでお願いします」
「任された」
自信満々なたいやきママに対して、鷲尾さんは「大丈夫なのか、コイツ」という様な顔をしていた。
「動画のネタとしては他にもロケとかがあるね。これは割と教育で結びつけやすい」
「あー、確かに。そこら辺歩いてても歴史とか出せるもんね」
「たいやきさん、言い方。後は────」
ロケ以外にも英語で注文した物を使って料理する企画とかもあるらしい。
「英語で注文するって……それ鷲尾さん有利じゃないですか?」
「いやいや。だって動画の方針上……」
鷲尾さんも同じ難易度でやるべきじゃないかな。
たいやきママも賛同してくれてるのか「そうだそうだ!」と言ってる。
「自分だけ有利な状況で戦って恥ずかしくないのか! それでも大人か!」
「ぐっ……!」
鷲尾さんは「そ、そもそも!」と俺に向き直った。
「奈月くんだって英語勉強してるでしょ!」
「それはそうですけど。野菜の名前とか受験とかで使わないからって全然教えてもらってませんよ」
「それ言ったら僕も」
「絶対知ってますよね?」
「……分かったよ。じゃあ僕は何語でやれば良いかな?」
鷲尾さんも認めてくれた。
ほらやっぱり自分だけ上手くやろうとしてたんだ。
「えーと、それじゃ……ドイツ語?」
「結構な奴を持ってくるね。はあ、僕が大学で習ったのフランス語なんだけど」
ただそれも今は使ってないから知識もそこまで残ってないとの事。これで同じくらいに並んだ気がする。
「奈月くん、こう言う時はラテン語とかアラビア語とかウルドゥー語にしておけば……」
「おい、そこ止めろ。僕を確実に詰ませようとするな」
鷲尾さんはたいやきママを半目で見つめた。
「あの……それでこれについては料理は別に何作れば良いかとか決まってないですよね?」
「ん? まあそうだね」
やった。
ハンバーグとかグラタンとか、そう言うのじゃなくて良いなら俺も作れるぞ。多分。
「あれ、もしかして私って審査員?」
「大丈夫です。今度こそ美味しいの作ります」
野菜と肉が来たら炒めれば良いだけ。
俺は別に料理ができない訳じゃないんだから。今までのはお題が悪かったんだよ、お題が。
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