第55話 一人じゃ生きてけない

 ある日の夕方。


「姉ちゃん、なんか嬉しそう?」

 

 姉ちゃんがいつも以上に嬉しそうな顔をしてた。今日は姉ちゃんも休みで家に居た筈だけど。何かあっただろうか。誕生日ではないけど。

 

「んー? そうだね。やっぱ分かるか」

「もしかして彼氏できた?」

「彼氏できた時より嬉しいかも」

 

 彼氏できた時より嬉しい。

 いや、そもそも彼氏できた時の嬉しさってどれくらいなんだろうか。彼女できた事ないから分かりません。

 

「内定」

「え」

「内定出たの」

「お、おお!」

「よーし、ご飯行くわよ!」

 

 俺が来た時からかなり悩んでたり、苦労してたのも分かるから、弟として嬉しいって気持ちが湧いてくる。

 

「姉ちゃん」

「うん?」

「俺も、もうちょっとでデビューだから」

「知ってる。カウントダウン追ってるし」

 

 姉ちゃんは少し考えるような顔してから「まあでも、そこまで待ってからにするか」と頰を緩めた。

 

「……俺、お金入ったら姉ちゃんに何か買わないとかな」

「別にいらないって。高校生のアンタに何か買ってもらうほど頼りない姉になったつもりはないし」

 

 姉ちゃんはそう言うけど、後で何か買おう。姉ちゃんはいらないって言うかもだけど、俺の気持ち的な話でもあるし。

 

「でも、ご飯どうしよっか」

 

 特に家には何もない。

 材料がない。

 

「仕方ない。スーパー行くよ」

「うん」

 

 玄関に向かった姉ちゃんを追いかける。

 

「何か食べたいのある?」

「何でも良いよ」

「はいはい。アンタには期待してなかったけど」

「でも、寒くなってきたからあったかいの食べたいかも」

「それはあるかもね。じゃあ、シチューとか?」

 

 外に出て、話して今日の晩御飯のメニューが決まった。後は必要な材料をスーパーで買うだけ。

 

「……そういえば」

「ん?」

「俺ってお金入ったら出てった方がいいのかな?」

「何でよ?」


 だってほら。

 友達と遊ぶ時とか、彼氏と遊ぶ時とか。なんかそう言う時とかありそうだし。

 そう言うの含めて。


「姉ちゃんにも姉ちゃんの生活があるじゃん。俺って……その、邪魔にならない?」

 

 やれやれと言いたそうに肩を竦めて。

 

「奈月、アンタが気にすんな。てか、前も言わなかった? アンタが居て、私も色々助かってる事もあるんだって」

 

 俺はここに居ても良いらしい。

 家族だから遠慮しなくてよくて色々都合がいいから。

 

「ま、出てくかどうかはアンタが決める事だし。私は……別に無理に引き留めないけど」

「じゃあ……」

 

 よくよく考えてみれば、一人で生きてける気しないし。

 

「お世話になります?」

「うむ。良いだろう」

 

 姉ちゃんはまた笑う。

 これからもお世話になるし、後で清水さんとか雅くんに聞いて何買うか決めよう。

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