第54話 この店の景色は最高だよ by たいやき

 

 初の動画撮影の打ち上げという事で、俺たちはたいやきママお勧めの定食屋さんに来ていた。

 夫婦経営のこの店はたいやきママのお気に入りらしく、一番隅の窓側席から見る景色が絶景だとのこと。

 因みに崖の上だとか、海が見えるだとか、森に囲まれた神秘的な場所だとかではなかった。

 直ぐ近くに中学校があるとか。

 

「相変わらず最高だね、この店」

 

 既に注文した食べ物はテーブルに届いてる。

 

「毎度ありがとな、嬢ちゃん」

「いや〜、私もお世話になってるんで」

 

 店主とも顔見知りなのだと。

 どんだけ通い詰めたのか気になる。

 

「舌が癒される……!」

 

 鷲尾さんは感動してるのか涙目で目の前の炒飯を食べ進める。結局、あのグラタンは再加熱してから協力して食べ進めたけど、何とか完食できたのは鷲尾さんのおかげだった。

 

「凄い、美味しい」

 

 俺も感動が漏れ出た。

 箸が、箸が止まらないっ。

 

「それで、この子達は?」

 

 俺と鷲尾さんを見ながら店主の奥さんがたいやきママに尋ねた。

 

「私の子供たちです」

 

 たいやきママの応答に店主が「どっから攫ってきた!?」と叫んだ。

 

「いや、仕事上のね?」

 

 こういう反応になると分かってたのだろう。たいやきママの顔に面白いと書いてる。

 

「まさか風俗で働いててそのお客さんを……」

「しないよ!?」

 

 流石に奥さんの言葉は否定した。

 

「……そうだよね。こんな子に貢ぐなんて頭おかしいから」

「店主ー! 奥さんがいじめてくるんだけどー!」

 

 助けを求めるが店主も黙り込んでしまう。ここまで擁護しようがないとは。

 

「……まあ、攫われたんじゃないなら良いか。こっから中学生眺めて喜んでる変態だ。やってもおかしくねぇ」

 

 俺の前に「サービスだ」と言ってプリンを置いた。

 

「良いんですか?」

 

 俺が聞けば「もちろんだ。この変態の犯罪を防いでくれてんだから」とのこと。

 

「ま、嬢ちゃんも偶には良いことすんじゃねぇか」

「ふふ、でしょ。この景色の良さを知る同士を連れてきた私をもっと褒めても良いと思うんだよ」

 

 店主は真顔で厨房に戻って行った。

 

「そうだ、嬢ちゃん」

「何ですかー?」

「あとでムショの飯の味教えてくれ」

「入る予定ないから!」

 

 たいやきママと店主のやり取りを聞きながら、俺はプリンを残して食べ終わる。

 

「プリンだ」

「良いなぁ、奈月くん。私にも一口ちょうだいよー」

 

 俺がプリンを食べようとしてたいやきママがそう言うと、店主と鷲尾さんの声が重なった。

 

「ダメに決まってんだろ!」

 

 たいやきママは二人の言葉に頰を膨らませる。


「一口で良いんですよね」


 俺はスプーンで一口分掬い上げる。


「そ、そんなサービスまでっ……!?」


 空になったたいやきママの皿に移す。


「どうぞ」

「…………ありがとうね、奈月くん」


 何でか、店主と鷲尾さん。それに奥さんまで笑いを堪えてる様な気がした。


 

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