第50話 童貞 VS 子供好き

 

 動きやすい恰好で歩いてる雅くんが、俺と鷲尾さんを見つけてか声を掛けてくる。

 

「お疲れ、奈月くん」

「雅くん。今からレッスン?」

「うん。あ、お疲れ様です。鷲尾さん」

 

 雅くんが鷲尾さんにも挨拶して、そのまま視線を移動させて固まってしまった。たいやきママを見てしまったからだ。

 

「あ、初めまして。たいやきです。イラストレーターです」

 

 ちょっと心配になったけど、多分杞憂だ。雅くんの性質的に問題ない。俺はたいやきママに目を向ける。

 

「……ふふ」

 

 雅くんはその微笑みを見つめて、数秒。

 

「ス、スミマセン……モウシオクレマシタ、コガネススムデス」

 

 初めて見た、雅くんの童貞ムーブ。

 こんな風になるんだ。

 ガチガチに緊張してカタコトで挨拶してる。表情は変わらず硬い。

 

「黄金ススムさん……ああ、Vtuberの。私は二人のママです」

 

 間違いではないけど。

 

「マ……!?」

「Vtuberの! イラストレーターって言ってたよ!」

 

 俺はしっかりと補足する。

 

「可愛い……おっと涎が」

 

 じゅるり、と垂れそうになる涎を啜る音が聞こえた気がした。

 

「見境ないな、男も女も関係ないのか!」

 

 鷲尾さんの叫びに、恥じらいもなくたいやきママは自らのストライクゾーンを公言する。

 

「私のストライクゾーンは〇歳から二十代前半まで!」

 

 そう言えばそうだった。

 

「性別は問わない!」

 

 うん。

 

「ねえねえ、黄金さん。私とお茶しない?」

「ア、ハイ。ヨロコンデ」

「下にカフェありましたよね?」

「エエ」


 催眠でもされてるんだろうか。


「行きましょ────」

 

 たいやきママの手が雅くんの手を取る直前に鷲尾さんが押さえる。

 

「はい、ストップ」

 

 たいやきママは自分を止めた鷲尾さんを見つめる。

 

「たいやきさんはこちらですよ」

「そんな! ただちょっとそこの女の子とお話をしたいだけ……ぐへへ」

「はい、行きましょうねー。青少年健全育成条例違反になる前に」

 

 鷲尾さんによってたいやきママが連れて行かれてしまった。

 

「はっ」

「大丈夫、雅くん?」

「あ、あの美人さんは?」

 

 たいやきママが視界から消えた事で、雅くんの童貞ムーブも解けたのか。雅くんはたいやきママがどこに行ったのかと辺りを見回す。

 

「たいやきママは帰りました」

「……ママ、つまり人妻?」

「Vtuberのね? さっきも言ったよ」


 やっぱり聞こえてなかったんだ。

 それとたいやきママは独身だったはずだけど。

 と言うか、それより。

 

「ねえ、雅くん。レッスンは?」

「あ」

 

 雅くんは「また後で」と去っていく。


「……杞憂じゃ、なかったか」


 

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