第49話 俺、ほとんど何も考えてない様に見えない? by 深谷奈月

 

「ところで鷲尾くん、どんな動画にするか決めたかな?」

 

 俺と鷲尾さんはデビュー目前という事で斧田さんに集められていた。今日は勉強会もナシで、デビュー前の準備に使うようにとの事。

 

「そうだよ、鷲尾さん」

「……当たり前のようにたいやきさんが居るんですね」

 

 初回の動画という事なのに、何故か普通にたいやきさんも同席してる。

 

「私もどんな動画か楽しみ〜」

「まあ、最初の動画ですから料理で行こうかな、と」

 

 俺が「それで何作るんですか?」と鷲尾さんに聞けば、鷲尾さんは「いや言わないよ?」と答える。

 

「……ちょっとくらい」

「ダメだね。面白くないから」

 

 斧田さんも「はは、そうだね」と納得したように頷く。

 

「まあ、動画内容に関してはそれで問題ないよ。後、私から言っておきたいのは名前を決めようって事なんだけど」

 

 斧田さんに言われて、そういえば名前まだ決めてなかったなと思い出す。

 

「はいはい! 私、私が二人のママなので私が決めたいですっ!」

 

 たいやきママが元気よく挙手してまで言う。

 

「……三人で決めて貰おう。三人寄れば何とやらだ。それに二人にとっては自分自身のことだからね」

 

 たいやきママに一任するのは不安だったのか、斧田さんが目を細めて言った。

 

「取り敢えず、私は一度抜けるよ。三人で存分に話し合ってくれ」

 

 そう言って鷲尾さんが出て行った。

 直ぐにたいやきママは部屋の中央に移動して、仕切りはじめた。

 

「えー、それではまず鷲尾さんの方から決めましょうか」

「…………」

 

 鷲尾さんは何か渋い表情してる。

 

毒島ぶすじまサクヤとかどうですか?」


 思ったよりマトモな名前で驚いたのか、目を見開いた。直ぐに表情を戻してたいやきママに尋ねる。


「……因みにどこから毒島が出てきたのか聞いても?」

 

 サクヤの方はいいんだ。まあ、鷲尾さんの名前に近いから全然良いのか。

 

「何か……毒島っぽくない?」

 

 と、たいやきママが賛同を求めてくる。


「確かに」


 言われてみれば毒島っぽいかも。

 

「ちょっと? 僕の意見は?」

「毒島が良いと思います。お似合いですよ。Vtuberなので名は体を表す、って言うんですかね……」

「どう言う意味で言ってるのかな、奈月くん?」

「鷲尾さん、それ以上は止めましょうって」

「気になるだろ!」

 

 結果、民主主義的多数決によって名前は毒島サクヤに決定した。

 

「微妙に、本当に微妙に気になることはあるのに……何だかんだで僕の中で嬉しい気持ちもあるのは、一体?」

「それが人の心ですよ」

「これが、心……ってオイ」

 

 鷲尾さんはそれで良いとして。

 

「あの、それで俺の方はどうしますか?」

 

 たいやきママも俺たちの動画方針は知っているからか「私は奈月くんの方、名前にマナブって入れたいんだよね」と胸の下で腕を組んで、悩ましげに言う。

 

「苗字の方、どうしよっか」

 

 名前はそれで確定っぽい。

 でも、俺も特には反対とかない。

 

「色々マナブで良いんじゃない?」

 

 鷲尾さんの提案にたいやきママは反対らしい。

 

「面白いけど名前で遊んでる感あり過ぎてヤダ!」

「ですよね。知ってた」

 

 鷲尾さんも考えてるようで。

 そんな中、たいやきママが「奈月くんはどう言うのが良いとかある?」と聞いてくる。

 

「俺も……色々学んでいくって感じので良いと思います。それを名前に落とし込めれば」

「そっか。じゃあ鷲尾さん、お願いします!」


 名前を呼ばれて鷲尾さんは「僕なのね」と言いながらも。

 

「なら僕としては十色といろを推したいね、是非」


 と、提案した。

 

「言っとくけど、適当じゃないからね? 考えたんだけど、色々と似た感じで考えるなら……僕としては、だけど。あとは奈月くん次第だ」

「十色、マナブ……」

 

 これ以上は考え付かない気がする。

 名前も大事だけど、決断も大事だと思うんだ。多分。


「じゃあ、二人は十色マナブと毒島サクヤで決定です!」


 たいやきママがそう宣言した。


 

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