第47話 その帽子にはケモミミがついてるんだっ! by たいやき

 

 勉強会が終わると、斧田さんから俺と鷲尾さんは残る様にと言われて部屋で待機する。少しして斧田さんが茶髪の女の人を連れてきた。

 

「初めまして、かな? いや、話した事はあるはずだよね?」

 

 この声は。

 

「たいやきママ!?」

 

 俺が名前を叫ぶとたいやきママが「よろしくね」と小さく手を振る。ゆるふわと言った感じの似合う人。あと包容力が凄そう。

 この人が。

 

「奈月くん、だよね?」

「あ、はい」

「それでそっちが鷲尾さんで合ってる?」

 

 たいやきママの確認に鷲尾さんが頷く。

 

「……何と言うか、鷲尾さんすっごい関西弁話しそうな見た目してる」

「漫画の知識持ち込み過ぎです、たいやきさん」

「まあ、そんな事より」

  

 そう言いながらたいやきママが俺の方に向き直り、頭に何かを乗せてくる。

 

「ん?」

「お、おおっ……!」

 

 何だ、何を乗せられたんだ。頭を覆う感じ、これはもしかして帽子か。

 でも秋になったし肌寒くなってくるだろうし、これは良いかも。

 

「おい、現実まで侵食してきてるぞ!」

「な、何ですか? 帽子じゃないんですか?」

 

 俺が帽子を取って確認しようとすると、たいやきママが「ステイ! ステイ、ステ〜イ。ちょっと待ってねぇ」と言いながらスマホで写真を撮り始める。

 

「はい、良いよ。すっごい可愛い〜。はい笑って〜」

「こ、うですか?」

 

 俺は適当に作り笑いを浮かべる。

 

「ごはっ……!?」

 

 何故かたいやきママは膝を床について、サッカー選手のゴールパフォーマンスみたいな態勢になった。

 

「たいやきママ?」

「あ、待って。ごめん。愛が溢れそう」

 

 俺が近づくのを止める。

 

「奈月くん。たいやきさんにはサービスし過ぎない様に」

 

 サービスって何のことやら。

 

「それとその帽子は封印しよう」

「え? な、何でですか? 秋なので便利だと思ったのに」

「良いね?」

 

 鷲尾さんの目は胸を押さえてうずくまってるたいやきママに向けられていた。何と言うか、冷ややかな感覚がある。

 

「そ……うだね。私の前以外じゃ、その帽子は被らない様に、ね」

「いや、貴女の前が一番ダメなんですよ」

 

 絶望の表情でたいやきママは鷲尾さんを見上げた。

 

「な、何で……!?」

「何と言うか、そのままだと犯罪になりそうだから?」

「そ、そんな……否定できないっ」

「否定しろ」

 

 たいやきママが言うほど凄いのか。

 何なんだ、この帽子は一体。

 

「この帽子、とんでもないんですね」

 

 俺の言葉に鷲尾さんは「…………まあ、うん」と微妙な答えを返してきた。


「それで今日はどんな用事だったんですか?」


 鷲尾さんの質問にたいやきママは「ただ二人と会いたいと思っただけだね」と呟く。


「鷲尾さんは関西弁裏切りキャラっぽい見た目で、奈月くんは……ねぇ」


 俺に対する感想は濁された。

 でも、多分悪くは思ってないと思う。表情が綻んでいる様に見えるから。

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