第45話 漫画みたいな体験

『雅くん』

『どうしたの?』

 

 俺は家でメッセージを送る。

 

『この前、女の人二人とご飯食べに行った?』

 

 清水さんに雅くんとの関係について聞かれ、何とかしてくれと頼み込まれてしまった。

 

『何でそれを……∑(゚Д゚)』

『そこに水野さん居なかった?』

『そ、そこまで∑(゚Д゚)』

 

 俺は『水野さんに聞いた』と送信する。

 

『……のの俺みたいで楽しかったなぁ(((o(*゚▽゚*)o)))』

「のの俺……」

 

 俺は部屋にある紙袋を見る。

 のの俺とは、男子の夢の集合体『初恋の人と憧れの人に迫られた俺は……』の略称である。

 

『それはそれとして。雅くんって水野さんとメッセージのやり取りはしてないの?』

『水野さんから来ないし、オレから出来るわけないじゃんʅ(◞‿◟)ʃ』

 

 確かに。

 そして当然、清水さんからも連絡はしてないのでどうにもならないか。本当に鷲尾さんの言うとおり、業務連絡からやっていくのが最善だとは。

 ただ、まだそれをしてないらしい。

 

「おわっ……!?」

 

 突然、スマホが鳴り出した。俺は直ぐに電話に出る。

 

「もしもし?」

『もしもし、オレオレ』

「詐欺電話かな」

『雅です』

「うん。いや、何で電話?」

『文章打つの疲れるし、それに友達と電話したかったじゃ……ダメ?』

 

 なんて言いながら雅くんはメッセージを送ってくる。メッセージなんて言っても『(^^)』という顔文字だけだけど。

 

「そう言うことね」

『よし……じゃあ奈月くん「のの俺」は読んだ?』

「まあ、読んだよ」

『語り明かそうよ』

 

 それがしたかったからだろう、大体は。

 

「いや、その前に。あの、雅くんにお願いがあってですね……」

『何?』

「清水さ……水野さんとメッセージのやり取りしてくれませんか?」

『うぇっ?』

「俺からも話しておくから、もしかしたら水野さんからメッセージ来るかもだから」

『…………その、頑張りマス』

 

 よし、これで大丈夫。多分。

 流石にメッセージを無視するなんて事はない筈。緊張すると言っても、嫌われる様な事は雅くんもしたくないだろうし。

 

「奈月〜、お風呂良いよ」

 

 通話の真っ最中、姉ちゃんが風呂から上がったのを俺に知らせる。

 

「うん、分かった」

「奈月、また電話してんの?」

「まあ」

「今大丈夫だった?」

「全然大丈夫だと思う」

「それで今回は誰? 清水さん? それとも鷲尾さん?」

 

 姉ちゃんが近づきながら、俺に聞いてくる。


「今日は別の……」 

『え? も、もしかして深谷先輩!?』

「うわっ!」

 

 雅くんの大声が耳を突いた。

 直ぐに電話が切れた。

 

「あ、切れた」

 

 メッセージが一つ『突然の事で思わず切ってしまいました、ごめんなさい』と送られてきた。


『また今度話そう、奈月くん』

「顔文字外れてるなぁ……」


 そういえば、あの食事会『のの俺』っぽいって言ってたもんなぁ。

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