第44話 食事会の話

「聞いてくださいよ、清水さん!」

 

 Vtuberデビューがもう直ぐである事をテンションの上がった俺は、清水さんにも伝える。

 

「あ、うん」

「Vtuberデビュー目前ですよ! 俺たちももう少しで正式な清水さんの……水野あさひの後輩になるんです!」

 

 清水さんが「おめでと、奈月くん」と祝福してくれる。

 

「テンション上がりすぎ、奈月くん」

「いやいや。鷲尾さんだってここまで来たら上がるんじゃないですか?」

「それは……確かに」

 

 なんて浮かれていた俺たちに、清水さんが「私の話聞いて!?」と大きな声を出した。

 

「うわっ、ど、どうしました?」

 

 俺は鷲尾さんとの話を中断して、清水さんに尋ねた。

 

「いや、めでたいよ! 私だって純粋に祝福したかったけどね? でも、話聞いてよ!」

 

 俺と鷲尾さんは目を見合わせてから「どうぞ……?」と声を重ねる。

 

「ぐぬぬっ、ぐぬぬぁ〜っ!」

 

 色々言いたい事はあるけど、みたいな顔をしてから水を口にする。飲み干されたグラスをテーブルに叩きつける。

 

「……奈月くん、私は君のお姉さんとご飯に行きました」

「あ、はい。存じてます」

「とても楽しみにしていきました」

 

 その発言から、俺は「楽しくなかったんですか?」と思った事をそのまま口にする。

 

「楽しくなかったわけじゃない。楽しくなかったわけじゃないの」

「なら良かったじゃないですか。姉ちゃんも嬉しそうでしたよ」

 

 帰ってきた時はそんな感じだった。

 特にご飯については深く聞いてない。

 

「……来たのが私の知り合いだった」

 

 清水さんが静かに告げた。

 

「……結局話せたんですか、清水さんは」

 

 鷲尾さんが本題とも思える質問をぶつける。

 

「胡桃ちゃんが間に入ってたから、話せてる様には見えるだろうけど。ほとんど話せてないよっ!」

「姉ちゃんに伝えておきましょうか?」

「いや、それは大丈夫。むしろ、しないでください」

 

 やっぱりいきなりはハードルが高かったんだ。

 

「もうちょっと慣れてからの方が……」

「なら奈月くんには女子高生の知り合いが居るの?」

 

 俺は助けを乞う様に鷲尾さんの方を見る。ただ鷲尾さんは目を伏せて首を横に振る。

 

「もう無理だよぉおおっ!!」

 

 テーブルに突っ伏してしまう。

 

「あの、清水さんの知り合いって誰だったんでしょうか?」

 

 俺もそれ気になってた。

 

「……黄金ちゃん」

 

 その名前に俺は「……雅くんかぁ」と思わず口にしていた。

 前に本人が言ってた『美人な人に緊張する』と言う話。恐らく、雅くんはその食事の席で童貞ムーブをかましてしまったのだろう。

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