第43話 そういえばVtuber

 今日は雅くんが居ない。

 平日だから、平日の午前だから。

 けど、俺と鷲尾さんは居る。これは仕方がない。何というか微妙な気分になったりするけど考えないようにしよう。

 

「ま、いつも通りだね」

「そうですね」

 

 鷲尾さんと一緒に事務所に向かって歩き出すと「奈月くんっ!」と聞き慣れた呼ぶ声が聞こえて、俺は振り返る。

 

「何で────」

 

 最後まで言い切る前に清水さんががっしり俺の両肩を掴んで揺さぶる。

 

「この前はありがとう。ありがとうなんだけどさ! ちょっと色々あってさぁ!」

「あうあう」

 

 身体が揺れる。

 見かねた鷲尾さんがようやく止めに入ってくれた。

 

「あの、清水さん」

「何ですか、鷲尾先生」

 

 あ、動き止まった。

 今のうちに。俺は清水さんから距離を取る。

 

「一応、僕たちも予定があるので」

「……じゃあ、お昼一緒に食べましょうよ」

「僕は良いですけど」

 

 鷲尾さんが俺の方を見る。俺も「良いですよ」と答えると清水さんがニコリと笑みを作った。

 

「忘れないでくださいね」

 

 前の根に持ってるな、これ。

 それじゃ、といって清水さんは去っていく。

 

「事務所行きましょう」

「あ、うん」

「ちゃんと覚えといてくださいね、鷲尾さん」

「いや、君も忘れないでよ?」

 

 清水さんとの食事の約束の事を話しながら、気を取り直して事務所に向かう。

 

「と言うか、奈月くん。清水さんと何があったの?」

「それは多分……この前も言ったと思いますけど、姉ちゃんと姉ちゃんの知り合いと清水さんでご飯行くって話したじゃないですか」

「あー、なんかあったね。そんな話も」

 

 それ関連だと思う。

 姉ちゃんは楽しそうだったけど。何があったかは聞いてない。

 

「あ、すみません。鷲尾と奈月です。今日も部屋を」

 

 事務所に着いて、鷲尾さんが伝えると斧田さんから話があるとの事。少し待って欲しいと言われて、俺と鷲尾さんはその場で待機する。

 

「何の話だろ」

「んー……どれですかね」

「そんなに思い当たる節ある?」

 

 俺の学校のこととか。雅くんと仲良く出来てるかとか。そんな感じか。

 

「ごめんね、二人とも」

 

 俺たちが考察するほどの間もなく、斧田さんがやってきた。

 

「もう手短に伝えるけど、君達後二週間くらいで心の準備できる?」

 

 俺と鷲尾さんの「はい?」という声が重なった。

 

「Live2Dが出来てね。もうデビュー目前って所まで来てるから」

 

 あ、それか。


「……そういえば、俺たちVtuberになるんでしたね」

「おい」


 もうビルに来るのが、勉強しに行くのが目的になってたからちょっと抜けてたや。


「あはは。まあ、また時間がちゃんと出来たら詳細に伝えるよ。今日も頑張ってね」


 斧田さんが行ってしまった。

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