第42話 今日、誰も居ないんだよね


 土曜日の午前。


「あ、そうそう……奈月、私夕方から出かけるから」

 

 俺が家を出ようとした所で姉ちゃんがそう言った。

 

「この前話してたヤツ?」

「そう。清水さんと、私の後輩とね」

 

 もう後輩じゃないか、と姉ちゃんは笑いながらに言う。

 

「そっか」

「ご飯は自分で何とかしてね。食べに行ってもいいし、買ってきても良いし」

 

 どうしたものか。

 まあ、何とかなるはず。

 俺は適当に姉ちゃんに了承の返事をしてから「行ってきます」と扉に手をかける。

 

「行ってらっしゃーい」

 

 姉ちゃんの声に送られて外に出た。

 

「……ま、着いてからでいっか」

 

 一回取り出したスマホをポケットに戻す。

 鷲尾さんとは会えるはずだし、何だったら雅くんも居るし。着いてからご飯、誘ってみよう。

 

「────おはよ、奈月くん」

 

 ビルに着くと大きな紙袋を持った雅くんが『待ってました』と言った感じで立ってた。

 

「おはよ、雅くん。結構な荷物だけど」

「まあまあ。中に入ろうよ」

 

 そう言って先に雅くんが入っていってしまう。鷲尾さんはまだなのかな。

 

「一応、鷲尾さんに……先に中に入ってますよ、と」

 

 連絡を入れる。

 メッセージに既読がつく。

 流石に部屋にまで行くのは、鷲尾さんが来てからで良いかと事務所前で留まる事に。

 

「そうだ、雅くん」

 

 鷲尾さんはまだ居ないけど、先に雅くんに確認しておくのも良いか。

 

「うん?」

「今日、ウチに誰も居なくて」

「……!」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間に雅くんが両腕を上げてファイティングポーズを取った。

 

「な、何? どうしたんですか?」

「漫画でよく見るセリフ回しだったから、思わず」

「あー」

 

 確かに、とも思ったけど取り敢えず話を進めよう。

 

「一緒にご飯とか」

「今日はムリ」

 

 キッパリ断られてしまった。雅くんはスマホを取り出して、メッセージを送ってくる。

 

『実はもう、先に予定入ってて(>人<;)』

 

 俺が「そうだったんですね。なら仕方ないか」と相槌を打てば「先輩に誘われてて」と。

 

「先輩」


 事務所の先輩かな。


「あ、事務所の先輩とかじゃなくて。それと学校の先輩でもないけど。オレ、バイトしてた事あったから、その時の」

 

 それで今でもメッセージのやり取りをしてるのだとか。それじゃ俺には誰か分かんないか。

 

「ごめん、二人ともお待たせ」

 

 そんな話をしてると、鷲尾さんもようやく到着して合流する。

 

「……金華さん、その紙袋は一体」

 

 鷲尾さんが気になったのか、尋ねると「いや、これはちょっと関係ないので」と背中の方に隠した。

 

「まあ、いっか。取り敢えず部屋に行こっか」

 

 鷲尾さんの言葉に俺と雅くんは頷く。いつも通りに事務所で確認をしてから、部屋に向かう。

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